News

クジラが長く潜っていられる理由

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130804

原文:Nature (2013-06-13) | doi: 10.1038/nature.2013.13202 | Making the most of muscle oxygen

Brian Owens

過酷な環境条件下でも酸素を得るために、動物はさまざまな方法を進化させてきた。今回、3つの研究から動物たちの独自の戦略が明らかになったが、どの方法も筋肉の酸素を最大限に活用するよう進化を遂げてきている。

Credit: THINKSTOCK

生命維持には酸素が不可欠である。今回、種々の動物がどのような離れ業で酸素を得ているか、また彼らの独特な能力はどのように進化してきたかを明らかにした3つの論文が、Scienceに掲載された。

3つの論文は共に、「筋肉に効率的に酸素を供給するシステムは、どのように生じたか」という共通の問いの答えを探しているのだと、ローハンプトン大学(英国ロンドン)の動物生理学者Enrico Rezendeは言う1–3

最初の論文1では、リバプール大学(英国)の動物学者Michael Berenbrinkらが、深海にまで潜ることのできる哺乳類のミオグロビンタンパク質に関する研究結果を報告している。ミオグロビンは筋肉中で酸素貯蔵の役割を主に担う分子で、筋組織が赤色に見えるのはこのタンパク質のためだ。またクジラのような優れた潜水能力を持つ動物の筋肉は、そこにミオグロビンが大量に含まれるために黒く見える。「それでは話が合わないと思った」とBerenbrinkは話す。ミオグロビンは、黒く見えるほどの高濃度になると、凝集して役に立たないはずだからだ。

そこで彼らは、哺乳類のミオグロビンのアミノ酸配列を詳細に調べ、水生哺乳類や潜水する哺乳類のミオグロビンは、陸生哺乳類のミオグロビンに比べてはるかに大量の正電荷を持つことを発見した。水生哺乳類のミオグロビンが高い濃度で存在できるのは、ミオグロビン分子が静電気によって互いに反発し合うからだとBerenbrinkは考えている。

過去へと潜る

またBerenbrinkらは、現存動物の祖先のミオグロビン配列についても復元を試み、その電荷と動物個体の体重に基づいて、絶滅した水生哺乳類の最大潜水可能時間を推測した。「ある動物のミオグロビン配列がわかれば、それがうまく潜水できるかどうかを判定できます」とBerenbrinkは語る。

その結果、例えばクジラ類の初期の祖先であるパキケトゥス(Pakicetus、オオカミ程度の大きさの陸生動物)は、せいぜい90秒しか水中に潜っていられなかったことがわかった。しかし、その約1500万年後に出現した体重約6tのバシロサウルス(Basilosaurus)は、何とか17分ほど潜っていられるまで進化していたようだ。そして現代のクジラの多くは、1時間以上も潜っていられる。

2つ目の論文2では、ジェームズ・クック大学(オーストラリア・クイーンズランド州タウンズヴィル)の魚類生理学者Jodie Rummerらが、条鰭類だけに見られる独特なヘモグロビンに関する研究結果を報告している。ヘモグロビンは血液中の酸素輸送分子だが、この条鰭類特有のヘモグロビンは酸性度に対する感受性が高く、周囲のpHが低下すると急激に酸素を全て放出する。この現象は「ルート効果」と呼ばれる。

このルート効果は魚類の鰾ではよく知られており、強い圧力勾配に逆らって鰾内部に酸素を送り込むのに役立っている。しかし、このルート効果が条鰭類の筋肉への酸素供給を促進しているかどうかは不明であった。そこでRummerが、魚の筋肉に酸素センサーを埋め込んで水中に放ち、二酸化炭素濃度の上昇などの中程度のストレス条件下にさらしたところ、筋肉中の酸素レベルが65%上昇することがわかった。これは、赤血球の内部に二酸化酸素を運び込む酵素が働いて赤血球内の酸性度が上がり、ヘモグロビンから酸素が遊離したためだ。

サケなどの条鰭類が高い運動持久力を持ち、生存競争で優位に立てた原動力は、このルート型ヘモグロビンかもしれないと、Rummerらは考えている。「こうした魚類は、種の数でいえば脊椎動物の約50%を占めています。このヘモグロビンが、進化における彼らの成功のカギだったのかもしれません」。

最後の論文3は、ネブラスカ大学(米国リンカーン)の分子生物学者Jay Storzらが行った、シカシロアシネズミ(Peromyscus maniculatus)のヘモグロビンに関する研究報告である。シカネズミのヘモグロビンの型は、生息場所の標高によって異なることが知られ、高地型は、低地型よりも酸素に対する親和性が高い。Storzは、3つのクラスターに分かれた12個の変異がこれら2つの型の違いを生み出すことを発見した。

今回、動物は筋肉への酸素供給量を増やすためにそれぞれ異なる方法を編み出していたことがわかったが、いずれも、困難な環境条件の下で動物がよりうまく活動できるよう助けるものであった。筋肉への酸素供給量を増やすことは生存に非常に有利であったため、さまざまな経路において何回も進化が起こってきた。「酸素供給量が増加すると、ほぼ必ずといっていいほど、活動能力が向上したはずです」と、RezendeはScienceのCommentary欄で述べている4

(翻訳:宮下悦子、要約:編集部)

参考文献

  1. Mirceta, S. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1234192 (2013).
  2. Rummer, J. L. et al. Science 340, 1327–1329 (2013).
  3. Natarajan, C. et al. Science 340, 1324–1327 (2013).
  4. Rezende, E. L. Science 340, 1293–1294 (2013).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度