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インスリン分泌細胞の増殖を促進する新規ホルモン発見

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130702

原文:Nature (2013-04-25) | doi: 10.1038/nature.2013.12878 | Liver hormone offers hope for diabetes treatment

Chris Palmer

マウスにおいて、膵臓のインスリン分泌細胞の増殖を促進する新規ホルモンが発見された。ここから糖尿病の新しい治療法が生まれる期待が高まっている。

Credit: THINKSTOCK

ハーバード幹細胞研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の共同所長であるDouglas Meltonが率いる研究チームは、マウスにおいて、膵臓のインスリン分泌細胞(膵β細胞)の増殖を促進するベータトロフィンというホルモンを発見した。この結果は、2013年4月25日、Cellにオンライン掲載された1

Meltonの研究チームは、まず、インスリン受容体に結合してそのシグナル伝達を阻害するペプチドにより、インスリン抵抗性を誘導したマウスモデルを作製した。このマウスモデルでは、インスリン抵抗性を代償するためにβ細胞の自己複製(増殖)が起こる。

研究チームは、このマウスモデルを用いて、β細胞の自己複製に関わっている遺伝子を探索し、主に肝臓から分泌されるベータトロフィンを同定した。8週齢マウスの肝臓にベータトロフィンを発現させると、インスリンを分泌する膵β細胞の増殖が平均17倍上昇した。ベータトロフィンはヒトの肝臓にも発現していると、研究チームは言う。

「新しいホルモンが見つかるなんて、めったにありません。興味深いことに、このベータトロフィンは、非常に特異的で、β細胞にしか作用せず、しかも、非常に強力な作用を持っています」と、Meltonは言う。

膵β細胞は、マウスにおいてもヒトにおいても、胎生期および新生児期にのみ急速に増加し、成体期にはほとんど増加しない。2型糖尿病は世界中で3億人以上が罹患しているとされる代謝性疾患であるが、この主要な原因は、加齢とともに膵β細胞機能が低下することである。2型糖尿病と1型糖尿病(膵β細胞への自己免疫攻撃によって引き起こされる)に直接関わる医療費は、米国だけでも、毎年1760億ドル(約17兆6000万円)にもなる。

治療への期待

Meltonは、ベータトロフィンを月1回、そしておそらくは年1回注射するだけでも、膵β細胞に十分な増殖活性を誘導でき、2型糖尿病患者にインスリンを毎日注射するのと同レベルの血糖調節が可能だろうと考えている。さらに重要なのは、ベータトロフィンを投与した場合、インスリンは体内で自己産生されると考えられるので、合併症が少なくなる可能性があることだ。Meltonはまた、このベータトロフィンが1型糖尿病患者にも役立つよう期待している。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校糖尿病センター(米国)長のMatthias Hebrokは、この研究が「大きな進歩であり、非常に興味深い」と言う。Hebrokは、この実験が、さらに高齢で、糖尿病になりつつあるマウスでも再現されるのかどうか、知りたがっている。「そうしたマウスでも、ベータトロフィン投与により、本当に膵β細胞の増殖能を高めることができるのでしょうか?」と話す。

デンマーク幹細胞センター(コペンハーゲン)長のHenrik Sembは、「マウス膵β細胞の増殖を効率的に促進する因子の同定は、非常に重要な発見です。ベータトロフィンの発見は、膵β細胞の増殖の基礎となる機構を解明する上で、すばらしい出発点になるでしょう」と言う。なぜなら、ヒトの体内で膵β細胞を増殖させることは、現時点でも難しいからだ。

Meltonは、ヒトで臨床試験を行うのに十分な量のベータトロフィンを産生するには、あと2年ほどかかるだろうと言う。彼は、ベータトロフィンの受容体やその作用機構を明らかにするために研究を進めている。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Yi, P., Park, J.-S. & Melton, D. A. Cell http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2013.04.008 (2013).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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