女子サッカー選手は脳損傷のリスクが高い
ペンシルベニア大学ペレルマン医学系大学院(米国フィラデルフィア)、ミシガン州立大学(米国イーストランシング)、グラスゴー大学(英国)の研究チームが、米国ミシガン州の高校に通う約4万3000人の男子サッカー選手と約3万9000人の女子サッカー選手の3年間の調査データを分析し、その結果を4月27日付でJAMA Network Open1に発表した。それによると、スポーツに関連した頭部損傷の発生率は男女間で顕著な差があり、女子の脳震盪の発生率は男子の1.88倍であるという。
今回の研究を主導したグラスゴー大学の神経病理学者William Stewartは、研究者たちは以前から男子よりも女子の方が頭部を負傷することが多く、回復に要する時間も長いのではないかと考えていたが、具体的なデータが不足していたと説明する。「女性アスリートに関する研究はほとんど行われていないのです」と彼は言う。しかし、ミシガン州高等学校体育協会が2016年度から2018年度にかけてスポーツ傷害に関する大量のデータを収集したことで、女性アスリートの脳震盪のリスクが本当に高いのかどうかを検証することが可能になった(「脳震盪のリスク」参照)。
「男子と女子の間には、確かに違いがありました」とStewartは言う。さらに、脳震盪の原因も男女で大きな差があった。男子は、他の選手と激突して脳震盪を起こすことが最も多く、報告された脳震盪の半数近くがこの形で起きていた。これに対して女子の場合は、ボールやゴールポストなどの物と衝突して脳震盪を起こすことが多かった。また、男子は女子に比べて、頭部損傷が疑われた直後にプレーから外されることが多かった。
Stewartは、女子の頭部損傷のメカニズムが男子と異なっていることは重要な発見であると考えており、「これは、女子の脳震盪がフィールドであまり気付かれなかった理由の1つかもしれません」と言う。そして、試合中に潜在的な頭部損傷を発見する方法から、選手を治療する方法やプレーに復帰させる時期まで、現在使用されている脳震盪管理システムは、ほぼ男性アスリートを対象とした研究のみに基づいて規定されていると指摘する。彼は、脳震盪の管理については、現行のような男性基準の画一的なアプローチではなく、性別に応じたアプローチを検討する必要があるかもしれないと言う。例えば、サッカーでのヘディングを制限することや、女子の試合では医学的な訓練を受けたスタッフを多めに配置したりすることなどが考えられる。
スウォンジー大学(英国)でバイオメカニクスと頭部損傷を研究しているLiz Williamsは、2020年に女性ラグビー選手とその負傷歴に関する国際的な大規模調査を実施した。彼女はStewartの調査結果に全く驚かず、こう語った。「私たちの発見はどれも同じです。女性は男性よりも脳損傷を受けやすいのです。個人的には、脳損傷の発生率は報告されている数字よりも高いと考えています」。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 7
DOI: 10.1038/ndigest.2021.210708
原文
Head-injury risk higher for female soccer players, massive survey finds- Nature (2021-04-30) | DOI: 10.1038/d41586-021-01184-8
- Katharine Sanderson
参考文献
- Bretzin, A. C. et al. JAMA Netw. Open 4, e218191 (2021).
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