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プラズマメスの可能性

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130706a

無出血手術が可能で、治療効果も期待されている

医学でプラズマといえば、普通は血液の液体成分、血漿のことを指す。だが最近は、第四の物質状態であるプラズマもしばしば登場するようになった。プラズマの出るブロートーチ(いわゆるバーナー)を作り、人体を切って無出血手術をする方法が研究されているのだ。

20世紀初めから、プラズマを使ってイボなどの切除は行われていた。20世紀後半になると、工業用プラズマカッターで金属を切断するように、プラズマジェットで人体を切り分ける方法が研究され始めた。プラズマメスは、切ったそばから組織を焼灼する。「スターウォーズのライトセーバー(光る剣)のようなものです」とワシントンの外科医Jerome Canadyは言う。彼は初期のプラズマメスの発明者だ。

内出血は時に致命的なので、その防止は救命につながる可能性がある。輸血が最小限ですむ点も重要で、戦場では特にそうだ。米国特殊作戦軍は2008年にプラズマメスの実地試験を行った。

プラズマメスはアルゴンなどのガスを加圧し、細い経路を通じて流す。ガスは経路で電荷を獲得し、時速2400km以上で噴出してプラズマの刃となる。メスに使われるプラズマは比較的低温で、直接に触れた組織は焼灼されるが、周囲の細胞の温度は36℃ほどにしか上がらない。また、外科用メスの刃よりも鋭いとCanadyは言う。従来のメスでは切り口から0.4~0.8mmが巻き添えになって傷つくが、プラズマメスなら0.1~0.2mmにとどまるという。

さらに、プラズマには治療効果があるらしいこともわかってきた。電気的に中性な空気中の酸素分子と窒素分子がプラズマによって電気を帯び、それらの分子がオゾンと窒素酸化物を形成して、細菌やがん細胞を死滅させるらしい。

ワシントンにあるジョージ・ワシントン・ナノテクノロジー研究所長のプラズマ物理学者Michael Keidarらは、プラズマが人体に及ぼす影響を調べるため、5年間で44万5000ドルの研究費を得た。プラズマを生成するのに必要な電気パルスの周波数と電圧、波形を調整すると、生体組織への貫通深度が変わるだろうとみている。

そうしたことがわかれば、切断の精度が高まるほか、抗菌効果などを最適化できる可能性がある。「プラズマの医療応用について、これまで基礎研究がなされてきませんでした。プラズマの作用メカニズムを完全に理解することで、新たな門戸が開けると期待しています」とCanadyは言う。

(翻訳:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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