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“最も近い銀河”までの正確な距離

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130622

原文:Nature (2013-03-07) | doi: 10.1038/495051a | An accurate distance to the nearest galaxy

Bradley E. Schaefer

銀河系(天の川銀河)のすぐ隣にある銀河、大マゼラン雲への距離を正確に測定すれば、宇宙に満ちているダークエネルギー(暗黒エネルギー)の正体に迫る足がかりになる。今回、食連星を使う方法で誤差2.2%の値が得られた。

地球から天体までの距離は、天文学では非常に重要だ。天体の距離がわかれば、宇宙の構造を理解することができる。例えば太陽系の姿を理解したり、銀河系の外にある銀河を識別したりすることができる。天体の物理的大きさの推定値は、天体までの距離が増えるほど大きくなる。また、天体が出しているエネルギーの推定値は、距離の2乗とともに大きくなる。現在、非常に遠くにある超新星の距離を測定して、宇宙の膨張の歴史を解明し、謎めいたダークエネルギーの正体に迫る試みが進んでいる。

こうした天体までの距離は、「宇宙の距離梯子」をもとに導き出されている。距離梯子とは、近くの天体までの距離をもとに、より遠くの天体の距離を決め、それを繰り返してさらに遠い天体の距離を求める方法のことだ。コンセプシオン大学(チリ)天文学科のGrzegorz Pietrzyńskiらは今回、距離梯子の「段」の中でも特に重要な大マゼラン雲(図1)までの距離を、非常に正確に求め、Nature 2013年3月7日号76ページに報告した1。これまで、大マゼラン雲の距離は、距離梯子を上っていくうえでボトルネックとなっていた。

図1:大マゼラン雲
Pietrzyńskiらは、私たちの銀河系のすぐ隣にある銀河、大マゼラン雲までの正確な距離を決定した1。大マゼラン雲の距離は、ほかの銀河の距離を決定するための基礎となっている。

Credit: ESA/NASA/Hubble

距離梯子の1段目は地球の大きさである。天文学の歴史を振り返ると、2段目の地球・太陽間の距離は、地球の大きさから求められた。具体的には、金星が太陽の前を横切る時間が、地球上の観測点によって違うことを利用した。3段目は近い恒星までの距離で、このときは視差による方法、つまり、地球が太陽の周りを回るにつれ、近くの星の位置がふらついて見える現象を利用した。

宇宙論や銀河系外の研究のためにさらに距離梯子を上るには、ほとんどすべての方法が、大マゼラン雲までの距離という段を経由する。大マゼラン雲は、かつては「銀河系に最も近い銀河」だった(現在ではもっと近い銀河が見つかっている)。もしも大マゼラン雲までの距離が10%狂っていれば、あらゆる銀河の距離(宇宙の膨張率であるハッブル定数を使って計算される)も同じように10%狂ってしまう。逆に、大マゼラン雲までの非常に正確な距離が得られれば、それを遠い超新星の測定と組み合わせると、ダークエネルギーの性質を示す値の測定精度が大きく向上し、その結果、ダークエネルギーの正体が明らかになる可能性がある。

大マゼラン雲の距離は、以前から議論の絶えない問題だった。数十年にわたって測定が行われてきたが、発表された値は常にばらついていた。2001年までの10年間に発表された値だけで36%のばらつきがあったが、報告されたエラーバー(グラフで誤差の範囲を示す棒)は、このばらつきよりずっと小さかった2。つまり、大マゼラン雲の距離を決定するために使われたさまざまな方法には、明らかに、大きくて原因不明の系統誤差があった。

2001年、ハッブル宇宙望遠鏡の重点観測計画で、影響力の大きな「キープロジェクト」が、50.1±2.3キロパーセク(16万3400±7500光年)という値を発表した3。これは、それまでのばらつきの真ん中辺りの値であり、エラーバーの大きさも妥当なものだった3。しかし、この発表はバンドワゴン効果(勝ち馬に乗る風潮)を生んだ。それから6年間、天文学者たちはこの値を意識して、そこから大きく外れない値を発表した4

一方、ビラノーバ大学(米国ペンシルベニア州)を中心とするグループは、食連星を用いる別の測定法を開発し、4組の食連星に応用した5-8。2011年のノーベル物理学賞を受賞したジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)のAdam Riessが率いるSHOES計画は、このビラノーバ大学の手法を採用し、2011年、大マゼラン雲の距離を誤差3%で49.8キロパーセクと報告した9

今回、Pietrzyńskiらは、国際共同観測計画であるアローカリア計画の一環として、誤差2.2%の値を得た。チリにあるラスカンパナス天文台の口径6.5mの望遠鏡などを使い、大マゼラン雲の8組の食連星の距離を8年間かけて測定した成果である。

連星は、2つの星が互いの周りを回っているもので、食連星の場合、地球から見たとき、一方の星がもう一方の星の前を定期的に通過する。Pietrzyńskiらは、それぞれの連星について、食の期間と測定された星の速度から両方の星の正確な大きさを求め、一方、星のスペクトルからその表面温度を求めて、それらをもとに各連星の合計の固有光度を導き出した。そして、合計の固有光度と観測された明るさとを比べて、光の逆二乗則から連星の距離を決定した。

この方法は、学部学生レベルの天文学と物理学のみを使って極めて注意深く行われたものであり、信頼性は高く、距離梯子の低い方の段をすべて飛び越してしまった。Pietrzyńskiらは、8組の食連星の距離を平均し、大マゼラン雲の新しい距離を49.97±1.13キロパーセクとはじき出した。

しかし、今回の新しい大マゼラン雲の距離と、これまでに発表された値を比較すると、気になる問題が3つあることに気付く。第一に、アローカリア計画は以前、食連星の1つの距離を50.1±1.4キロパーセクと報告していた10。しかし、今回はその食連星の距離を49.3±0.5キロパーセクとしており、どうして値が変わったのかについては説明がない。

第二の点はもっと気にかかる。ビラノーバ大学グループが報告した4組の食連星の平均距離は47.1±1.4キロパーセクで、アローカリア計画の結果とはかなり異なっている。両グループの採った方法の主な違いを見ると、アローカリア計画では低温の星を使っていること、星の表面温度を決定するのに表面輝度と色との経験則を用いたことが挙げられる。対照的に、ビラノーバ大学グループは高温の星を使い、温度の推定には理論モデルを使っている。

気になる第三の点は、新しい距離がキープロジェクトの値と非常に近いことだ。差はPietrzyńskiらが示したエラーバーの10分の1しかない。かつてのバンドワゴン効果をどうしても思い出してしまう。

今後、どういう成果が期待できるだろうか。現在、10個以上の食連星の観測が進んでおり、結果が出るのは近いとみられる。また、今回の方法は、さんかく座にあるM33銀河の食連星にも応用されるだろう。しかし、2013年秋に欧州宇宙機関(ESA)が探査機ガイアを打ち上げることになっており、そうすれば状況は大きく変わるはずだ。

ガイアはすばらしい性能を持ち、視差によって正確な距離を測定することができ、大マゼラン雲の距離でさえ視差で測定できる。距離梯子の大マゼラン雲よりも上の段に上るために、さまざまな標準光源が使われているが、ガイアは、それらの距離について、決定版となるキャリブレーション(比較校正作業)を行う予定だ。それにより、大マゼラン雲の距離の精度がボトルネックになっている現状は解消されるだろう。

ガイアは、大マゼラン雲の多数の星の視差データを合成平均誤差1%で得て、大マゼラン雲の構造を明らかにするだろう。したがって、大マゼラン雲の食連星を調べる方法が宇宙物理学の最先端である状況は、今後数年間に限られるはずだ。

(翻訳:新庄直樹)

Bradley E. Schaeferは、ルイジアナ州立大学物理・天文学科(米国)に所属。

参考文献

  1. Pietrzyński, G. et al. Nature 495, 76–79 (2013).
  2. Benedict, G. F. et al. Astron. J. 123, 473–484 (2002).
  3. Freedman, W. L. et al. Astrophys. J. 553, 47–72 (2001).
  4. Schaefer, B. E. Astron. J. 135, 112–119 (2008).
  5. Guinan, E. F. et al. Astrophys. J. 509, L21–L24 (1998).
  6. Fitzpatrick, E. L. et al. Astrophys. J. 564, 260–273 (2002).
  7. Ribas, I., Fitzpatrick, E. L., Maloney, F. P., Guinan, E. F. & Udalski, A. Astrophys. J. 574, 771–782 (2002).
  8. Fitzpatrick, E. L., Ribas, I., Guinan, E. F., Maloney, F. P. & Claret, A. Astrophys. J. 587, 685–700 (2003).
  9. Riess, A. G. et al. Astrophys. J. 730, 119 (2011).
  10. Pietrzyński, G. et al. Astrophys. J. 697, 862–866 (2009).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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