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古代人でも動脈硬化は珍しくなかった

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130503

原文:Nature (2013-03-11) | doi: 10.1038/nature.2013.12568 | Mummies reveal that clogged arteries plagued the ancient world

Jo Marchant

ミイラのCTスキャン画像の解析研究から、心疾患の要因は現代風の食生活だけではないことが示唆された。

動脈硬化による血管の狭窄は、現代人の不健康な生活様式がもたらす典型的な病態だと見られている。しかし、この病態は古代のヒト社会でも珍しくなかったようだ。ジャンクフードと無縁で、運動量も多かったはずの狩猟採集民の間でも、動脈硬化はありふれたものであったことが、ミイラの研究から明らかになった。

「昔の生活に戻れば動脈硬化の問題はすべて解決するだろうという見方もありました。しかし、古代人にも普通に冠動脈疾患があったのです」と、研究チームの主要メンバーの1人であるカリフォルニア大学アーバイン校(米国)の心臓専門医Greg Thomasは話す。この論文は最近のThe Lancetに掲載された1

Credit: ISTOCKPHOTO/THINKSTOCK

詰まった動脈

動脈の内壁に、コレステロールと免疫細胞のマクロファージからなる「プラーク」と呼ばれる隆起が生じた状態を、アテローム性動脈硬化と呼ぶ。この状態になると、動脈内径が狭くなり、また動脈壁が硬くなって、心筋梗塞や脳卒中、その他の心血管疾患を招くおそれがある。つまりアテローム性動脈硬化は、先進諸国の主要な死因と関連している病態なのだ。

運動不足と、飽和脂肪の多い食生活は、どちらも血中の「悪玉」コレステロール値を上昇させることがわかっており、この2つの生活習慣がプラーク形成のリスクを増大させると考えられている。そのため、心疾患を避けるには、狩猟採集民時代の祖先たちが送っていたような生活を心がけて、タンパク質や不飽和脂肪が豊富で加工されていない自然食品を常食とすべきだという意見が出されている2

それが本当かどうかを確かめるため、Thomasたちは、大きく異なる4つのヒト集団(エジプト人、ペルー人、アメリカ南西部の古代プエブロ族、アラスカ・アリューシャン列島のアレウト族)に由来するミイラ137体について、CTスキャン画像の解析を行った。エジプトのミイラは人の手で防腐処理が施されていたが、それ以外のミイラは、極度の乾燥もしくは低温条件下で自然に保存されていたものだ。

4つの集団の生活様式は異なっており、例えば古代プエブロ族は定着農耕型で狩猟採集もした民族だったが、アレウト族はもっぱら海産物を食べる狩猟採集民だった。

研究チームは、ミイラのスキャン画像をチェックし、動脈の内壁や動脈の通り道と思われる部位に石灰化したプラークがあるかどうかを調べた。すると、137体のミイラのうち47体(34%)で、おそらく、もしくは確実にアテローム性動脈硬化があるという診断がなされた。なお、4集団それぞれでこの診断が下された割合は、古代プエブロ族の25%からアレウト族の60%まで幅があった。

古代からある病

研究チームによれば、古代ミイラに見られる動脈硬化の程度は、現代人集団とほぼ同じことがわかったという。この結果はThomasにとって「ショック」だった。

Thomasのチームは以前、古代エジプトの一群のミイラでアテローム性動脈硬化が見られることを報告した3。しかし、KNH生物医学エジプト学センター(英国マンチェスター)のRosalie Davidをはじめとする専門家たちは、それらのミイラは上流階級の人々であり、おそらく現代の美食家と同じくらい贅沢な食事をしていたのだろうと主張した4

ところが「今回我々がスキャン画像を撮ったのは、一般市民の男女のミイラであり、彼らにもアテローム性動脈硬化があった訳です」とThomas。これらの人々に動脈硬化を引き起こしたのは、過剰なコレステロールではなく、煙の吸入や慢性感染症などによる重度の炎症だったのではないかと、彼は考えている。

アテローム性動脈硬化の発症機序を調べているワシントン大学(米国シアトル)のMichael Rosenfeldは、煙の吸入などの要因がこの病態の進行を早める場合があることは認めている。その一方で彼は、動物研究では、不健康な食生活と不良な遺伝子のどちらによるとしても、血中脂肪量が多くならなければアテローム性動脈硬化は発生しないことも指摘する。そしてRosenfeldは、これらのミイラに見られるプラークは、アテローム性動脈硬化のせいではなく、腎臓病や骨粗しょう症によって生じたのではないかと話す。「私は今でも、アテローム性動脈硬化の発生に現代の生活様式が大きく関わっていると確信しています」。

しかしThomasは、今回の結果を踏まえれば、心血管疾患が単に不健康な生活様式の結果だと考えるべきではないと言う。「我々はこれまで、心疾患はなくすことができるものだと高をくくっていました。おそらく、その進行を遅くすることはできるでしょう。でも、予防できると考えるのは非現実的かもしれません」。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Thompson, R. C. et al. The Lancet http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(13)60598-X (2013).
  2. O’Keefe, J. H. Jr & Cordain, L. Mayo Clin. Proc. 79, 101-108 (2004).
  3. Allam, A. H., Thompson, R. C., Wann, L. S., Miyamoto, M. L. & Thomas, G. S. J. Am. Med. Assoc. 302, 2091-2094 (2009).
  4. David, A. R., Kershaw, A. & Heagerty, A. The Lancet 375, 718-719 (2010).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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