News

灼熱の水星で、大量の氷を確認

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130202

原文:Nature (2012-11-29) | doi: 10.1038/nature.2012.11922 | Stores of ice confirmed on Sun-scorched Mercury

Maggie McKee

水星探査機メッセンジャーにより、水星の北極付近に純粋な水の氷が存在することが確かめられた。

灼熱の水星に、氷の世界が存在していることがわかった。水星の表面は、場所によっては鉛が溶けるほどの高温だが、極は極寒の世界であり、クレーターの内部には1兆tの水の氷が存在するという(これは、例えば1000km四方を厚さ1mの氷が覆っている量に相当する)。

水星の極地域にある、太陽光の差し込まないクレーターには、水の氷が大量に存在する。

Credit: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington

以前から、水星には氷が存在するのではないかとみられてきたが1、今回、米航空宇宙局(NASA)が2004年に打ち上げ、現在、水星を周回している探査機メッセンジャーによって確認された。地球の月にも類似のクレーターがあって、その内部に氷が存在するが、水星の氷はそれよりずっと純度が高いとみられる。氷は彗星や小惑星によって太陽系中心部に持ち込まれるが、その捕捉は、月よりも、太陽に最も近い惑星である水星のほうが効率的であるとみられる。今回の発見を報告した3本の論文は、Scienceオンライン版に2012年11月29日に掲載された2,3,4

水星表面は、赤道付近では400℃ほどの高温になる一方、極地域にある多くのクレーターの底には、太陽の光が永久に差し込まない。水星の自転軸は公転面に垂直で、極を太陽に向けることはないからだ。約20年前、地球から水星に向けてレーダー電波を発射する観測が行われ、その極に近い所に、電波の反射率の高い場所があることがわかった。この観測結果は、そこに数mの厚さの純粋な水の氷の板があってもおかしくないことを示していた。

しかし、ジョンズホプキンス大学応用物理学研究所(米国メリーランド州ローレル)の惑星科学者David Lawrenceは、「レーダーでは、水の氷であることを確認することはできません」と話す。例えば、それが硫黄でも同様のレーダー信号が得られる可能性があるからだ。

今回の観測では、3つの異なる観測方法で得られたデータによって、水の氷が存在するという解釈が正しいことが実証された。まず、メッセンジャーの「水星レーザー高度計」の赤外レーザーパルスを水星表面に向けて発射すると、北極に近い太陽光の差し込まない9つのクレーターの内部で、赤外レーザーの反射率の高い場所が見つかった2。これらの反射率の高い場所は水の氷だと考えられる。さらに、別のチームが水星の地形を考慮に入れた熱モデルにより、常に-170℃以下とみられる超低温領域の分布を調べた。その結果、これらの反射率の高い場所と完全に一致した3

3番目の研究チームは、メッセンジャーの中性子分光計を使い、レーザー反射率の高い場所に水素が存在するというデータを得た4。これは水の氷に閉じ込められた水素だと考えられる。分光計を使った論文の筆頭著者であるLawrenceは、「すべてのデータを合わせると、水以外の物質は考えられません」と話す。

では、この水はどこから来たのか。メッセンジャーの赤外レーザーで見つかった、氷とみられる反射率の高い場所の周囲には、反射率の低い場所があり、この場所は、太陽からの光と熱を少しだけ多く受ける。中性子の測定から、この反射率の低い場所には、約10cmの厚さの物質の層があり、その層は、それ以上に厚い氷を覆っているらしいことがわかった。

5000万年前のもの?

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)の惑星科学者で、熱モデル論文の筆頭著者であるDavid Paigeは、「反射率の高い場所の周りにある反射率の低い物質は、彗星や小惑星衝突で放出された複雑な炭化水素でできている可能性があります」と言う3

氷でできた天体が水星にぶつかると、その成分は気化と凝結を繰り返しながら、時間とともにより温度の低い極へと移動し、そこで極寒の極のクレーター内に付着したのではないか、とPaigeらは推定する。

しかし、極であっても、クレーターの内部の一部には太陽光が差し込むこともある。太陽光は水の氷を蒸発させ、後には、氷を覆う炭化水素の堆積物が残るだろう。堆積物は、徐々に厚くなり、太陽光によって化学変化して黒っぽくなる。

では、氷の生成時期はいつなのか。もしも10億年前にできたとするなら、小規模の天体衝突によって、氷は地表下に埋まってしまっているはずだ。だから、氷はもっと最近できたもので、5000万年前ぐらいのものかもしれない、とメッセンジャー計画の研究者たちは考えている。「現在ある氷は、大昔にできたものではありません」とPaigeは話している。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Slade, M. A., Butler, B. J. & Muhleman, D. O. Science 258, 635-640 (1992).
  2. Neumann, G. A. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1229764 (2012).
  3. Paige, D. A. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1231106 (2012).
  4. Lawrence, D. J. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1229953 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度