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米国の小惑星捕獲計画

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131009

原文:Nature (2013-07-18) | doi: 10.1038/499261a | Asteroid plan looks rocky

Alexandra Witze

宇宙の小さな岩(小惑星)を捕まえて月の近くまで運び、宇宙飛行士が訪れて調べようという計画が進んでいる。しかし、候補になる岩の選定など、計画の前途には難題が多い。

NASAの小惑星捕獲用無人宇宙機(概念図)は、膨らませることができる袋の中に10m大の岩を包み、月の近くまで移動させる。

Credit: NASA

米航空宇宙局(NASA)は、小惑星1個をロボット無人宇宙機で捕まえて月の近くまで移動させた上、宇宙飛行士が試料を採取するという計画を進めている。最大の難題は、標的の岩を見つけることかもしれない。NASAが考える必要条件を満たす既知の小惑星はわずかしかないからだ。また、現在行われている地球近傍天体のスカイサーベイ(掃天調査)は、この計画の対象になるような小さな小惑星をたくさん見つけるためのものではない。

アリゾナ州立大学(米国テンピ)の惑星科学者Jim Bellは、「科学者も一般の人も、この計画が本当にやり遂げられるのか、かなり疑っています」と話す。2013年7月9日、この計画に関する研究会が米国科学アカデミーの本部ビル(ワシントンDC)で開かれ、Bellも出席した。研究会は、小惑星研究者たちがNASA当局者らに疑問をぶつける最初の機会となった。

バラク・オバマ米大統領は4月、米連邦議会への2014年度予算要求の一部として、この小惑星捕獲計画を提案した。計画に予算がつけば、NASAは、現在進めている、もっと大きくて地球にとって危険な小惑星の調査を、より小さな小惑星も見つけられるよう拡充することになる。そして、2017年に打ち上げるロボット無人宇宙機が到達できる軌道にあり、十分に小さく、堅くてしっかりとした小惑星を見つけ出さねばならない。

計画の詳細は曖昧なままだが、科学者たちは研究会で、捕獲に適した小惑星の数について、根拠のある数字を初めて明らかにした。NASAのジェット推進研究所(カリフォルニア州パサデナ)で小惑星を追跡しているPaul Chodasは、「地球近傍の既知の小惑星は1万個を超えますが、約10m大で捕まえることができるほど小さいものは370個です」と話す。しかし、この370個のうち、捕獲に適した軌道にあるのは14個だけだ。14個のうち、小惑星がどのような表面をしているかや、回転速度についていくらか調べられているのは4個にすぎない。NASAは、無人宇宙機の損傷の危険性をできるだけ小さくするため、しっかりと固まっていて、回転速度が毎分2回転よりもゆっくりとした小惑星を見つけたいと考えている。

「NASAが、小惑星のスカイサーベイのペースを上げれば、10m大の小惑星は、今後3年から4年のうちに少なくともさらに15個は見つかるはずです」とChodasは話す。そのうち、少なくとも半分は捕獲に適した軌道にありそうだ。しかし、そのためには、NASAが小惑星調査計画への予算を増額することが必要だ。現在の小惑星調査計画は、140m以上の小惑星を見つけることを目的にしている。発見された地球近傍小惑星のリストを作成している小惑星センター(マサチューセッツ州ケンブリッジ)のTimothy Spahr所長は、「10mクラスの岩を見つけるためには、もっと暗い天体を探す必要があります」と指摘する。

例えば、アリゾナ大学(トゥーソン)が行っている地球近傍天体探索計画「カタリナ・スカイサーベイ」には、2基の新しいカメラが導入されることになっている。このスカイサーベイはこれまで、地球近傍の小さな小惑星の大半を発見してきた。「これらのカメラは2014年中頃に導入される予定で、スカイサーベイの視野を2倍にし、暗くて小さな天体を見つけるチャンスを増やします」とSpahrは話す。

NASAはより多くの小惑星を探すため、2009年に打ち上げられ、2011年に運用を終えた「広域赤外線探査衛星」(WISE)を再起動することも計画している。ハワイに建設が計画されている2つの観測施設、パンスターズ2(Pan-STARRS-2)望遠鏡とアトラス(ATLAS)望遠鏡アレイも小惑星探索に加わる可能性がある。

地球近傍の小惑星は、数日間の観測で視野から消えてしまうことが多いので、こうした追加の観測装置は極めて重要だ。小惑星を発見したらすぐに、その大きさ、形状、組成を調べるため、レーダーと赤外線望遠鏡での追跡観測を組織する必要がある。

NASAジョンソン宇宙センター(テキサス州ヒューストン)の技術者たちはすでに、ロボット無人宇宙機のいくつかの設計案を検討している。無人宇宙機は、国際宇宙ステーションの質量に相当する、約400tの小惑星をつかむことができなければならない。小惑星に到達するために使われるキセノンイオン推進エンジンと、小惑星を捕獲するために使われる、破れにくく、膨らませることができる袋の設計はそれほど難しくはない。この計画に参加している、同センターの宇宙飛行士Andrew Thomasは、「もっと大きな問題は、標的になる小惑星を見つけ、打ち上げに間に合わせて宇宙機を作ることです。考えてみれば分かるとおり、これはかなり大胆な計画です」と話す。

宇宙機を2017年に打ち上げれば、2021年までに標的の小惑星を月の近く(ラグランジュ点の1つ)まで移動させることができるはずだ。そうすれば、理論的には、宇宙飛行士たちが新型宇宙船で小惑星を訪れ、袋をめくるか、切り開いて小惑星の試料を地球に持ち帰ることができる。

この計画には10億ドル(約1000億円)から26億ドル(約2600億円)の費用がかかるだろうとNASAは見積もっている。NASA当局者は用心深く、「計画の目的は科学研究ではなく、地球から遠く離れた深宇宙へ行く経験を宇宙飛行士たちに積ませることです」と強調している。宇宙飛行士たちは、地球から離れた宇宙空間では、国際宇宙ステーションよりも厳しい放射線環境に対処しなければならない。NASAの有人宇宙飛行計画担当のWilliam Gerstenmaier副長官は、「私たちの目標が、2030年代半ばまでに火星の軌道に人を送り込むことであれば、私たちはこの目の前の課題にも積極的でなければなりません」と話す。

オバマ大統領の計画に米連邦議会が予算を認めるかはまだ分からない。ジョージ・W・ブッシュ前大統領が唱えた「再び月に人を送る」という構想をNASAが断念して以来、連邦議会と米政権はNASAの目標に関して抗争を続けている(Nature 492, 161-162; 2012を参照)。共和党が優位の下院の宇宙小委員会所属議員らは小惑星捕獲計画を差し止める法案を提出しており、これが成立すれば、小惑星捕獲計画のための全ての予算は取り消されることになる。

(翻訳:新庄直樹)

訳註:米連邦議会下院の科学・宇宙・技術委員会は2013年7月18日、この小惑星捕獲計画を差し止める法案を可決した。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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