Research Highlights

ナノ結晶:全てをできる酵素

Nature Nanotechnology 2016, 616 doi: 10.1038/nnano.2016.100

生物系は、さまざまな方法を用いて水溶液から無機物を合成する。合成する物質の組成と構造の制御は、通常はタンパク質などのさまざまな生体分子の組み立てを含む複雑な過程を通して実現される。今回、リーハイ大学(米国)のB Bergerたちは、単一の酵素を用いてバイオミネラリゼーションが可能で、機能性ナノ材料を作る環境に優しい方法が得られることを示している。

Bergerたちは、精製された形態のシスタチオニンγ–リアーゼ酵素と、酢酸カドミウムおよびLシステインを組み合わせた。この酵素は、好気性菌Stenotrophomonas maltophiliaから得られ、LシステインからのH2Sの生成を触媒して培養細胞にCdSを形成することが分かっている。Bergerたちは、この組み合わせを用いて、細胞中や化学的方法で合成されたものに似たオプトエレクトロニック特性を持つ単分散で結晶性のCdSナノ結晶(直径2~4 nm)を得た。Lシステインを、水溶性のCdSナノ結晶を安定化することが分かっているキャッピング剤で、酵素の基質ではないグルタチオンに換えると、ナノ結晶が形成されなかったので、Lシステインが硫黄の供給源であることが確認された。硫黄の供給源としてLシステインをNa2Sに換えても、ナノ結晶が形成されたため、この酵素は、H2Sの生成とは無関係にナノ結晶の成長を調節できることが示唆される。こうした結果は、この単一の酵素が反応性前駆体のミネラリゼーションを触媒できるとともに、その後のナノ結晶の成長のテンプレートとなりうることを示している。

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