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世界最小の映画

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130808a

IBM社が原子を並べたアニメーション映画を製作

最後のフロンティアはどこか?―スタートレックのファンなら宇宙と答えるだろうが、IBM社は極微の世界を考えている。

同社の研究部門は5月、あるコマ撮り映画を発表した。主役は大きさが原子数個分の棒線画だ。「A Boy and His Atom」という題名のこの映画は、アトムという名の登場人物が個々の原子と仲良くなり、ダンスやキャッチボールをしたり、トランポリンの上で跳ねたりして遊ぶというストーリーになっている。この演技は、温度と圧力、振動を使って、個々の原子を正確に捕捉して、配置したり操ったりする能力がどこまで向上してきた、明確に示している。

「クレイ・アニメの『ウォレスとグルミット』の話を作るのと全く同じように、まず最初に登場人物を作って場面に置き、写真を撮るわけです」と、IBMリサーチの首席研究員Andreas Heinrichは説明する。「次に人物の位置を変え、次の写真を撮るのです」。Heinrichのチームは原子の配置を繰り返し調整しながら242枚の画像を撮影し、それらをつなぎ合わせて映画を完成させた。これまでに製作された世界最小のコマ撮り映画としてギネスブックに認定された。

登場人物を作るために使われた個々の点は、実は銅の表面にくっついた一酸化炭素の分子で、その酸素原子だけが見えるように置かれている。重さ2tの走査型トンネル顕微鏡を使って、この表面を1億倍以上に拡大した。顕微鏡は先端が非常に鋭い針を備えていて、この針を使って分子を特定の位置に移動させた。

個々の原子を操作するこの能力は、計算と通信の将来に大きな可能性をもたらす。「私たちはデータの移動と格納を原子スケールで行う研究に関心を持っています」と、量子計算を研究するHeinrichは言う。従来のコンピューターが情報を記録するのに0または1のビットを使うのに対し、量子コンピューターでは、少なくとも原理的には0と同時に1でもある量子ビット(キュービット)を利用する。古典的なビットを使うコンピューターよりも高速に計算できる可能性があり、計算とデータ記憶に原子を利用できるかどうかを見極めるのが、Heinrichの研究室の任務だという。

IBM社はこの映画を、そうした研究を一般人に紹介するための手段と考えている。映画のストーリーは「科学の言葉」で語られているものの、科学のストーリーである必要はないとHeinrichは言う。「これは少年が友達とダンスをするヒューマンストーリーなのです」。

(翻訳:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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