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増えつつある脳腸相関の証拠

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150212

原文:Nature (2014-11-13) | doi: 10.1038/515175a | Gut-brain link grabs neuroscientists

Sara Readon

腸内細菌が心の健康に影響を与えるという説に支持が集まっている。

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「プロバイオティック」食品を販売する会社は、以前から、適正な腸内細菌を育てることが心の健康に良い影響をもたらすと主張してきたが、神経科学者たちは概してその意見には懐疑的だった。しかし現在、腸内のマイクロバイオーム(常在微生物群)が自閉症やうつ病などの疾患と関連していることを裏付ける確かな証拠が積み重ねられつつあり、神経科学者たちは、そうした結びつきが臨床的に重要なだけでなく、実験計画にも影響を与えかねないと考え始めている。

「商業的関心が集まっている割に実験的データが少な過ぎるというイメージが払拭できるといいのですが」と、カリフォルニア工科大学(米国パサデナ)の微生物学者Sarkis Mazmanianは言う。

2014年、米国立精神衛生研究所(NIMH;メリーランド州ベセスダ)は、マイクロバイオームと脳の関係を解明するための新しい研究プログラムに100万ドル(約1億2000万円)以上を投じた。そして、11月19日にワシントンD.C.で開催された北米神経科学会の大会では、「腸内微生物と脳:神経科学におけるパラダイムシフト」と題したシンポジウムが企画された。

腸のマイクロバイオームの構成と行動障害(特に自閉症)1の間に相関関係があることはこれまでも認められていたが、腸内細菌が脳に影響を及ぼす仕組みについて神経科学的に解明され始めたのは最近のことである。免疫系が一役買っていること、そして脳と消化管をつなぐ迷走神経が関与することもほぼ確実だとMazmanianは話す。また、細菌の排出物も脳に影響を及ぼすことがある。例えば、少なくとも2種類の腸内細菌(乳酸菌とビフィズス菌)で、神経伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)を産生するものがいることが確かめられている2

マイクロバイオームが脳に最も大きな影響を与えているのは一生の中でも早期の可能性が高いと、ユニバーシティ・カレッジ・コーク(アイルランド)の薬理学者John Cryanは言う。彼は、帝王切開で生まれたマウスは経腟的に生まれたマウスとは異なる細菌叢を持ち、不安度が顕著に高く、うつ病の症状を示すことを見いだし、同学会で報告した。マウスが通常最初に遭遇する細菌群は母親の腟の細菌群だが、出産過程でそれを取り込めないと、精神的健康に生涯にわたって影響が及ぶ可能性があると彼は説明する。

Mazmanianの研究室も、自閉症様の特徴をいくつか示すマウスモデルにおいて、一般的な腸内細菌であるバクテロイデス・フラジリスの量が正常なマウスよりもはるかに少ないことを2013年に報告している3。それによれば、自閉症マウスにバクテロイデス・フラジリスを経口投与すると、自閉症様の症状が改善したという。また自閉症マウスでは4-ethylphenylsulphate(4EPS)と呼ばれる細菌代謝産物の血中濃度が高いこと、そして正常なマウスに4EPSを注射すると自閉症マウスと同様の行動上の問題が起こることも、あわせて報告している。

これらの作用機序はよく分かっていない。ただ、4EPSを経口投与すると、マウスの腸が漏出性の場合にだけ行動異常が引き起こされたことから、腸が漏出性になると化学物質が腸壁を通して体内に浸透していくためこうした結果が生じたとMazmanianは考えている。自閉症患者の一部には腸管バリア機能の低下が見られることから、そうした患者には脳の代わりに腸を標的とするプロバイオティクスなどの療法を施すことで改善がもたらされる可能性が浮かぶ。だが、研究の最先端にいる人々でさえ、こうした知見をヒト全般に対する治療法に結び付ける考え方には懐疑的であり、Mazmanianも、プロバイオティクスが人間の行動に影響を及ぼすという証拠は「ほとんどないと言っても過言ではないでしょう」と話す。それでも、微生物というレンズを通して精神疾患を見る研究者の数は増えていると彼は言う。

腸内細菌に対する関心は、基礎研究でも高まっている。ミズーリ大学コロンビア校(米国)の獣医師Catherine Haganは、同じ遺伝的系統の実験用マウスでも供給元により常在細菌が大きく異なっていることを見いだし、同学会で発表した。例えば、ジャクソン・ラボラトリー産マウスと、ハーラン・ラボラトリーズ産マウスの腸内細菌を比較すると、ジャクソン・マウスの方が菌種数が少なかった。

このような違いによって、別の研究室の行動実験を再現しようとする際に重大な問題が生じる可能性があるとHaganは言う。彼女のチームが、雌のハーラン・マウスから雌のジャクソン・マウスに細菌を移植すると、このジャクソン・マウスの不安は減少し、血中のストレス関連化合物のレベルも下がった。Haganは、研究室で体外受精によりマウスを作製するときに、代理母の細菌が遺伝的母親のものと大きく違っていれば、生まれたマウスに影響が及ぶと指摘する。「研究のためマウスを使うときは、マウスが目的とする状態をモデル化しているかどうかを確認しておく必要があります」と彼女はいう。

(翻訳:古川奈々子)

参考文献

  1. Kang, D.-W. et al. PLoS ONE 8, e68322 (2013).
  2. Barrett. E. et al. J. Appl. Microbiol. 113, 411-417 (2012).
  3. Hsiao, E. Y. et al. Cell 155, 1451-1463 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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