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脳の画像から、夢と心を読む

神谷 之康

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130720

人の心をfMRI画像から読み解くという画期的な技術を開発し、世界を驚かせてきた計算神経科学者、神谷之康氏。機械学習によるパターン認識というコンピューターの手法を神経科学に持ち込み、脳の解明に挑む。今回、眠っている人の夢の中身をfMRI画像から解読することに成功した。

–– 夢の内容がわかる技術を開発したそうですね1。うっかり、うたた寝もできない(笑)。

神谷: 現状では、fMRI(機能的磁気共鳴画像)装置の中で寝てもらう必要があるので、夢の内容を言い当てられる心配はありませんよ(笑)。それに、脳内の構造には指紋のように微妙な個人差があり、夢の解読には、あらかじめその人自身の脳活動データを収集しておくという準備も必要になりますしね。

–– 脳活動データとは?

神谷: fMRI画像データです。fMRIとは、脳活動に伴う血流の変化を測定する装置。物や風景の写真を見たときの脳が活動する様子を、あらかじめfMRI画像データとして収集しておきます。このデータを使って、夢解読コンピュータープログラム(デコーダー)を各被験者用に調整しておくことが必要なのです。

–– どこまで夢が読めるのですか?

神谷: 睡眠中の被験者の脳fMRI画像データをコンピューターが自動的に解析し、その夢に登場した物の名前を挙げてくれます。残念ながら、それ以上の夢の内容、例えば物の色や形、動き、感情などはまだ解読できません。

夢を研究する

–– 脳のどこを撮影するのですか?

神谷: 視覚野です。後頭部にあって、視覚情報を処理する部位ですが、夢を見ているときも、目で実際に物を見ているときと同じような脳の活動が生じていることを、今回の研究で確認できました。

–– なぜ夢の研究を……?

神谷: 私は計算神経科学者として、視覚の研究にずっと携わってきましたが、もともと、脳と意識の関係に興味がありました。そして、夢は、目からの入力信号なしで、つまり外界からの刺激がなくても見える、自発的に生み出されるイメージです。ですから、脳と意識の関係を調べるうえでは、大変興味深い脳活動ではないかと思うのです。また、想像、幻覚などの解読にもつなげられると思います。

–– 今回の研究で苦労した点は?

神谷: 夢を見ることはコントロールできないので、どのように実験を組み立てるか、試行錯誤でした。最終的には、夢で見た内容を、自由に言葉で報告してもらうという方法に落ち着きました。物体や風景を単語(名詞)で報告してもらうのです。その後、その名詞を上位のカテゴリーに分類整理します。例えば「A子さん」は「女性」、「ホテル」は「建物」といったように。

–– 夢を見ているときのデータを大量に得るのにも工夫したそうですね。

神谷: はい。入眠時の夢を計測することにしました。朝起きたときに覚えている夢は「レム睡眠」のときに起こっていることが多いのですが、たくさんの夢のデータを得るために、入眠時に見るイメージに注目しました。入眠時の脳波パターンは「レム睡眠」と似ているのです。

脳波計は、頭皮の電位を測る装置で、その示す波形から、夢を見ているかどうかがある程度判断できるのです。被験者には、脳波計を頭に付けて、fMRI装置の中で眠ってもらいます。脳波計の表示から、夢を見ていると判断されたら、すぐに被験者を起こして、夢の内容を報告してもらいます。時間が経つと、忘れてしまうのでね。報告したら、また眠ってもらう。その繰り返しです。

脳波を読む作業は技術を要します。それを専門に研究してきた玉置應子さん(現・ブラウン大学)に研究員として来ていただきました。

脳活動をデコードする

–– 夢解読コンピュータープログラムについて教えてください。

神谷: 基本的な仕組みは、2005年に考えつきました2。コンピューターの機械学習によるパターン認識と脳計測を組み合わせた技術です。

fMRI画像の画素1個1個のデータを解析するのではなく、多数の画素が作り出すパターンを解析するのが、パターン認識プログラム。機械学習とは、コンピューター自体が入力されたデータから学習していくプログラムのことです。今回の場合は、fMRI画像とそれに対応する見ている対象のデータを入力することによって、その対応関係をコンピューターが学習していきます。

こうした手法は脳科学の分野に応用されていませんでした。おかげさまで、Scientific American誌が選んだ2005年の「科学技術に貢献した50人」に選ばれました。

–– この手法にはどんな利点があったのですか?

神谷: まず、解像度の問題を解決できたことです。fMRI画像で測定できる解像度(画素のサイズ)は3〜5 mm角の立体。これは神経細胞に比べるとずっと大きく、神経活動の微細な変化は読み取れない可能性が高いわけです。

しかし、1個の画素ではなく、多数の画素が構成するパターンを解析することにより、解像度以下の微細な信号が抽出できる可能性があります。脳のfMRI画像の場合、それがうまくいったのです。

また、機械学習によって、fMRI画像と視覚対象のデータセットから、コンピューターにその対応関係を学習させることができます。脳の神経細胞や神経回路の仕組みがよくわからなくても可能です。

この手法を使って私たちはこれまでに、例えば、被験者が見ている図形をそのときのfMRI画像から再構成することに成功しました3。何を見ているかを、そのときの脳画像からデコード(解読)できたわけです。

図1:睡眠中の被験者のfMRI画像をデコーダーが解読し、見ている夢の内容を単語とそのサイズで示す仕組み。その単語に関連した写真をWeb上から収集して表示することもできる。

Credit: 神谷之康

–– デコードって難しそうですね……。

神谷: 脳の活動は、神経細胞のネットワークからなる回路の活動です。しかし、この回路の活動の仕組みが理解できなくても、そこに表現されている知覚の内容や運動についての情報が解読できればよいという考えです。

–– 脳をデコードするという発想は、どのような背景で思いつかれたのですか?

神谷: イメージングを学ぼうと思って、2005年に、プリンストン大学の友人の研究室に滞在していたときのことです。従来の脳のイメージング研究は、被験者が何かの課題を行ったときに、fMRI画像に有意差があったかどうかといった、そういう研究が主だと気が付きました。そして、それは大変もどかしく思えました。

私は、fMRI画像から得られる信号を解読し、そこから脳(心)の状態や内容を具体的に読み出す方法を考案しようと思いつきました。それが、先ほど説明した機械学習によるデコーディングという技術につながったのです。

–– 生物学や医学に重きを置く従来の神経科学者には、どのように受け止められていますか?

神谷: なかなか理解してもらえないときもありましたが、議論をすると、その後はたいてい良好な関係になります。新しく開発した技術が重要であるほど、従来の技術に大きなインパクトを与えるので、始めは抵抗があるものと思っていますが、今後もそのような技術の開発をめざしていくつもりです。

–– 心を読む方法が悪用される危険はありませんか?

神谷: 我々の方法に限らず、脳の働きの研究では、悪用されるおそれはあると考えておいたほうがよいと思います。心の内を読むmind readingの研究では、そうした危険性の存在を、研究者側も常に考慮すべきでしょう。

–– 脳研究を見渡してどう思いますか?

神谷: 脳研究は、我々の研究も含め、やっと定量的な予測や制御ができるような段階になってきました。ようやく、きちんとしたサイエンスになっていくのだと思います。

私たちの研究についていえば、夢の解読から、心の働き、脳の仕組みについての理解を深められるでしょう。精神疾患の診断や、ブレインマシンインターフェースなどへの応用も期待されるところです。

–– ありがとうございました。

聞き手は藤川良子(サイエンスライター)。

Author Profile

神谷 之康(かみたに・ゆきやす)

ATR脳情報研究所 神経情報学研究室室長。1995年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。2001年カリフォルニア工科大学大学院博士課程修了。2001年ハーバード大学医学系大学院研究員、2003年プリンストン大学客員スタッフ。2004年ATR脳情報研究所研究員、主任研究員を経て、2008年より現職。第27回 塚原仲晃記念賞受賞。

神谷 之康氏

参考文献

  1. Horikawa, T., et al. Science 340, 639-642 (2013).
  2. Kamitani, Y., & Tong, F. Nature Neuroscience 8, 679-685 (2005).
  3. Miyawaki, Y., et al. Neuron 60, 915-929 (2008).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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