デンキウナギの跳躍アタック
デンキウナギ(Electrophorus electricus)がいる水槽の中に、作り物のワニの頭部を上から差し入れると、デンキウナギは体を水面から高く持ち上げ、ワニの頭部に体を直接押し当てて強烈な電撃をお見舞いする。デンキウナギが水上の敵にどのように立ち向かうかを視覚的に示したこの衝撃的な動画は、Proceedings of the National Academy of Sciences 2016年6月21日号に掲載された論文1に付随して公開された。科学論文に添えられる動画には目を見張るものが多いが、今回の動画は中でもとりわけ奇妙なものといえよう。
今回の論文の単独著者であるバンダービルト大学(米国テネシー州ナッシュビル)の生物学者Kenneth Cataniaは、デンキウナギを使って別の実験をしていたときに、初めてこの行動を目撃したという。デンキウナギを水槽の外に出そうと、枠が金属でできたすくい網を近づけたところ、ウナギが水面から高く伸び上がり網を攻撃したのだ。彼は今回、炭素棒やアルミ板を攻撃させることで、デンキウナギのこの特異な行動を分析した。動画はそのデモンストレーションで、プラスチック製のワニの頭部にはLEDが多数埋め込まれており、デンキウナギの放電をLEDの点滅によって確認することができる。
デンキウナギは、水上で敵に直接触れることで、水中にいるときよりも強烈な電気ショックを与えることができる。また、陽極に当たる頭部を水上に高く持ち上げれば上げるほど、電圧と電流は共に著しく高くなるという。
Cataniaによれば、この現象が科学論文として報告されたのは今回が初めてだが、その行動自体は今から200年以上前に、プロイセンの探検家で博物学者のアレクサンダー・フォン・フンボルトによって目撃されていたという。実際、1807年に出版された彼の報告書2には、南米の先住民によるデンキウナギ漁の様子が詳細に記されており、デンキウナギのいる沼に数頭の馬を追い込み、ウナギに馬を攻撃させてから、放電し尽くして弱ったウナギを安全に捕まえていた、とある。しかし、その後これを裏付けるような科学的な報告はなく、この記述を信じる人はほとんどいなかった。今回のCataniaの論文は、フンボルトの描写が正しかったことの証明になったのである。
歴史的な「跳躍」
テキサス大学オースティン校(米国)で発電魚の研究をしているHarold Zakonは、今回の研究は科学史と実験科学の魅力的な融合だと言う。「Cataniaは、水槽から飛び上がるデンキウナギを見てフンボルトの記述を思い出し、実験でその詳細を明らかにしました。まさに彼の研究自体が、見事な跳躍を果たしたのです」。
Cataniaは、この数年で、デンキウナギの生態における放電の役割を次々と明らかにしており、そこから、この魚が電気を発するだけの単純な巨大魚ではなく、より高度で複雑な生き物であることが分かってきた、と語る。2014年と2015年に話題になった彼の研究によれば、デンキウナギは、身を潜めている獲物を大きく痙攣させて居場所を明らかにさせたり、スタンガンのように獲物の筋肉を動かなくさせたり、高速で泳ぐ獲物の位置を正確に探知したりするのに放電を利用しているらしい3,4。
Cataniaは、次に何を研究するかはまだ決めていないが、デンキウナギには、いまだ解明されていない最大の謎が1つ残っている、と続ける。電撃で獲物や敵を仕留める際に、デンキウナギがどのようにして自らの感電を防いでいるのか、諸説あるものの、本当の理由はまだ誰も知らないのだ。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 8
DOI: 10.1038/ndigest.2016.160805
原文
Electric eels leap from water in shock video- Nature (2016-06-06) | DOI: 10.1038/nature.2016.20038
- Laurence Denis
参考文献
- Catania, K. C. Proc. Natl. Acad. Sci. USA http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1604009113 (2016).
- von Humboldt, A. Ann. Phys. 25, 34–43 (1807).
- Catania, K. Science 346, 1231–1234 (2014).
- Catania, K. C. Nature Commun. 6, 8638 (2015).
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