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環境に優しい電気分解製鉄法

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130824

原文:Nature (2013-05-16) | doi: 10.1038/nature12102 | Iron production electrified

Derek Fray

科学者たちは長い間、電気を使って溶融酸化鉄から鉄と酸素を作ることを夢見てきた。 今回、高温と腐食性化学物質に耐えるアノード材料が開発され、実現に向かって一歩前進した。

2011年の世界の鉄生産量は約10億tである1。残念なことに、鉄の製造工程では二酸化炭素(CO2)が発生し、その量はこの年の大気中CO2増加量の約5%を占めている1。ただ、これは鉄1t当たりのCO2発生量が多いからではない。他の金属と比較すると、鉄の製造工程におけるCO2発生量はむしろ低い方だ。大気中CO2への影響がこれほど大きいのは、鉄の生産量自体が膨大だからである。Antoine Allanoreら2はこのたび、安価なアノード(陽極)材料を用いて、電気分解(電解)で鉄鉱石を還元する方法を開発した(Nature 2013年5月16日号353ページ)。この研究成果を利用すれば、CO2排出低減につながる環境に優しい製鉄法が実現するかもしれない。

製鉄工程では、普通、1600℃の溶鉱炉の中で、鉄鉱石(酸化鉄)が炭素によって化学的に還元される。その結果、炭素で飽和した液体の鉄と、CO2と一酸化炭素(CO)の混合ガスが生成する3。生成したCOは通常、燃やされて熱とCO2に変わる。溶鉱炉から取り出した鉄(銑鉄)は、炭素が多く含まれていて脆く、用途は少ない。有用な鉄鋼製品を得るためには、銑鉄中の炭素をCO2やCOとして除去し、炭素とともに混入した不純物を取り除く工程が必要である。

図1:電気分解(電解)による金属の抽出
アルミニウム製錬所を見れば、電解槽の部品は、過酷な状況に耐えなければならないことがよくわかる。今回Allanoreら2が開発したアノード材料は、高温と腐食性化学物質に耐えることができ、電気分解による製鉄工程に使えるかもしれない。

Credit: Bloomberg/Getty Images

別の製鉄法として、酸化鉄を水素で還元する方法がある。その水素を発生させる主な方法には、メタンと水を反応させる方法と水を電気分解する方法があるが3、いずれにしても、水素発生過程と酸化鉄還元過程の2段階が必要になる。論理的には、ここでの水素発生過程を省略して、酸化鉄を1段階で還元できる製鉄法の方が好ましいことになる。だから、Allanoreらの方法のように、電気で鉄鉱石を直接還元する方法は理にかなっているわけだ(図1)。

還元反応の条件としては、金属生成物(鉄)と電解質(酸化鉄を溶かす材料)の両方が液体として存在する条件が好ましい。その理由は、液体の方が固体よりも一般的に扱いやすいからである。液体の生成物が好ましい理由はもう1つある。溶融電解質から固体の鉄が析出する場合、酸化されやすい微粉末状の鉄ができてしまうのだ。すると、目的の反応が逆戻りしてしまう恐れがある。これらのことをすべて合わせて考えると、酸化鉄から液体鉄(炭素を含まない)と酸素を生成する電気分解方法を開発することが、全体的な課題となる。

酸化鉄は、金属酸化物の融液に直ちに溶解し、主にイオン伝導性の混合物を形成する。この混合物中では、鉄は鉄(II)イオンまたは鉄(III)イオンとして存在する。この融液から液体金属が分離しても、固体金属析出の場合ほど大きな問題は起こらないと考えられる。そこで、開発の主な課題は、適切なアノード材料を見いだすことになる。アノードは、導電性が高くなければならず、融液の影響や1600℃における遊離酸素の影響で変質してはならない。そうしたアノード材料の候補としては、金属、導電性セラミックス、サーメットの3種類が考えられる。金属は、概して、導電性は高いが酸化される可能性がある。導電性セラミックスは、融液に溶解してしまう可能性があり、展性がない。サーメットは、金属とセラミックスの混合物である4

今回Allanoreらが集中的に研究したのは、電解質に溶けにくい表面酸化物膜を形成する金属合金だった。過去に同じ研究グループが、1200℃以上でも酸化物を形成しないイリジウムがアノード材料として適当であることを報告している5。つまり、電気分解中、イリジウムは酸化によって腐食することなく、金属の状態を維持し続けるのだ。だが、イリジウムは高価で希少なので製鉄工業には使えない。

Allanoreらは今回の研究で、安価なクロム–鉄合金を調べた。そして、溶融電解質中における酸化鉄還元に必要な条件で、この合金がアノード材料として酸化に耐えることを見いだしたのだ。この合金のもう1つの利点は、アノード溶解が起こらないので不要な物質が鉄中に混入しないことである。実をいうと、微量のクロムの混入は好都合である。鉄の酸化を遅らせるためにクロムを添加する場合が多いのである。

クロム–鉄合金が酸化されると、表面に酸化物膜が形成される。この膜の主成分は、通常は、合金に含まれる元素の酸化物である。ところが、Allanoreらの研究では意外な現象が見られた。電気分解中に形成された酸化物層は、酸化クロムと酸化アルミニウムの固溶体だったのだ。この酸化アルミニウムは、電解質に由来する。電解質は、酸化鉄(III)、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムの混合物なのである。

さらに不思議なことに、電圧をかけずにクロム–鉄アノードを電解質に浸すと、酸化カルシウムと酸化アルミニウムからなる別の混合層が、酸化クロム–酸化アルミニウム層の上に形成された。この観察結果は従来の酸化理論に反するものだ。ひょっとすると、電圧をかけると正電荷を持つカルシウムイオンがアノードの正電位に反発して、表面酸化物に含まれないようになるのかもしれない。

今回の研究結果を受けて、酸化鉄の電気分解用の安価な合金の開発がさらに進むだろう。また、試験的な大型反応槽についても、設計方法が検討されるようになるだろう。しかし、Allanoreらの成果を商業利用可能にするには、なお相当な技術開発が必要である。例えば、従来の製鉄工程の化学反応は三次元的に起こるが、電気分解反応は常に電極表面で二次元的に起こる。したがって、電解反応槽で溶鉱炉の空時収量(単位時間、単位空間当たりの収量)に対抗するのは難しいだろう。

また、アノードとカソード(陰極)の距離が長すぎると電解質における電圧損失が大きくなり、逆に短すぎると、各電極で生じる生成物(鉄と酸素)が接触して反応し、酸化鉄が再生成してしまう恐れがある。このため、電解槽の設計の際、両極が適度な距離となるよう調節する必要がある。さらに、高い生成速度を維持するためには、系の電流密度を高く維持しなければならない。

なすべきことは山のようにあるが、理論的には、既存技術よりも環境に優しい工程が実現する可能性がある。こうした電気分解法は、鉄以外の金属の抽出にも適用できるかもしれない。他にも、おもしろい分野への応用が期待される。このプロセスを金属酸化物から酸素を作る方法として見れば、宇宙探査に非常に役立つ技術になる。もしこの方法を月で実施したら、生成した酸素は、ロケットに必要な燃料–酸素混合物に使えるし、生命を維持するためにも使えるのだ6,7。これによって、人類の「太陽系への移住」構想も現実味を増すかもしれないというわけだ。

(翻訳:藤野正美)

Derek Frayはケンブリッジ大学材料科学・冶金学科に所属。

参考文献

  1. www.worldsteel.org
  2. Allanore, A., Yin, L. & Sadoway, D. R. Nature 497, 353–356 (2013).
  3. Habashi, F. Handbook of Extractive Metallurgy (Wiley-VCH, 1997).
  4. Sadoway, D. R. J. Metals 53, 34–35 (2001).
  5. Kim, H., Paramore, J., Allanore, A. & Sadoway, D. R. J. Electrochem. Soc. 158, 101–105 (2011).
  6. Sanderson, K. Nature http://dx.doi.org/10.1038/news.2009.803 (2009).
  7. Schwandt, C., Hamilton, J. A., Fray, D. J. & Crawford, I. A. Planet. Space Sci. 74, 49–56 (2011).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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