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マウス脳で超高速エンドサイトーシスを発見

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140326

原文:Nature (2013-12-12) | doi: 10.1038/nature12842 | Faster than kiss-and-run

Soyoun Cho & Henrique von Gersdorff

脳機能を支える重要なプロセスである神経接合部の小胞エンドサイトーシスに、超高速モードがあることが明らかになり、長年使われてきたエンドサイトーシスのモデルを再評価する必要がでてきた。

思考や夢、記憶といった我々の脳機能は、脳内のニューロン間で起こるシグナルの迅速な伝播と交換によって、知覚刺激に関する情報が伝達されることにより支えられている。このシグナル伝達には、ニューロン間の接合部(シナプス)で神経伝達物質分子を分泌する小胞の恒常的な形成、吸収、およびリサイクルが必要とされる。今回、ユタ大学(米国ソルトレークシティー)のShigeki Watanabeら1は、2つの技術を巧妙に組み合わせることで、これまで知られていなかったエンドサイトーシスのモードを発見し、Nature 2013年12月12日号242ページで報告した。これは驚くべき発見であるのと同時に、この技術革新によって今後、小胞リサイクルの仕組みをこれまでにない高い時間分解能で明らかにできる可能性を示している。

シナプスは、相互接続したニューロン間で迅速なポイント・ツー・ポイント情報伝達が行われる主要な部位である。哺乳類の脳のシナプスの多くでは、シナプス前細胞の小さな神経終末(直径1µm未満)がシナプス後細胞の膜に接触している。このシナプス前終末はボタン状に膨らんでおり、中には約200個のシナプス小胞(直径30~40nm)が存在し、それぞれの小胞には約2000個の神経伝達物質分子が包み込まれている。

図1:神経終末におけるエキソサイトーシスと超高速エンドサイトーシス
神経終末の細胞膜に発現させた光活性化チャネルに青色光を照射すると、ナトリウムイオンが細胞内に流入して細胞膜が脱分極する。そして、光照射終了時に活動電位が発生すると、活性帯でカルシウムチャネルが開いてカルシウムイオンが流入し、シナプス小胞の活性帯細胞膜への融合が起きて、神経伝達物質がシナプス後膜に向かって放出される(エキソサイトーシス)。一方、超高速エンドサイトーシスでは、アクチンやダイナミンを利用した大きな小胞の膜陥入が起こり、未知のプロセスによって小胞が再形成される。

シナプス前終末の活性帯と呼ばれる特殊な膜領域(図1)には、5~10個ほどの小胞がドッキングしており、このうち1~3個が、プライミングと呼ばれる、神経伝達物質を放出する準備ができた状態になっていると考えられている。この状態で、シナプス前終末に神経インパルス(活動電位)が伝わると、細胞膜は脱分極し、電位依存性カルシウムチャネルが開いてカルシウムイオンが細胞内に流入する。これが引き金となり、活性帯にドッキングしていたシナプス小胞が膜と融合して、小胞内の神経伝達物質がシナプス後膜に向かって放出される。この一連の過程はエキソサイトーシスと呼ばれる。

小胞の枯渇を防ぐためには、細胞膜に融合した小胞膜をリサイクルして表面領域を融合前の状態に回復させる必要があり、この過程にはエンドサイトーシス(細胞膜の一部を陥入させて小胞を形成すること)が不可欠となる。いくつかの異なるタイプの神経終末では、高速モードと低速モードのエンドサイトーシスが共存しているが、その動態は、その前に起きたエキソサイトーシスの量に依存すると考えられている。低速モードは完了までに平均10~20秒を要し、軽度から強度の刺激の後に多くなる傾向がある。このモードは、小胞膜が神経終末膜に完全に融合した後に起こり、活性帯外の部位で膜をリサイクルするためにクラスリンやダイナミンなどのタンパク質を必要とすると考えられている2

一方の高速モードは、弱度または軽度の刺激後に多くなり、平均0.3~1秒しかかからない。このモードを仲介する機構はまだよく分かっていないが、大小両方の神経終末で観察されており3-6、成熟した神経終末で最も顕著かつ活発に起こっているようだ7,8。高速エンドサイトーシスの機構に関する仮説の1つに、小胞は、一時的に開いた融合孔から神経伝達物質を放出した後、孔の閉口に伴って1秒以内に元の状態に戻り膜から解離する、というモデルがあり、これはキス・アンド・ラン(kiss-and-run)と呼ばれる3,4。融合と解離を繰り返すこの機構では、小胞膜の神経終末膜への完全な膜融合は起こらない。

エンドサイトーシスにはこの他にも、長期にわたる強い刺激の最中に顕著に見られ、複数の小胞の融合につながる第3のモードが存在する。刺激の開始から約1~2秒後に起こるこのモードでは小胞の大量リサイクルが可能で、細胞膜が神経終末内部へと大きく陥入し、そこから複数のクラスリン被覆小胞が出芽する2

エンドサイトーシスとは対照的に、エキソサイトーシスは非常に速く、カルシウムチャネルの開口から5~20ミリ秒以内に、ドッキングしたシナプス小胞が融合孔を開いて完全に膜融合すると考えられている。そのため、ギリシャ文字のオメガ(Ω)の形をした小胞(完全な膜融合前に融合孔が開いた状態のシナプス小胞)を従来の電子顕微鏡(EM)で捉えるのは、これまで非常に困難だった。そんな中、Watanabeらは今回、独自の実験手法によって、オメガ形小胞のEM画像を何百枚も得ることに成功したのである。

Watanabeらは、マウスの海馬ニューロンにウイルスベクターを用いて光活性化イオンチャネルタンパク質を導入し、これを発現させた。青色光を10ミリ秒間照射すると、このチャネルが活性化してナトリウムイオンがニューロン内に入り、神経終末が脱分極して1、2個の活動電位が生じる。すると、活性帯の電位依存性カルシウムチャネルが開いてカルシウムイオンが流入し、ドッキングしたシナプス小胞の細胞膜への融合と神経伝達物質の放出が引き起こされる(図1)。

この一連のイベントは数ミリ秒以内に完了してしまうため、Watanabeらは、小胞融合開始から約10ミリ秒間に、神経終末を約34℃から0℃付近まで急速に冷却して、その過程を「フリーズ」する装置を考案した。そして、この急速凍結法を使って撮影されたEM画像から、ドッキングしたプライミング状態の小胞の一部は細胞膜の活性帯に優先的に融合する、という長年の仮説が直接的に裏付けられたのである。彼らはまた、小胞が減少した活性帯には、約4~10秒以内にドッキング状態の小胞が完全に補給されることも観察した。この時間は、シナプス抑制(ニューロンが活動依存的かつ一時的に神経伝達物質を分泌できない状態になること)からの回復に必要な時間と一致しており、プライミング状態にある小胞の減少が、短期的なシナプス抑制の主要な機構の1つであることを示唆している。

Watanabeらはさらに、光刺激後の複数のタイムポイントで神経終末の細胞膜における形態変化を捉え、エキソサイトーシスの後に小胞膜が原形質膜に完全に融合して膜表面が平らになる様子を観察した。光照射開始後約50ミリ秒で、活性帯外で膜陥入の最初の兆候(エンドサイトーシスの開始)が見られ、光照射開始後50~100ミリ秒後には、大きな陥入が観察された(図1)。形成された小胞の表面積は一般的なシナプス小胞より4倍大きく、標準的なクラスリン被覆がないように見える。この超高速エンドサイトーシスを仲介する分子群の正体は不明だが、活性帯外の部位で起きていることから、キス・アンド・ランとは明らかに異なる機構と考えられる。

この超高速モードを引き起こすシグナルは、一体何だろう? 1つ考えられる可能性に、ドッキングした小胞が完全に膜融合して崩壊した後に起こる膜張力の急激な低下がある。実際、一部の神経終末では、ニューロンの静水圧と膜張力の増加によって速いエンドサイトーシスが妨げられることが分かっている9

EMによるオメガ形の観察はこれまで、活動電位の持続時間を延長させるために、シナプスに薬剤処理を施して非生理的条件下で刺激するのが当然であった。今回Watanabeらは、1989年に発表された急速凍結EM法(シナプス小胞のエキソサイトーシスを介して神経伝達物質放出が起こることが初めて立証された)10と、最新技術である光刺激法を組み合わせ、技術的に大きな進歩をもたらした。これにより、今後、哺乳類中枢神経系のボタン型神経終末で起こるエキソサイトーシス直後の出来事を詳細に明らかにできるかもしれない。こうして、エキソサイトーシスとエンドサイトーシスを結び付ける複雑なナノ機構がこれまでになく高い時間分解能で解明されていくのを目の当たりにすると、「百聞は一見にしかず」という言葉があらためて思い出される。

(翻訳:古川奈々子)

Soyoun ChoとHenrique von Gersdorffはオレゴン健康科学大学ボラム研究所(米国ポートランド)に所属。

参考文献

  1. Watanabe, S. et al. Nature 504, 242-247 (2013).
  2. Saheki, Y. & De Camilli, P. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 4, a005645 (2012).
  3. Alabi, A. A. & Tsien, R. W. Annu. Rev. Physiol. 75, 393-422 (2013).
  4. Gandhi, S. P. & Stevens, C. F. Nature 423, 607-613 (2003).
  5. von Gersdorff, H. & Matthews, G. Nature 367, 735-739 (1994).
  6. He, L., Wu, X.-S., Mohan, R. & Wu, L.-G. Nature 444, 102-105 (2006).
  7. Renden, R. & von Gersdorff, H. J. Neurophysiol. 98, 3349-3359 (2007).
  8. Rose, T., Schoenenberger, P., Jezek, K. & Oertner, T. G. Neuron 77, 1109-1121 (2013).
  9. Heidelberger, R., Zhou, Z.-Y. & Matthews, G. J. Neurophysiol. 88, 2509-2517 (2002).
  10. Heuser, J. E. Q. J. Exp. Physiol. 74, 1051-1069 (1989).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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