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フェルミγ線宇宙望遠鏡のソフトウェアを修正

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130213

原文:Nature (2012-11-08) | doi: 10.1038/491172a | Space telescope to get software fix

Ron Cowen

フェルミγ線宇宙望遠鏡のソフトウェアがアップグレードされ、ダークマターの発見に向かって一歩前進する。

2008年に打ち上げられたNASAのフェルミγ線宇宙望遠鏡は、宇宙の中でも特に激しい活動領域に検出器を向けてきた。そして、これまで観測された中で最高レベルのエネルギーを持つ光子、つまり可視光の数十億倍のエネルギーを持つγ線光子を、いくつか記録してきた。しかし、それらγ線の特に興味深い対象が、時々観測の網の目をすり抜けてしまい、天文学者を残念がらせていた。

フェルミγ線宇宙望遠鏡は、ソフトウェアの修正を経て、より高エネルギーのγ線を検出できるようになった。

Credit: NASA/General Dynamics

世界最高のγ線望遠鏡の目を曇らせて、特に高いエネルギーを持つγ線を観測できなくさせていたのは、ソフトウェアの欠陥と1台の検出器のメモリー不足だった。フェルミ衛星にこうした欠陥があることは以前からわかっていたが、ほとんど公表されていなかった。これらの欠陥は、低エネルギーγ線の観測には特に影響を及ぼさない。けれども、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(米国)の素粒子物理学者で、フェルミ宇宙望遠鏡チームのメンバーとして観測装置の設計に協力したBill Atwoodによると、ダークマターやγ線バースト(恒星が起こす非常に激しい爆発)の正体を解明するための手がかりとなる100億電子ボルト(10GeV)以上の高エネルギーγ線を観測する際に、大きな妨げになっているという。

研究チームは現在、この問題を解決しつつある。2012年10月下旬から11月上旬にかけて米国カリフォルニア州モンテレーで開催された第4回国際フェルミシンポジウムでは、メモリー不足問題を回避する新しいソフトウェアのアップロードをおえ、テストを行っているところだと報告された。「Pass 8」と呼ばれるこのプログラムは、2013年末までに通常運用に入ることになっていて、10GeV以上のγ線のデータ量を約60%増やすと期待されている。これによって、「フェルミ衛星は生まれ変わり、新しい科学が展開されることになるでしょう」とAtwoodは言う。

粒子加速器で実験している物理学者は、多くの場合、データから何が見えるかを確認すると、数か月以内にソフトウェアを改訂・改良していく。しかし、フェルミ衛星の研究チームがγ線データの解析用アルゴリズムの変更に着手したのは、打ち上げから4年も経ってからだった。ソフトウェアの修正にはたいへんな労力が必要になること、ミッションがそれなりに順調に進んでいたことから、本当に修正する必要があると確信するまで時間がかかってしまった、とフェルミチームの研究者でSLAC米国立加速器研究所(カリフォルニア州メンローパーク)のElliott Bloomは打ち明ける。

フェルミ宇宙望遠鏡に到来したγ線は、まずはトラッカーに飛び込む。トラッカーはγ線の飛来方向を決定する装置で、数層のシリコンストリップ検出器と、その間に挟まれたタングステン箔からなる。飛来した光子はタングステン箔によって電子・陽電子対に変換され、その飛跡がシリコンストリップに記録される。しかし、元のソフトウェアでは、高エネルギーγ線から生成する荷電粒子の複雑なシャワーを適切に扱うことができなかった。また、トラッカーを通り抜けてきた粒子のエネルギーをカロリメーターで測定することで、入射γ線のエネルギーがわかる仕組みになっていたが、このプロセスにも問題があった。元のアルゴリズムでは、入射してきたものが本当にγ線であったのか、それ以外の粒子(宇宙線など)であったのかを、確実に区別することができなかったのだ。

フェルミ衛星から地球に送られてきた生データの中には、これらの見落とされた信号が埋もれている。そのため、研究者らは、4年間の運用で得られていた過去のデータにPass 8を適用することで、見落とされた光子の一部を発見することができた。しかし、メモリーの欠陥があるため、そのデータは完全ではない。実は、トラッカーのシリコンストリップ検出器が収集する情報量が、メモリーに貯蔵できる情報量よりはるかに多いことは、衛星の打ち上げの2年前に行われたテストで明らかになっていた。「お粗末で間抜けなミスでした」とAtwoodは言う。

けれども当時は、ハードウェアを手直ししていたらミッションに遅れが生じるか、最悪の場合は中止になるおそれがあった。そこで、個々のシリコンストリップ検出器が収集したデータの一部を切り捨て、メモリーのオーバーロードを予防するようにしたのだった。今回の新しい手法では、すべてのシリコンストリップ検出器が収集したデータをまとめた後で、その一部を切り捨てるようにした。これにより、限られたメモリーを、より効率よく利用できることになった。

修理ソフトウェアのテストからは、きわめて有望な結果が出ている。シンポジウムでは、イタリア国立原子核物理学研究所(ピサ)のMelissa Pesce-Rollinsが、フェルミ衛星が検出した10回のγ線バーストをPass 8を使って再分析した結果を報告した。彼女の研究チームは、エネルギーが10GeV以上の光子を新たに4個発見した。そのうちの1個は、地球から37億パーセク(122億光年)も離れたところで起きたγ線バーストに由来するもので、エネルギーは27.5GeVもあった。これだけ遠い距離から飛来した光子のエネルギー観測値としては最大である。こうした光子は、背景放射のもやの中を通ってきており、宇宙がまだ進化の途上にあった時代の恒星に関する情報を提供してくれる。そもそも光子が通り抜けてこれたという事実自体が興味深く、宇宙の初期の恒星が一般的に推定されているほど大きくなく、数もそれほど多くなかったことを示唆している。「物理学者は常に完璧をめざして努力しています。今回のPass 8についても同じです」とPesce-Rollinsは言う。

今回の修理により、フェルミ衛星はダークマター粒子の手がかりの検出に一歩近づいたと言う研究者もいる。ダークマター粒子どうしが対消滅すると、高エネルギーγ線が生じると考えられているからだ。シンポジウムでは、マックス・プランク物理学研究所(ドイツ・ミュンヘン)のChristoph Wenigerが、銀河系の中心部からダークマターの対消滅を示唆する信号が検出されたと報告した。ここは、理論家によりダークマターが潜んでいると推測されている場所である。Pass 8は、これらの不確かな観測結果を、本物の発見へと導く力を持っているはずだ。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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