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失われた指先を爪がどう再生させるのか

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130802

原文:Nature (2013-06-12) | doi: 10.1038/nature.2013.13192 | How nails regenerate lost fingertips

Ed Yong

マウスの研究から、爪の根元には幹細胞があり、これが部分的に切断された指先を再生させることが明らかになった。 この再生に使われるタンパク質やメカニズムは、 両生類の再生過程で使われるものと類似している。

正常なマウスでは、骨を含む指先が切断から5週間で再生する(上)。しかし、Wntシグナル伝達経路を持たないマウスでは再生が起こらなかった(下)。

Credit: Ref.1

サンショウウオは、肢を失っても新しい肢が生えてくる。ヒトなどの哺乳類ではそうはいかないが、失ったのが指先である場合、爪が十分残っていれば指は再生する。それがわかったのは40年ほど前のことだが、なぜ爪が必要なのかが今回ついに明らかになった。

ニューヨーク大学(米国)の伊藤真由美を中心とする研究チームは、部分的に切断された指の再生が、爪の根元の下にある幹細胞の集団によって行われることをマウスによる研究で明らかにした。しかしその再生は、爪の直下にある上皮組織が十分に残っていなければ起こらないという。その研究成果はNatureオンライン版に6月13日に掲載された1

マウスの再生過程は、両生類の再生能力と比較すると限られたものではあるが、関与する分子、そして神経が必要だという事実など、多くの特徴が共通している。「その類似性に驚きました」と伊藤。「両生類で働いている再生メカニズムが人類でも部分的に維持されているのかもしれません」。

伊藤と武尾真らの研究チームは、まず通常の爪の成長過程について調べた。彼らは、爪の細胞の集団から生まれる全ての娘細胞が青くなるように標識することにより、爪の根元には自己複製する幹細胞の小集団が存在し、その集団が爪の持続的な成長を支えていることを明らかにした。その絶え間ない成長は、Wntファミリーのタンパク質によって伝えられるシグナルに依存していて、このシグナル伝達経路を阻害するとマウスの爪は形成されなくなる。

そして研究チームは、マウスの失われた指先の再生にも通常の爪の成長と同じシグナル伝達経路が関与していることを発見した。指の先端が切断されると、残った爪の下においてWntシグナル伝達経路が活性化され、そこに神経が誘導される。神経は、FGF2というタンパク質を介して間葉細胞を増殖させ、それが骨や腱、筋肉などの組織を再生させる。5週もすれば指は元通りになる。

しかし、切断部位が爪よりも根元側で、爪の根元にある上皮組織がごっそり失われると、指は全く再生されない。この場合、Wntシグナル伝達経路は全く活性化されず、神経も伸びてこなければ他の組織も再生しない。

ノースイースタン大学(米国マサチューセッツ州ボストン)の再生生物学者James Monaghanは、「これは素晴らしい論文です」と絶賛する。「WntやFGFのようなシグナル伝達経路や細胞機構が全てサンショウウオと同じらしいなんて、まさに驚きです」。

Wntシグナル伝達経路は種を超えて広く保存されていて、また、ヒトでも切断された指先の再生に爪が必要なことが過去の研究で明らかにされていることから、今回示されたメカニズムがヒトや他の哺乳類にも当てはまる可能性は高い。

チュレーン大学(米国ルイジアナ州ニューオーリンズ)の分子生物学者Ken Muneokaは、「両生類とマウスの再生プロセスが似ているということは、あまり遠くない将来にヒトの再生が実現されることも期待できます。これは励みになります」と話す。

しかし、ケンタッキー大学(米国レキシントン)の再生生物学者Ashley Seifertは、両者を同等に考えることに疑問を 抱く。「両生類は指をどれだけ切り落としても完全に再生しますし、爪という器官自体持っていないのです」とSeifertは説明する。哺乳類が「爪という器官に依存するメカニズムによって、指先を再生させる能力を別途進化させた」こともあり得るというのがSeifertの考え方だ。

Seifertは、爪を完全に切り落とすと、残った組織でWnt経路を活性化させても全く再生が刺激されないことも指摘する。「研究チームが概説しているメカニズムが重要ならば、今回の実験結果は、少なくとも再生に必要な刺激の一部を示しているのでしょう」と言う。詳細が明らかにされないかぎり、失われた手足がヒトで再生されるのかどうか、見通しが立つことはなさそうだ。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Takeo, M. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature12214 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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