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2000万回もの波に耐える海藻の秘密

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140222

原文:Nature (2013-11-21) | doi: 10.1038/503345a | High-endurance algae

Emily Carrington

海岸に生息する海藻には打ち寄せる波から繰り返し力がかかり、その力による組織の疲労は海藻の死につながりかねない。しかし、ある海藻を観察したところ、その茎状の部分の節の構造には横方向の結合がなく、巧妙な仕組みで負荷による疲労に耐えていることが分かった。

岩の多い海岸に波が繰り返し寄せている。波は約10秒に1回の割合で寄せ、そのたびに岩に付着した植物や動物を襲う。その回数は1日で8000回以上、1年でほぼ300万回にもなる。この環境では、たいていの生物はとても生き延びることはできない。このような厳しい繰り返しの負荷に耐え、繁殖することができるのは、選ばれた少数の生物だけだ。スタンフォード大学ホプキンズ海洋研究所(米国カリフォルニア州)のMark Dennyらは、波打ち際で最も成功した生物であるサンゴモを調べた。その結果、サンゴモの茎状の部分の節に組織の疲労(強度の低下)に耐える構造上の秘密があることを見いだし、Journal of Experimental Biologyに報告した1

Dennyらは、米国カリフォルニア州の波の強い海岸でよく見られる1つの海藻を集中的に調べた。これは、Calliarthron cheilosporioides(エゾシコロの仲間)という紅藻類の海藻で、大きさは手のひらほどの、枝分かれした美しい植物だ。枝の部分は、ピンク色のビーズのネックレスに似ていて、石灰化した節間部(ビーズ玉にあたる部分)を、石灰質が消失したうすい色の節がつないでいる。この多数の節は、節がなければ固いはずの構造に柔軟性を与えている。Calliarthronは、この節のおかげで、前後に揺れて打ち寄せる大きな波の衝撃を減らすことができる。一方、多くの柔軟な海藻では、繰り返し寄せる波の力の負荷によって、組織に蓄積した局所的なダメージが徐々に進行し、組織の疲労が起きやすい2。このダメージは、微小亀裂の形成によって始まる。応力が亀裂に集中し、亀裂は組織の中を長く伸びて行き、最終的に組織の破壊に至る。1921年に英国のエンジニアのアラン・アーノルド・グリフィスが的確に説明した破壊プロセスだ3。その結果、多くの海藻は波が打ち寄せるたびに弱っていき、組織疲労が原因で、名目上の強度に基づく予想よりも早く死に至る。

図1:海藻の節の構造の比較
a:海藻Calliarthron cheilosporioidesの組織には柔軟な節があり、石灰化した節間領域をつないでいる。節は、成長軸方向に長い、非常に細長い細胞でできていて、節細胞は1段(1層)しかない。Dennyらは、この細胞構造が、繰り返し打ち寄せる波の張力負荷に耐えるのに役立っていることを示した1。節細胞どうしは横方向に結合していないため、1つの細胞が壊れてもひずみエネルギーは次の細胞に伝わらない。さらに、この構造では亀裂の先端に応力が集中しないので、亀裂は組織の中を曲がりくねる経路をとり、簡単には伝わらない。
b:他の海藻の組織は、相互に連結された等径(どの方向にも直径が等しい)細胞でできていて均質な材料に近い。この材料にひとたび亀裂経路が生じると、ひずみエネルギーは亀裂の先端に向かってより簡単に流れることができ、応力が集中して、亀裂は負荷方向に対し垂直に進む。

しかし、Calliarthronは長くて6年の寿命を持ち、これは波打ち際の植物としては比較的長い。ではCalliarthronは、組織の疲労に耐性があるのだろうか。1つの手掛かりは、節の微小構造にある。Dennyらの観察によると、節は、成長軸方向に長い、非常に細長い細胞の束でできていて、その両端が石灰化した節間部をつないでいる(図1a)。節を構成するこの節細胞は、1段(1層)の細胞であり、これらの節細胞は横方向に結合していないので、応力を集中させて亀裂を細胞から細胞へと伝える構造は存在しない。このためCalliarthronは疲労に耐えることができるとDennyらは提案した。

この仕組みは、操り人形を例に単純化して説明することができる。操り人形の体と手足は糸でつるされ、それぞれの糸は操るための上方の棒につながっている。操り人形師が棒を操作すると、力は糸を通じて伝えられ、操り人形を踊らせる。1本の糸が切れた場合、その1本が支えていた腕や脚は力なく垂れ下がるが、残りの部分は操り人形師の操作で踊らせ続けることが可能だ。つまり、1本の糸の切断は、他の糸の機能にほとんど影響しない。重要なのは、糸が互いに直接にはつながっておらず、独立に働くことだ。

Dennyらはまず、Calliarthronの節は均質ではなく、平行な長い細胞の束からなり、それらは独立したケーブル群として働くという仮説を立てた。彼らは、この仮説の間接的な証拠を得るため、節の張力に対する剛性(ヤング率、E)と、剪断変形に対する剛性(剛性率、G)とを比較した(E、Gの単位はパスカル)。材料力学理論によると、均質な材料ではE/G比は3になる。細胞が横方向に結合していなければ、剛性率Gは小さくなり、E/Gは3よりもずっと大きくなるはずだ。Dennyらの実験データから、CalliarthronのE/G比は10を超えることが分かり、Calliarthronの節は、強く、伸縮性があり、ゆるく接続された平行ケーブルの束として機能していることが確かめられた。この結果は、この節の構造が、亀裂の拡大と組織の疲労を防いでいることを示唆している。

Dennyらは次に、繰り返し寄せる波の負荷を模擬する特別な装置にCalliarthronをセットし、海藻の組織の疲労を直接的に測定した。名目上の強度の60%の負荷をかけた場合、Calliarthronは1000万回を超える負荷にも耐えた。これは、10秒ごとに打ち寄せる波を3年間受け続けた場合に相当する。実際に打ち寄せる波がCalliarthronにかける力はほとんどの場合もっと小さいので、予測される海藻の寿命は、観察された6年よりもずっと長いはずだ。この結果から、Calliarthronが組織疲労で死に至る可能性はほとんどなく、節の名目上の強度を超えるほどの極端に強いまれな波に襲われた場合に死につながるのだろうとDennyらは結論した。

空間と光をめぐり海の中でCalliarthronと争う海藻の大半は、亀裂がより拡大しやすい組織構造を持つ(図1b)。波による絶え間ない負荷は、組織の新たな成長を徐々に削り取る。その結果、他の海藻の集団は、組織の名目上の強度に基づいて予測される大きさよりもずっと小さい(そのため、競争力も低い)2。対照的にCalliarthronは、節の亀裂を食い止める組織構造によって、波による刈り込みを最小化して高い競争力を得ている。

節が1段の細長い細胞からなることは、Calliarthronの特徴であり、これが疲労への耐性をもたらす。サンゴモの他の系統の節の構造はこれと異なっていて、複数段の細胞があり、剪断変形に対して独立に働かない可能性がある。このため、組織疲労への耐性は低いかもしれないとDennyらは指摘している。こうした進化がどのように起こったかについては、さらに研究が必要ではあるが、亀裂の拡大に抗い、打ち寄せる波を根気強く受け流すことができるCalliarthron独自の節構造の仕組みが明らかになった。

(翻訳:新庄直樹)

Emily Carringtonは、米国ワシントン州フライデーハーバーのワシントン大学フライデーハーバー研究所に所属。

参考文献

  1. Denny, M., Mach, K., Tepler, S. & Martone, P. J. Exp. Biol. 216, 3772–3780 (2013).
  2. Mach, K. J., Tepler, S. K., Staaf, A. V., Bohnhoff, J. C. & Denny, M. W. J. Exp. Biol. 214, 1571–1585 (2011).
  3. Griffith, A. A. Phil. Trans. R. Soc. Lond. A 221, 163–198 (1921).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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