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遺伝学に波紋を呼ぶ環状RNA

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130530

原文:Nature (2013-02-28) | doi: 10.1038/494415a | Circular RNAs throw genetics for a loop

Heidi Ledford

マイクロRNAはメッセンジャーRNAと結合して遺伝子発現を抑えることが知られているが、巨大な環状RNAは、このマイクロRNAをスポンジのようにどんどん吸い取ってしまうらしい。

RNA分子の珍品コレクションに新たな一品が加わった。それは我々の体の中で自然に生じる環状のRNA分子であり、しかも遺伝子の発現に影響を与えるという代物だ。

Credit: THINKSTOCK

3月21日号のNatureに掲載された2つの論文で、少なくともこのような環状分子の中には、ちょうどスポンジが水を吸い取るように、マイクロRNAと呼ぶ小さな遺伝子調節因子をどんどん吸着して、その作用を止めてしまうものがあると報告された1,2

研究者たちは、この環状RNAには、ほかにも多くの機能があるのではないかと考えている。「未解明のRNA分子で構成された“異次元のRNAワールド”があるのです」と語るのは、一方の論文1の代表執筆者で、ドイツのマックス・デルブリュック分子医学センター(ベルリン)のシステム生物学者のNikolaus Rajewskyだ。

今回の発見は、RNAが、DNAからタンパク質へ暗号を伝える単なるメッセンジャー役をはるかに超えた存在であることを、改めて思い出させてくれた。この20年間、それまでの枠には収まらない多くのRNA分子が見つかってきた。意外なほど短かったり、驚くほど長かったり、また中には、常識に逆らって他のRNA鎖がタンパク質に翻訳されるのを阻害するものさえあった。

ただし、その大半は線状分子であった。一部、植物や動物で環状のRNAがみられたが、それらは偶然に生じたものか、実験による人為的な産物として片づけられてきた。そう語るのが、ノースウェスタン大学(米国イリノイ州エバンストン)の分子生物学者Erik Sontheimerだ。

だが、線状RNA分子が圧倒的に多いという話は幻想かもしれない。典型的なRNAシークエンス法では、特徴的な「尾部」を持つ分子だけが単離される。しかし、環状のRNAは両端が連結されているために特徴的尾部がなく、これまでは見逃されてきたからだ。

しかし、シークエンス法の進歩のおかげで、RNA塩基配列についての膨大なデータが集積されてきており、尾部を持たないRNAのデータも得られている。昨年、スタンフォード大学医学系大学院(米国カリフォルニア州)の分子生物学者Julia Salzmanたちが、環状RNAという異次元ワールドからの初めての便りを取り次いだ。従来の方法では見逃していた可能性のあるRNA分子を探す中で、大量のヒト環状RNAを発見したのである3

またRajewskyたちは、データベースから環状RNA分子の情報を探索し、線虫、マウス、ヒトから何千もの環状RNA分子を発見した。「これらもまた、従来のやり方では見つからなかった重要なRNAで、こうした驚くべき発見が、いつになったら止まるのかわからないほどです」とSontheimerは語る。

Rajewskyのグループや、Thomas HansenとJorgen Kjemsをリーダーとするオーフス大学(デンマーク)のグループが注目したのは、ヒトとマウスの脳で発現している、約1500ヌクレオチドの長さの巨大な環状RNAである。両グループは、miR-7と呼ぶマイクロRNAの結合部位が、この環状RNAに約70か所も含まれていることを明らかにした。マイクロRNAというのは短いRNA鎖で、メッセンジャーRNAと結合してその翻訳を阻害することにより、遺伝子の発現を阻害する。なお、miR-7の標的配列は、がんやパーキンソン病に関係することが知られている。

Hansenたちは、環状RNAの発現によって、阻害因子であるマイクロRNAの働きが阻害されることに気がついた。おそらく、環状RNAがmiR-7を捕らえて不活性化した結果、miR-7の阻害活性が抑えられて、標的遺伝子の発現が亢進したのだろう。Rajewskyのグループは、環状RNAを発現させたり、miR-7を欠失させたりすると、脳の発生が変化することをゼブラフィッシュで明らかにしている。

さらに、環状RNAは細胞外からのマイクロRNAを吸着する可能性もある、とRajewskyは述べている。一部の環状RNAには、ウイルスのマイクロRNA(宿主の免疫応答を阻害する働きを持つ)の結合部位と思われる部位があるからだ。環状RNAがRNA結合タンパク質と相互作用する可能性さえ、Rajewskyは考えている。Salzmanもこの見方に賛同しており、「環状RNAは非常に豊富にあるので、おそらく機能的役割も多岐にわたるでしょう」と語っている。

ところで、RNAは他にどのような形をとる可能性があるのだろうか。「見逃している可能性のある分子の形と言っても、私は他には思いつきませんが、いずれ誰かが見つけるでしょう」とマサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の分子生物学者Phillip Sharpは笑う。

(翻訳:宮下悦子)

参考文献

  1. Memczak , S. et al. Nature 495, 333-338 (2013).
  2. Hansen, T. B. et al.Nature 495, 384-388 (2013).
  3. Salzman, J., Gawad, C., Wang, P. L., Lacayo, N. & Brown, P. O. PLoS ONE7, e30733 (2012).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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