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緊縮財政に適応したキャンパス作り

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130519

原文:Nature (2013-02-07) | doi: 10.1038/494019a | Campus girds for lean times

Erika Check Hayden

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の新たな医療拠点は、大学の研究体制維持にも貢献しようとしている。

サンフランシスコ(米国カリフォルニア州)のダウンタウンから南東へ約1km。そこに、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の新しいミッションベイ・キャンパスがある。広さは23haあり、ここを訪れると、米国の不景気がウソのように思えてしまう。この地区は、サンフランシスコ再開発計画の主役と位置づけられている。新たに植栽された公園、新しい研究室、バイオテクノロジー会社や製薬会社の事務所が作られ、2015年にオープン予定の289床の医療センター(病院)の建設現場もある。

スタートから10年を経たUCSFのミッションベイ・キャンパスは、緊縮財政に適応しながら前進している。

Credit: UCSF

今から10年前、最初の建物がオープンしたとき、UCSFミッションベイ・キャンパスは「これまで建設された臨床研究キャンパスの中で最も野心的であり、大学における生物医学研究事業の成長を期待した高価な賭け」と評された。総費用30億ドル(約2900億円)のプロジェクトの始まりだった。

しかし現在、緊縮財政によって米国立衛生研究所(NIH)の研究助成金は減額され、米国の医療制度改革によって病院の収益が脅かされるようになり、状況は一変した。ミッションベイ・キャンパスはいまや、医学研究拠点に対する脅威と立ち向かい、投資から寄付金に至るまで、健全な運営を維持するためにさまざまな戦略を構築しなければならない。そのような意味で、衆目を集めるケーススタディー(事例研究)となっているのだ。「ミッションベイのビジネスモデルは、これまでとは全く異なったものになると思います」。こう話すのは、スローン・ケタリングがんセンター(米国ニューヨーク州)の医療政策アナリストPeter Bachだ。

UCSFは、他の大学なら負担しないような費用も抱えている。例えば、医療センターの建設費用、増え続けるカリフォルニア州職員の退職金、州からの補助金削減の充当額などであり、その結果、UCSFの予算は2015年に赤字化する可能性がある。そのうえ、医療センターがオープンするときには、オバマ大統領の医療制度改革に組み込まれたコスト管理によって、研究費用をまかなってきた病院の収益が減るおそれもある。例えば、現在のUCSF医療センターの収入のうち、過去10年間に2億9500万ドル(約280億円)が大学の運営に回されてきた。

それより悪い材料がNIHの予算削減で、米国内でNIHの研究助成金を最も多く受領している研究機関の1つであるUCSFにとって、大きな問題となるはずだ。「UCSFや主要大学病院に対する助成金の大幅削減で、大学の研究予算は完全に干上がってしまうでしょう」とBachは話す。

UCSFの運営管理者は、事業計画を進化させることによって、今後の状況を、より確かなものにしたいと考えている。ミッションベイで起工式が行われたとき、UCSFの本部から4km離れたミッションベイ・キャンパスは、「孤立して荒れ地になる」と一部の人々は警告した。しかし、更地からのスタートであったため、大学の研究室に隣接するように企業が入居する建物が建設され、これが、基礎研究の臨床への応用を加速して、企業の投資を呼び込んだのだった。

実際、事業計画はうまく進んでいるように見える。かつての操車場と倉庫の跡地には、7つの大きな研究棟と、バイエル社、ファイザー社など大手製薬企業9社の出先研究所、そして、大学での研究プロジェクトを発掘して、資金提供を目的とするベンチャー投資会社10社の出先事務所が建設された。

大学当局者の報告によれば、キャンパス発の新興企業群を合計すると、追加株式発行によって2億3000万ドル(約219億円)を調達し、約300人を雇用したという。「起業を支援し、バイオテクノロジー企業から権利使用料(ロイヤルティー)を受け取る事業は、大学にとって大きな利益を生み出してきました。これこそが、未来へと向かう波なのです」とプリンストン大学(米国ニュージャージー州)の医療経済学者Uwe Reinhardtは話す。

UCSFの運営管理者は、民間の慈善活動や団体にも依存している。例えばミッションベイの建設資金の約3分の1は、寄付金によってまかなわれている。新設される病院は豪華に設計され、しかも、先駆的治療法の開発研究が行われている研究室に近接している。こうした点が、資金提供者の気持ちを強く動かすはずだと運営管理者は話す。「臨床診療と革新的な科学研究が連携すれば、資金提供者を含めて、多くの人々の心を躍らせることができるはずです」。こう話すのは、前立腺がん外科医で、現在のUCSFがんセンターの戦略的計画と臨床サービスの責任者Peter Carrollだ。

がんは、新しい医療センターに高い採算性をもたらす医学領域だ。その治療には、各種機器、外科手術、薬剤が関係し、数万ないし数十万ドルの費用がかかるが、高い収益がもたらされ、他の医学領域ほど収益が減る可能性は低い。その理由として、米国民の高齢化によって今後10年間にがん発生率が爆発的に上昇すること、また、難解な健康保険制度でがん関連医療と抗がん剤に支払われる保険金が高額であることなどが挙げられる。

どのような方法をとるにせよ、UCSFやその他の超一流の大学病院は、現在の米国経済の混乱を生き抜いて、研究活動を着実に進めていくだろう、と評論家は指摘する。こうした医療センターでは、他にない独自の専門医療が行われ、これに対しては、保険会社から十分な保険金が支払われる。また、地元の議員も、選挙区のコミュニティーにとって非常に重要な施設ととらえている。例えばUCSFは、サンフランシスコ市で2番目に大きな雇用機関なのだ。Reinhardtは言う。「問題点を克服せずに、巨額の収益を回復できた大学病院はないのです」。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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