News

ゲノムが教えるアフリカ人の移動史

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131119

原文:Nature (2013-08-29) | doi: 10.1038/500514a | African genes tracked back

Erika Check Hayden

新しいアレイ用マーカーが開発され、アフリカ南部のコイサン族の一部が、アフリカを出た後に帰還した人々であることが明らかになった。

約20万年前、最初の人類はアフリカを後にし、世界各地へと広がっていった。しかし、その旅は「行ったきり」ではなかった。アフリカに戻ってきた人々がいたことが遺伝学的に裏付けられたのだ。その人々は、欧州人によるアフリカ植民地化のはるか以前に、行った道を2段階で引き返し、アフリカ南部にアフリカ外の世界の遺伝子を持ち帰ったと推測される。

アフリカ人の新たな移動史は、彼らのゲノムを調べられる優れたツールが開発されたことで、急速に明らかになりつつある。つまり、集団遺伝学によって、アフリカ内の人類移動の複雑な歴史を初めて効果的に研究することができるようになったのだ。この分野の研究ツールは、これまで、骨や人工物、言語の分析が主体だった。

ウプサラ大学(スウェーデン)の遺伝学者Carina Schlebuschは、「これまでこの分野では、言語学と考古学の手法を使った研究がほとんどでしたが、ようやく、遺伝学を使って検証できるようになりました。アフリカ人の遺伝学にとって本当に刺激的な時代がやってきたのです」と話す。

逆移動を示す遺伝学的な目印は、これまでにもたびたび発見されていた。また、この10年間、最初の「出アフリカ」後にアフリカに戻ってきた人類がいたことを裏付ける証拠が次々と集まっていた。さらに近年、2000年前にアフリカ南部にいた狩猟採集民と、移動してきた東アフリカの小集団が交わったことが、DNAデータによって示唆されている。

今回の分析結果は、その2つの移動を結び付けるものだ。ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の集団遺伝学者David ReichとポスドクのJoseph Pickrellを中心とする研究チームは、ある方法を利用して、アフリカ南部のコイサン(Khoe-San)族という少数部族のDNAに、その2段階の移動の痕跡を発見した。この研究成果は、2013年7月30日にプレプリントサーバーarXivで公開された(J. K. Pickrell et alhttp://arxiv.org/abs/1307.8014)。

彼らは、アフリカ南部の約1000人(22部族を代表する約200人を含む)について、ゲノム中に見られる50万カ所以上の遺伝的変異を調べた。コイサン族については、過去に異なる部族と交わった際に受け継いだであろう染色体に由来するDNA領域を探した。

そうしたDNA領域には連鎖した遺伝的変異の固まりが含まれ、そのパターンはコイサン族以外の部族と変わりないように見える。しかしコイサン族では、その固まりの起源を持つと考えられる部族より固まりの大きさが短くばらばらになっている。つまり、もたらされた染色体が、長い年月の間に各世代で発生した遺伝的組換えによって断片化したのだ。

その断片化の度合いを測定すれば、コイサン族のゲノムに染色体が導入されたのが何世代前かを推定できる。そして研究チームは、2つの移動の波を発見した。すなわち、約3000年前に非アフリカ人がアフリカ東部へ進入したことと、900~1800年前に東アフリカに住む人が南部へ移動したことでアフリカ外の遺伝子が持ち込まれたことを反映する目印である(「出アフリカ、そして帰還」参照)。

遺伝的に極めて孤立していると考えられていた一部のコイサン族は、実は非アフリカDNAを1~5%持っており、それはこの2段階の移動の結果である、というのがReichらの研究チームの成果だ。

遺伝学研究では、過去の「混合」、すなわち、部族間交雑の事例を検出することはすでに可能だったが、単一集団の遺伝的プロファイルに複数の混合が検出されたのは、これが初めてである。エチオピアへの逆移動を研究していたウェルカムトラスト・サンガー研究所(英国ケンブリッジ)の遺伝学者Luca Paganiは、「最も重要な発見は、アフリカ外の遺伝子は、東から南へと移動した人によって運ばれたということです」と説明する。

ペンシルベニア大学(米国フィラデルフィア)の遺伝人類学者Sarah Tishkoffによれば、過去の考古学、言語学的研究を踏まえると、この発見には意味があるという。例えば、アフリカ南部のコイ・クワディ(Khoe-Kwadi)語族は、牧畜技術を南に伝えた東アフリカ人に起源をたどることができ、今回の研究で非アフリカ遺伝子の比率が最も高かった。アフリカ南部各地では、2000年前の牛や羊の骨とともに、アフリカ東部の牧畜文化の特徴を持つ土器も発見されている。「おそらくこの方法は、十分な考古学的データがないさまざまなケースにも使えるでしょう」とTishkoffは期待する。

しかしこの発見は、東アフリカ人自身、および東アフリカ人が出会った非アフリカ人がどんな人類なのかという疑問も提起している。コイサン族が持つ非アフリカ遺伝子に最も近いのは、現代の南欧人の遺伝子だ。しかし研究チームは、当時その遺伝子を持っていた人々が実際には中東かアラビア半島からアフリカに渡ってきた可能性が高いと考えているのだ。

チップ上の進歩

今回の研究は、方法の改善とデータセットの充実が、アフリカの複雑な遺伝学的歴史の研究に有用であることをしっかりと示した。また、その結果は、アフリカが遺伝学的に世界一多様な大陸であり、コイサン族が世界最古の血統であることを示唆している。コイサン族は、出アフリカの旅に出た別の現生人類から最初に分かれた人々の末裔と考えられるのだ。

アフリカは人類史の中で極めて重要であるにもかかわらず、その各地の人類集団の十分なデータが得られたのは、ほんの1年前のことだ。それまでは、アフリカに住む2000の部族のうちのごく少数のゲノム配列解読が行われただけであった。その一因は、僻地に住む部族のDNA収集が倫理的にも物理的にも難しいことと、遺伝学研究用の資金の多くが人類学ではなく医学への使用を前提に付与されていることにある。

さらに都合の悪いことに、ヒトの遺伝的多様性を調べるために設計されたDNAマイクロアレイは、当初、欧州人と欧州系米国人のゲノム変異を見つけることを目的に作られていたため、アフリカ人の多様性を捉えることができなかった。その状況は2011年に変わった。Reichら遺伝学者が、アフィメトリクス社(米国カリフォルニア州サンタクララ)と共同で、より多様なサンプルの変異部位を対象とする遺伝子チップ「ヒューマン・オリジンズ・アレイ」を考案したのだ。そして今回、PickrellとReichは、このチップを用いてアフリカ人の移動史を解析した。また、他にもこのチップを利用して多様性に関する調査が進められている。

それはうれしい大変革だ、とPaganiは歓迎する。「これまでは、非アフリカ人用に開発されたツールを使ってアフリカ人のことを調べていたのですから」。

(翻訳:小林盛方)

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度