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米国の大干ばつを予測できない「気候モデル」

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130727

原文:Nature (2013-04-18) | doi: 10.1038/496284a | Climate models fail to ‘predict’ US droughts

Quirin Schiermeier

現時点で最高水準の気候モデルを使ったシミュレーションでも、過去の大干ばつを再現することはできたが、その時期までは再現できなかった。

Credit: THINKSTOCK

テキサス西部の不毛な平野を眺めながら移民が言う。「水さえあれば、すばらしい土地だっただろうな」。苦々しげに農夫が答える。「地獄だってそうさ」。

この古いテキサスジョークは、同州が有史以来最も過酷な干ばつに見舞われた1950年代に生まれたのだろう。テキサス州は、2012年も雨に恵まれなかった。科学者たちは、今後、気候変化が進むにつれて、北米南西部の全域でますます干ばつが起こりやすくなると予想している1

未来のメガ干ばつ(大干ばつ)を高い信頼度で予想できれば、農業従事者にとっても水管理者にとっても非常にありがたい。しかし、2013年4月の欧州地球科学連合(オーストリア・ウィーン)の年次総会で発表された論文は、現在の気候モデルでは、そうした予想はまだできないことを示している。

コロンビア大学ラモント・ドハティー地球観測研究所(ニューヨーク州パリセード)のSloan Coatsらは、現時点で最高水準の気候モデルを使って、過去1000年間に北米南西部で起きたことがわかっている干ばつを、シミュレーションできるかどうか検証してみた。このモデルでは、大気中の二酸化炭素濃度、日射量の変化、火山の噴火による火山灰など、気温と降水量に影響を及ぼす因子について、現実的な数字を使用している。

モデルでは、エルニーニョ・南方振動(ENSO)の変化も考慮されている。ENSOは、熱帯太平洋で繰り返し起こる温度異常で、米国西部や世界の多くの地域の天気に大きな影響を及ぼす(海水温が高くなるエルニーニョは、しばしば豪雨や洪水を引き起こし、海水温が低くなるラニーニャは、干ばつを引き起こす傾向がある)。

研究チームは、このシミュレーションの結果を、樹木の年輪の幅に基づいて過去の干ばつを詳細に特定した「北米干ばつ地図」のデータと比較した。結果は、研究者らを困惑させた。シミュレーションから、数十年ずつ続く大きな干ばつがいくつか「予想」できたものの、既知のメガ干ばつの時期とは一致しなかったのだ。

実際、降水量に影響を及ぼす変数を現実的な数値にしたときと、対照実験として変数を非現実的に一定に保った条件で、シミュレーションをしてみた。すると両者共に、実際に干ばつが起こるパターンとは全く一致しなかったのだ。ラモント・ドハティー地球観測研究所で歴史的な気候パターンを研究する科学者で、今回の研究に参加しているJason Smerdonは、「このモデルには、大きな干ばつを引き起こすダイナミクスの一部が欠けているようです」と言う。

研究チームは、他の気候モデルも試してみたが、結果は同じようなものだった。世界の気温が今日と同じくらい高かった西暦900年から1200年までの中世気候異常の時代に、今日の北米南西部で、数十年にわたって続く干ばつが繰り返し発生したのだが、それを再現することもできなかった。

最大の問題は、ENSOのエルニーニョ相とラニーニャ相の間の循環を、これらのモデルが再現できない点にあるのかもしれない。多くの科学者は、北米南西部の干ばつの主要な原因はラニーニャなのではないかと考えている。ENSOが東アフリカの降水量の変動に果たす役割2について研究したウッズホール海洋研究所(米国マサチューセッツ州)の気候科学者Jessica Tierneyは、「現実世界のENSOは、気候モデルよりはるかに乱雑なふるまいをします」と言う。「ENSOが過去にどのように変化してきたのかは、よくわかっていません。また、気候変化に反応してどのように変化するかもわかりません。これは、私たちが直面する大きな不確実性の1つです」。

既存のモデルは、エルニーニョとラニーニャを再現できないだけでなく、降水量に影響を及ぼす雲や植生などの因子についても、十分には考慮されていない。ただ、降水を阻害し、干ばつを長びかせるような大気と海洋のダイナミクスは、本質的にランダムであるのかもしれず、その場合、予測はほとんど不可能になる、とSmerdonは付け加えた。

今回の知見は、「地球温暖化に伴う降水パターンの変化をどのように予測するか」という、より一般的な問題の難しさを示している。ある地域の気候がどの方向に変化するのか、複数のモデルの予想が食い違うことは珍しくない。例えば、コロラド州水保全協議会のために、同州の平均降水量が2050年までに増加するか減少するかについて複数の見積もりが行われたが、その予想は一致しなかった3

それでも、このような不確実性が、より大きな描像を変えることはないと科学者たちは言う。「気候モデルは完全ではありませんが、全体的な傾向は正しく予想することができます」とTierneyは言う。「今後、北米南西部の気温が上昇し、水不足が深刻化することは、かなり確実です」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Seager, R. et al. Science 316, 1181-1884 (2007).
  2. Tierney, J. E., Smerdon, J. E., Anchukaitis, K. J. & Seager, R. Nature 493, 389-392 (2013).
  3. Ray, A. J. et al. Climate Change in Colorado: A Synthesis to Support Water Resources Management and Adaptation (Colorado Water Conservation Board, 2008); available at go.nature.com/xs8471.

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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