News

糞便入りカプセルで腸感染症を抑える

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131208

原文:Nature (2013-10-07) | doi: 10.1038/nature.2013.13885 | Faeces-filled pill stops gut infection

Sarah Zhang

糞便入りカプセルにより、クロストリジウム・ディフィシレ感染症の再発を抑えることができた。しかし、コストや製造の問題で、市販薬として開発するのは難しいかもしれない。

毎年約50 万人のアメリカ人が、クロストリジウム・ディフィシレ感染症にかかっている。

Credit: PHOTOTAKE Inc./Alamy

難治性の重篤な細菌感染症が、人間の糞便から採取された細菌で作ったカプセル剤で治療できるようになるかもしれない。

米国では、クロストリジウム・ディフィシレ感染症により、毎年約50万人が下痢と発熱に悩まされ、約1万4000人が死亡しているとされる。そして今では、再発性のクロストリジウム・ディフィシレ感染症を、「糞便移植」によって治療する医師も出てきた。糞便移植とは、健康な細菌をたくさん含む提供者の糞便を、浣腸、大腸ファイバー、または腸まで直接挿入された経鼻チューブを介して注入するという方法だ。

しかし、同じ提供者由来の細菌を含むカプセルを経口投与することでも「糞便移植」と同じ効果が得られることが、カリフォルニア州サンフランシスコで10月3日に開かれた学会で発表された。

カルガリー大学(カナダ・アルバータ)の感染症専門家Thomas Louieが、細菌の詰まったカプセルを31人のクロストリジウム・ディフィシレ感染患者に服用させたところ、1人を除いて全員が治癒した。カプセルの経口投与は、他の治療手法よりも侵襲性が低いため、より多くの患者に腸内細菌移植を適応できる。例えば、医学的理由により、浣腸や経鼻チューブを小腸に入れることが不可能な患者にも使えるだろう。そもそもLouieが最初にカプセルを作ったのは、そのような患者を治療するためだった。

クロストリジウム・ディフィシレ感染は、抗生物質の使用によって腸内細菌の正常なバランスが乱された後に起こることが多い。健康な提供者の糞便由来の細菌を使った腸内細菌移植によってそのバランスを回復させれば、抗生物質では治療が非常に困難なクロストリジウム・ディフィシレ感染症に対する極めて有効な治療手段になり得る。

腸の反応

Louieの研究に参加した患者はそれぞれ、作られたばかりの細菌入りカプセルを24~34個服用した。カプセルはゼラチンでコーティングされていて、胃では溶けずに腸に達する。研究チームは、その後1年間、患者の腸内細菌の塩基配列を解読することで、経過を観察し続けた。その結果、クロストリジウム・ディフィシレは消失し、バクテロイデス属(Bacteroides)、Clostridium coccoidesClostridium leptum、プレボテーラ属(Prevotella)、ビフィズス菌(Bifidobacteria)、デスルフォビブリオ属(Desulfovibrio)など、健康な腸内細菌の数が増えたことが分かった。

「カプセルというアイデアは、本当に大きな進歩です」と、ブラウン大学アルパート医学系大学院(米国ロードアイランド州プロビデンス)の胃腸病学者Colleen Kellyは言う。彼女は大腸ファイバーを使って糞便由来の細菌移植を行っている。

将来的には、提供者の糞便から抽出した細菌ではなく、実験室で培養された細菌を含むカプセルも作れるようになる可能性がある。実際Louieは、このカプセルの商業化に興味を持ついくつかの団体から連絡を受けているという。彼は現在、クロストリジウム・ディフィシレ感染症治療のために細菌を冷凍する実験も行っていると、付け加える。

しかし、そのような合成カプセル剤を作るには大きな経済的障害がある。クイーンズ大学キングストン校(カナダ・オンタリオ州)の感染症専門家Elaine Petrofは、腸内細菌叢を模擬するために実験室で培養された33の異なるタイプの細菌のミックス“RePOOPulate”を作成した1。彼女のチームは、細菌培養のために2年がかりで設備を整えたが、このプロセスはまだ費用がかかる上に、細菌の培養はなかなか順調にはいかない。彼女は、この技術を商業化しようとする会社には「正直に言って、よっぽど運がよくないと難しいでしょう」と伝えている。

ただ、このようなやり方で細菌を生産する場合にコストがかかるとしても、代替手段がそれほど安あがりでないなら、あまり大きな障害にはならないだろう。米国カンザス州ウィッチタの感染症専門医Tom Mooreが述べているように、「人間の糞便なら簡単に手に入り、コストもほとんどかからないので、これと競うのは難しい」のである。

(翻訳:古川奈々子)

参考文献

  1. Petrof, E. O. et al. Microbiome 1, 3 (2013).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度