活用事例・取り組み - Nature ダイジェスト 活用手引き

探究活動実践ガイド

『課題研究メソッド』の著者・岡本尚也氏が、Nature ダイジェスト を使った課題探究型学習の具体的な指導方法を提案する。

本シリーズを通して身に付ける資質・能力

情報収集力
(特に読解力)

批判的思考力
(問いを立てる力)

基礎学力、専門的知識・理解

論理的思考力

グループワーク導入によるコミュニケーション能力の向上や、まとめた内容の発表によるプレゼンテーション能力の向上を目指しても良い。専門的な話も一部含んでいるが、研究や探究活動において最も重要な「楽しさ」も感じて頂けると幸いである。― 岡本尚也

「リサーチクエスチョンを立てる」編

今回は『「ぶんぶんゴマ」が遠心分離機に』という記事を用いて、その解説と共に探究活動において最も重要な「問いを立てて関連する知識と理解を深めていく方法」を示す。生徒を対象に授業を実施する際には、問いを立てることの重要性やその種類を説明した後、Taskの全部もしくは一部を、個人やグループワークとして課すと良い。また、問いの立て方を学ぶ前に、この記事が何を述べているのかを理解するために要約を書いてみてもらいたい。

問いを立てて理解を深める作業を行うにあたり、忘れてはならないのは、その問いに対する答えを探すための準備である。その問いの中で使われている言葉、もしくは関連する言葉で、答えに必要と思われる言葉(つまりキーワード)を抜き出し、場合によってはそれに対して「言葉の定義や意味を問う」問いを立てることで、その問いの答えを探すための手掛かりを得られる。(実践ガイド『研究テーマのヒント:「記事を読み解く」編』を参照)

では実際に、記事の内容に対して問いを立て、そのキーワードを挙げていこう。今回扱うような質の高い記事は、生じた疑問に対し、後の文章で答えを述べる構成になっている。

実践の前に...

Nature ダイジェスト 対象記事

「ぶんぶんゴマ」が遠心分離機に

昔ながらの玩具「ぶんぶんゴマ」をヒントにした手動遠心分離機が開発された。血液サンプルの処理やマラリア原虫の分離を、電気なしで安価に行うことが可能だ。

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2017.21273
原文:Nature (2017-01-10) | doi: 10.1038/nature.2017.21273 | Spinning toy reinvented as low-tech centrifuge

TASK 1

信憑性と因果関係を問う問いから、原理を理解しよう

探究活動の中で資料を読む際に必要なことは、書かれていることが本当なのか?と疑いながら、能動的に読み進めることである。

Q2のように、なぜ必要なのか?と問いを立てると、血液の成分(血球成分、血清、血漿など)とその役割の理解、血液検査の方法などについて理解を深めることができる(生物)。

またQ3のような問いを立てることで、現象だけを追うのではなく、その現象の根底にある原理にまで掘り下げることができる。具体的には、遠心分離や液体中の物体の運動についての理解を深めることができる(物理)。難しい内容になることも多いが、ぜひ因果関係を問う問いを立て、その現象の原理に迫ってみよう。

段落1、2

インド育ちのManu Prakashは、子ども時代に「ぶんぶんゴマ」でよく遊んだという。ぶんぶんゴマは、ビンの蓋に穴を2つ開けて紐を通した玩具で、両手で紐を持って蓋を何度か回転させた後、紐を両側に引っ張ったり緩めたりして紐をよじれさせ、蓋を高速回転させて遊ぶ。長じてスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の物理生物学者になった彼は、この単純な玩具が、マラリアなどの疾患の診断に役立つ安価なツールになり得ることを示し、2017年1月10日にNature Biomedical Engineering に報告した。

Prakashは、2013年のウガンダへの研究旅行の後でこのプロジェクトに着手した。ウガンダの診療所を訪問した彼は、ほとんどの診療所で遠心分離機(あるいは、遠心分離機を動かすための電気)が利用できず、基本的な疾患の診断に必要な血液サンプルの分離ができないことを知ったのだ。

段落1、2:信頼性・因果関係を問う問いの例
No. 問い 問いの種類 キーワード
Q1 本当にマラリアなどの疾患の診断に役立つ安価なツールがぶんぶんゴマからできたのであろうか? 信憑性 マラリア、疾患の診断、ぶんぶんゴマ
Q2 なぜ基本的な疾患の診断に血液サンプルの遠心分離が必要なのか? 因果関係 疾患の診断、血液サンプル、遠心分離
Q3 なぜ遠心分離機によって、血液サンプルの分離ができるのか? 因果関係 遠心分離、血液サンプル、原理(文中にない言葉だが)
Task 1
TASK 2

問いの発展で、分野の異なる研究につなげよう

同じ内容の記事でも、問いの立て方によって自然科学系の探究につながる場合もあれば、社会科学系の研究につながる場合もある。事実を受け取るだけではなく、なぜそのような状態になっているのか? と問いを立ててみると良い。

私たちが住んでいる日本では、電気が普及していないということは珍しい。Q4の問いを発展させてQ5のような問いを立てることで、あたり前の現状を改めて理解することができるようになり、その理解がQ6につながる。このように、問いを発展させることで、自然科学系の研究だけでなく、主に途上国の開発、日本の国際貢献の研究につなげることができる。

段落1、2:分野の異なる研究につなげる問いの例
No. 問い 問いの種類 キーワード
Q4 なぜウガンダでは電力インフラが普及していないのだろうか? 因果関係 ウガンダ、電力インフラ、原因
↓ 問いを発展
Q5 なぜ日本では電力インフラが普及しているのだろうか? 因果関係、比較 日本、電力インフラ、普及、理由
↓ 問いを発展
Q6 日本の持つ電力インフラ普及の経験が世界の電力インフラの普及に貢献できないだろうか? 影響 日本、電力インフラ、開発援助
Task 1
Task 2
TASK 3

言葉の意味や定義から、新たな知識や理解を習得しよう

聞いたことがある言葉でも、改めてその意味や定義を問うことで新たな知識と理解の習得につながる。

多くの人が、高速度カメラという言葉を、聞いたことがあるだろう。だが、漠然と「早い動きの物体を捉えることが可能なカメラ」という程度の理解ではないだろうか。一般的なカメラとの違いは何なのか? どのくらい高速なものを捉えることができれば高速カメラと呼ばれるのか? どのような仕組みで高速撮影が可能になっているのか?など、問いを立てることで、新たな知識と理解の習得につなげることができる。

段落3、4

折りたたみ式の紙製の顕微鏡「フォールドスコープ(Foldscope)」を発明して 2016年のマッカーサー賞(天才賞とも呼ばれる)を受賞したPrakashは、「ある診療所では、壊れた遠心分離機をドアストッパーとして使っていました。アフリカから帰国 した私たちは、電力を使わず、人力だけで遠心分離ができないだろうかと考えたのです」と語る。

安価なローテク遠心分離機としては、野菜を入れたカゴを回転させて水切りをするサラダスピナー3や泡立て器4を利用したものが発明されているが、こうした装置の回転速度はせいぜい1200rpm(毎分1200回転)で、試料を処理するのに時間がかかりすぎる、とPrakashは言う。Prakashらは、より高性能の遠心分離機の開発を目指し、回転するおもちゃを買い集めて、それら1つ1つの動きを高速度カメラで撮影した。ヨーヨーの回転は遅すぎる上、使いこなすには練習が必要だった。それに対して「ぶんぶんゴマ」は、使い方が簡単で、市販の遠心分離機に匹敵する1万rpmという高速で回転していることが分かった。

段落3、4:言葉の意味や定義に関する問いの例
No. 問い 問いの種類 キーワード
Q7 高速度カメラとは何か? 言葉の意味・定義 高速度カメラ、原理
Q8 なぜ高速撮影が可能なのか? 因果関係
Task 1
Task 2
Task 3
TASK 4

先行研究・事例を、自分の研究に活かそう

先行研究や事例を学ぶことは、その分野の専門的な知識・理解を習得できるだけでなく、その研究を行った人が、テーマに対してどのように問いを立て、調査・実験をし、論文や報告書にまとめたかという、一連の研究の流れを学ぶことができる。ただし、この過程でももちろん、論文の信憑性や因果関係を問うことを忘れてはならない。

論文や動画を参考に、(かなり専門的だが)実際に式の導出を一つ一つ確かめながら行ってみたり、その内容を再現実験(ぶんぶんゴマを自作して実験)してみたりしても良い。この論文の再現を行う中で更なる改善法が見つかるかもしれない。

段落5、6

これに気を良くした研究者たちは、ぶんぶんゴマ遠心分離機のさらなる改良を目指して、その基礎にある数学を調べた。ビデオ映像から、ぶんぶんゴマの2本の紐は、よじれたりほどけたりする際に、お互いの周りに巻きつくだけでなく、DNAのようならせん構造をとることも明らかになった。このらせん構造を作らせる力を記述する方程式を解くと、円盤の大きさから紐の太さまで、理想のぶんぶんゴマの仕様が見えてきた。回転数上限は、理論的には100万rpmにもなった。

人間の手ではここまで速く回転させることはできないが、実験室で製作した新しいデザインのぶんぶeんゴマは12万5000rpmを達成し、研究チームはf2016年に、人力で回転する最速の装置としてギネス世界記録に申請した。

段落5、6:先行研究・事例を自分の研究に活かす問いの例
No. 問い 問いの種類 キーワード
Q9 回転数の理論的上限である100万rpmはどのように算出されたのだろうか? 先行研究・事例 ぶんぶんゴマ、回転数、上限
Q10 一般的に使われている遠心分離機と比較して、12万5000rpmとはどのような大きさなのか? 先行研究・事例、比較 遠心分離機、回転数
Q11 このぶんぶんゴマの前のギネス記録は何によるものなのだろうか? 先行研究・事例 回転数、ギネス記録
Task 1
Task 2
Task 3
Task 4
TASK 5

先行研究や事例の調査により問いの答えを得たら、その根拠を示そう

まずは、全ての問いに対して関連する本や論文、報告書などを用いて先行研究・事例の調査を行う。先行研究や事例から答えが見つかった場合は、答えと共にその引用元、もしくは根拠を示さなければならない。以下に、情報源とその特徴、探し方をまとめる。

主な情報源とその特徴
情報源 利点 気をつけるべき点 探し方・入手場所
特定のテーマに関して体系的に学ぶことができる。 引用・参考文献などを含まない本は、信憑性に欠ける場合がある。 OPAC(Online Public Access Catalog)などの図書検索サービスにキーワードを入力し、検索する。
学術書・学術論文 あるテーマについて専門的な知識を得ることができる。最先端の研究について知ることができる。 内容が高度で利用しづらいものもある。 Google Scholar、CiNii、・Webcat Plus、大学の図書館の検索サービスにキーワードを入力し検索する。
報告書 先行事例について豊富なデータと共に学ぶことができる。 膨大な量の報告書では、必要な情報へのアクセスに時間がかかる可能性がある。 インターネット上の検索サービスを用いて、キーワードと共に、担当する自治体や省庁名を記入する。
統計データ 数的なデータによって客観性の高い情報を得ることができる。 統計の方法が間違っている場合は虚偽のデータを使用してしまう。 国内のデータであればe-Statなどのサービスにキーワードを入力し、検索する。国外のものであれば、UN dataなどを同様の方法で用いると良い。

岡本尚也 課題研究メソッド Startbook(新興出版社啓林館)2018 より抜粋

引用をせずにその記述を用いた場合は、著作権の侵害や盗用につながる。
また、根拠が示されていない場合、その答えの説得力はほぼ無いと言っても良い。以下に、問いとその答えの例を示す。

例:問いに対する答えとその根拠
問い なぜ日本では電力インフラが普及しているのだろうか?(Q5)
答え 日本の電力インフラの発達は、発展局面を十分認識した官民の柔軟な役割分担から生まれた。第二次世界大戦前は民間主体で軽工業の発展に伴い電力需要が大きく増加し、それと同時に電力事業への実質投資累積額の増加、ドイツやアメリカなど海外の技術の積極的な導入により電力供給も大幅に上昇した。戦時中から戦後(第二次世界停戦による電力部門の被害も10%以下と小さかった。)は、一時国営化されたが戦後は全国9電力会社に分割民営となった(電気事業法)。その後は、政府からの低金利の借り入れや、国内外からの投資により経済発展に伴う電力需要の増加に対応し、発展した。地方部の電力インフラ整備は、戦前の蓄積が大きな役割を果たした。それに加え、1960年に閣議決定された所得倍増計画では大都市圏とその周辺の整備を基本としたが、1960年代に入り、地域所得格差や一極集中の弊害がしだいに政治的課題となり、1962年に全国総合開発計画が閣議決定されてから、今日にいたるまで、国土の均衡ある発展、すなわち、地域所得格差是正のための手段としてインフラ投資(公共事業)が重要な役割を担うことになったことが、全国的な電力インフラの整備につながった。
引用元または根拠 タイトル:日本のインフラ整備の経験と開発協力
著者:吉田恒昭
掲載誌:開発金融研究所報 11, 69–98 (2000).
Task 1
Task 2
Task 3
Task 4
Task 5
まとめ

今回は記事に書かれている内容に関して問いを立て、関連する知識とその理解を深めていく事を目的とした。 探究活動においては「知っているつもり」「理解しているつもり」は意味をなさない。教科書に書かれている ことや当たり前と言われているものにも、改めて信憑性や因果関係を問うてみると、思わぬ発見や深遠な学問 の世界の一端に触れることができるかもしれない。

これからの探究活動に向けて

今回は問いを立てることに取り組んだ。すぐに答えが見つかった問いもあれば、詳細な調査や実験が必要な問いもあったと思う。これから行う研究のリサーチクエスチョンにもなり得るので、その問いの中で最も興味を持ち重要だと思うものについては、そのキーワードと、必要と思われる調査・実験を合わせて書き出してみよう。

著者紹介

岡本 尚也(おかもと・なおや)

物理博士・社会起業家

1984年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒、同理工学研究科修了後、ケンブリッジ大学にて物理学博士号を取得。その後、オックスフォード大学にて日本学修士号を取得。ケンブリッジ大学在学中に、Nature Materials 等のトップジャーナルに論文を掲載。現在は一般社団法Glocal Academy代表理事。社会や学術における諸課題を研究的手法を用いて解決する事を目的とし、後進の育成やそれら課題に取り組む個人及び企業・団体を支援している。
著作物:課題研究メソッド ―より良い探究活動のために―(新興出版社啓林館)等

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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