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ISON彗星は生き延びるか!?

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131206

原文:Nature (2013-10-09) | doi: 10.1038/nature.2013.13924 | Comet expected to survive close Sun encounter

Alexandra Witze

深宇宙からやって来たISON彗星が太陽に近づいている。天文学者たちは最初で最後の機会を逃さないよう、観測の準備を整えている。

Credit: NASA/ESA/Hubble Heritage Team (STScI/AURA)

ISON(アイソン)彗星は、内部太陽系を進んでいる。2013年11月28日には太陽に最も近づき、そのすぐそばを通過する(近日点通過)。天文学者たちの大きな興味は、この彗星が近日点通過を生き延びることができるかということだ。もし、ISON彗星が生き延びることができれば、12月の星空に輝く姿が裸眼でも見えるだろう。たとえ、彗星が近日点通過によってばらばらになったとしても、そこから学ぶことがたくさんあるはずだ。

ISON彗星は、太陽の極めて近く(おそらくロッシュ限界以下)を通過する非周期彗星で、このような彗星は少なくともこの200年間見つかっていない。非周期彗星とは、その軌道から判断して、深宇宙から太陽系内部に初めてやって来て、再び戻っては来ないとみられる彗星のことだ。また、このため、生まれたときの姿を保っていると思われる。

ローウェル天文台(米国アリゾナ州フラッグスタッフ)の天文学者Matthew Knightは、「ISON彗星の到来が非常に貴重な機会であるのは、そのためです。全く予想しなかったことが起こる可能性もあります」と話す。

ISON彗星は、2012年9月21日、ロシアの天文学者が「国際科学光学ネットワーク」(ISON)という国際観測計画の望遠鏡を使って発見した。彗星の名前もこの計画にちなむ。天文学者たちは、この彗星は「オールトの雲」のはずれからやってきたと考えている。「オールトの雲」は、冥王星のはるか遠方に球殻状に分布している、水などの氷でできた天体群だ。

太陽のそばをかすめる彗星は、太陽探査機SOHOの観測データとプロおよびアマチュア天文学者たちの分析によって、この18年間で2000個以上が見つかっている。こうした彗星の多くは、太陽の重力の潮汐力によってばらばらになったか、もしくは太陽の熱で蒸発したが、こうした彗星の通過現象を解析することで科学的な知見を得ることができる。実際、天文学者たちは、2011年にラブジョイ彗星が太陽大気を通過したとき、彗星の尾がどのように揺れるかを観察し、その観測結果から太陽の磁場モデルの妥当性を調べた1

チャンスは一度

Knightとサウスウェスト研究所(米国コロラド州ボールダー)のKevin Walshは、ISON彗星がばらばらになるのかならないのか、数値シミュレーションを使って調べた2。ハッブル宇宙望遠鏡などの観測によると、ISON彗星の直径は1~4kmとみられている。Knightらは、1965年の池谷・関彗星など、近日点通過を生き延びた他の彗星の例を踏まえ、ISON彗星は蒸発してしまわない程度の大きさはあるとみている。

しかしKnightは、「ISON彗星は、その密度によっては潮汐力によって分裂する可能性があります」と話す。それでも、ISON彗星の密度が典型的なものであれば、ほとんど無傷なまま通過するはずだ。一方、密度が小さければ、1994年にシューメーカー・レビー第9彗星が木星に衝突する前に分裂したように、ばらばらになるかもしれない。

天文学者たちは、ISON彗星が太陽に近づくにつれて起こる変化を探している。また、その速度や回転の変化も調べている3。2011年のラブジョイ彗星が発見されたのは近日点通過のわずか2週間前だったが、ISON彗星の場合は接近するかなり前に発見できたので、天文学者たちは人や機材を準備することができた。ISON彗星は、多数の地上の望遠鏡だけでなく、ガンマ線バーストを観測するために打ち上げられた米航空宇宙局(NASA)の観測衛星スウィフトでも撮影されている。

スウィフトは地球大気の外にあるので、紫外線波長で彗星を観測できる。紫外線波長でなら水酸分子(OH)を観測できるため、その量からISON彗星がどれだけの水をまき散らしているかが分かる。実際、スウィフトの観測では、ISON彗星が水酸分子の巨大な雲に取り囲まれていることが分かった。メリーランド大学カレッジパーク校(米国)の天文学者Dennis Bodewitsは、「その雲は、私が予想したよりもずっと見事なものでした」と話す。

ISON彗星は火星のそばを2013年10月1日に通過し、火星探査機マーズ・エクスプレスとマーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)も、通過するISON彗星の画像を撮影した。

ISON彗星の観測は、これから数週間でピークを迎えるだろう。11月28日は米国では祝日(感謝祭)にあたるが、Knightらにその日を家族と共に祝う予定はない。彼らは、米国立太陽天文台のアリゾナ州トゥーソン近くにある望遠鏡で、二度と戻って来ることのないISON彗星が太陽系を出て行くまで、その全てを観測し続ける。「観測のチャンスはこの1回だけなのです」とKnightは話す。

(翻訳:新庄直樹、要約:編集部)

参考文献

  1. Downs, C. et al. Science 340, 1196-1199 (2013).
  2. Knight, M. M. & Walsh, K. J. Astrophys. J. Lett. 776, L5 (2013).
  3. Samarasinha, N. H. & Mueller, B. E. A. Astrophys. J. Lett. 775, L10 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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