Turning Point

夢ある「探検家」への分かれ道

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131007

高井 研

2013年夏、有人潜水調査船「しんかい6500」に乗り込み、水深5000mの海底から熱水域の探査現場をWeb中継した高井 研氏。深海、地殻、宇宙と高井氏の探検フィールドは広いが、そうした極限環境にすむ微生物を調べる彼の研究はどこから始まった?

高井 研
海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究プログラム プログラムディレクター

「超ナマイキな学生だった」そうですね?

口も悪くて(笑)。あけすけにものを言う性格なんです。でも愛嬌があるから、憎めない。そうでしょ? (近くの同僚に同意を求める)

自分の思いを相手に率直に伝えることは、大切だと思うのです。その結果、けんかになることもあるけど、最終的には、互いがよく分かるようになる。

本音で分かり合えることの大切さは、研究プロジェクトのリーダーなどを務める年齢になると、なおさら痛感しますね。研究者の中には、コミュニケーションの苦手な人がいっぱいいるのです。でも、互いに心の奥底からの信頼関係がなければ、プロジェクトや共同研究でいいものができません。

それが、深海から宇宙までの多彩なプロジェクト成功の秘訣?

そうなんです。研究では、人間性に関わる部分が非常に重要です。僕は若い頃からナマイキでしたが、「そこがいい」と応援してくださる先生方に恵まれて、幸運でした。

ところで、深海・地殻内・宇宙と、いろいろなジャンルに参加しているようにみえるかもしれませんが、これは大学院(京都大学大学院農学研究科水産学専攻)時代の研究テーマが発展していったものなのです。その研究とは、温泉などの熱水域にすむ超高熱細菌のタンパク質がなぜ高温に耐えられるのか、生化学的に調べるといったものです。ただし研究中に、主要な謎が他の研究者たちに、解き明かされ始めてしまったのでした。

大学院での研究は、その後、どうなっていったのですか?

博士課程の後半は、将来の自分のライフワークとなるテーマを探さなくてはと、いつも考えていました。研究者を目指す人ならば、大学院を出る頃からポスドクになる頃は、そうした時期ですよね。そこで僕は、誰もやっていない事柄を見つけるというのは無理にしても、まだあまり手が付けられていない、自分のオリジナルのテーマを見つけたかった。

指導教官はいろいろとアドバイスしてくれますが、でも、ピンとこなかった。ズケズケものを言う僕でも、恩師には面と向かってそれはダメだとは言えず、徐々に距離を置いていってしまったように思います。

そんなときに、ターニングポイントに遭遇した?

米国で開かれた大きな国際学会に参加する機会がありました。博士課程の3年目で、初めてのことでした。自費参加でしたから「モトを取らねば」(笑)との思いも強く、また、将来海外での研究生活もありうるかと思っていたので、熱心に口頭発表を聞き、端から端までポスターを見て回りました。

すると、あるポスターの前に、人だかりができているのに気が付きました。それは、DNA分析という、当時新しい解析方法を用いて、湖の古細菌を調べた微生物生態学の研究でした。

微生物生態学については、研究室の他のメンバーが研究していたので、知ってはいました。でも生態学は、生化学などと異なり、明解な答えが求めにくい学問。正直、少しバカにしていたのです。しかし、僕とのやりとりの後でポスター発表者が付け加えた「未知の古細菌がそこら中にいると思うと、楽しくない?」という言葉には、心が動きました。そして、そのときひらめいたのです。これは、可能性に満ちた新しい分野なのだ。この新しい解析法を深海熱水に用いてみようと。

深海の研究から、他の極限環境における研究へ

まだ誰も試していない、深海熱水に対するアプローチを見つけたことがきっかけで、海洋研究開発機構(JAMSTEC)での研究を開始することができました。

その後、深海だけでなく、地殻内といった極限環境の微生物に対しても、同様のアプローチでの研究が発展しました。さらに、極限環境微生物に生命の起源を探るという観点から、JAXAの宇宙に関する研究にも首を突っ込んでいます。

いずれも挑戦しがいのある難しい研究テーマですが、そこには夢があります。僕は科学者ですが、同時に、人々に夢を与えることができる探検家を目指しています。

聞き手は藤川良子(サイエンスライター)。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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