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セミの翅が細菌をばらばらにする

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130505

原文:Nature (2013-03-04) | doi: 10.1038/nature.2013.12533 | Insect wings shred bacteria to pieces

Trevor Quirk

セミの翅の表面の微細な柱状の構造体「ナノピラー」が、細菌の細胞膜を引き裂く。

クランガーゼミ(clanger cicada; Psaltoda claripennis)というセミが持つ、筋の入った翅は、物理的な構造だけで細菌を殺すことが明らかになった。このような機能を持つ天然の表面構造が見つかるのは初めてのことで、Biophysical Journal 2013年2月19日号に掲載された論文では、この翅がナノメートルスケールでどのように機能しているのかを示す、詳細なモデルが示されている1

このセミの翅には、微細な柱状の構造体「ナノピラー」が広く表面に六角形をなすように並んでいる。このナノピラーの先は丸い針のような形をしている。細菌が翅の表面に取りつくと、その細胞膜がナノピラーの表面にスパイクのように突き刺さる。すると細胞膜は、ナノピラーとナノピラーの間隙へと引き伸ばされ、その膜にはきわめて大きなひずみが発生する。膜が十分に柔らかければ、その細胞は破裂する(写真)。

翅の表面に取りついた細菌に、ナノピラーがスパイクのように突き刺さる(左)。細胞膜は、ナノピラーとナノピラーの間隙へと引き伸ばされ、その膜には大きなひずみが生じ、膜が十分に柔らかければ、その細胞は破裂する。

Credit: VESELIN BOSHKOVIKJ

論文の代表執筆者であるスウィンバーン工科大学(オーストラリア・ビクトリア州ホーソン)のElena Ivanovaは、ナノピラーが実は細菌の細胞に穴をあける訳ではないことを知って驚いた、と明かす。その破裂のようすはむしろ、「ゴム手袋のような、伸縮性のあるシートを引っ張る」ようなもので、「両手で持ってゆっくり引き伸ばすと、中央部が薄くなって裂け目が入りますよね」とIvanovaは説明する。

そのモデルを検証するため、研究チームは細菌にマイクロ波を照射し、膜の硬さが異なる、さまざまな細胞を作り出した。硬い細菌ほどナノピラーの間で破裂しにくいだろうというのが、研究チームの仮説だった。実験の結果、そのモデルが正しいことが確認され、このセミのナノピラーによる防御機構は、十分に柔らかい膜を持つ細菌にしか有効でないことも明らかにされた。

このセミの翅の物理的防御という特性を人工素材で再現するには、その翅の研究をさらに進める必要がある。今回の研究チームには加わっていないマギル大学(カナダ・モントリオール)の化学工学者Anne-Marie Kietzigは、このモデルに基づく素材がいつの日か、バスの手すりのように、公共の場で病原体のすみかになっている場所の表面素材へと応用されるのではないかと考えている。「環境に悪影響を及ぼすことも多い、洗浄剤のようなものも必要ありません。放っておいても殺菌してくれるのです」とKietzigは語る。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Pogodin, S. et al. Biophys. J. 104, 835–840 (2013).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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