News

ネアンデルタール人の皮革加工用道具

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2013.131003

原文:Nature (2013-08-12) | doi: 10.1038/nature.2013.13542 | Neanderthals made leather-working tools like those in use today

Ewen Callaway

ネアンデルタール人は、 高級ハンドバッグの製造に使われている皮革加工用道具を作っていたようだ。

フランス南西部の洞窟で発見された骨角器は、ネアンデルタール人の皮革加工法が高度なものだったことを示唆している。

IMAGE COURTESY OF THE ABRI PEYRONY AND PECHDE-L’AZE I PROJECTS

4万年以上前のネアンデルタール遺跡から、現代でも皮革の艶出しと防水加工に使われている道具の一種が発見された。その骨角器はリスワー(艶出し用の「こて」)として知られるが、これまでこの道具は現生人類のみが使っていると考えられていた。今回の発見は、ネアンデルタール人と現生人類のそれぞれが独自にその道具を作り出した可能性を示している。この成果は8月12日、Proceedings of the National Academy of Sciencesで発表された1

その道具の断片が初めて出土したのは10年前で、場所はフランス南西部ドルドーニュのペシュドゥラゼという洞窟だった。マックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ・ライプツィヒ)の考古学者Marie Soressiには一目でそれが分かった、と同僚のShannon McPherron。

その道具はスリッカー(なめし道具)ともバーニッシャー(艶べら)とも呼ばれているという。Soressiは高級ブランドで知られるエルメス社(フランス・パリ)とコンタクトをとり、一流皮革製品の職人がまさに同じような道具を使っていることを知った。「職人に写真を見せたら、すぐにそれと分かったそうですよ」とMcPherronは語る。同社のラインアップの中でもとりわけ評判が良いハンドバッグ「バーキン」は、約1万ドル(約100万円)以上もする。

しかしMcPherronは、たった1つの人工物だけで、一般的な結論を導くことはできないと言う。「見つかったのが1つだと、必ず疑問符が付きます。それが多数作られたうちの1つではなく、たまたまできたものかもしれないからです」。しかし、ペシュドゥラゼおよびそれに近いアブリペイロニの発掘場所でその後同じ道具の断片がさらに見つかり、研究チームはネアンデルタール人が日常的にそれを作っていたという結論に達した。

ネアンデルタール人の骨角器としては、別のものがすでに発見されている。しかしMcPherronによれば、今回の道具には他とは違う特徴があるという。多くの骨角器は石器とそっくりだが、今回の道具は、曲げても折れないという機能性や質感など、骨の物理的な特性を利用しているのだ。おそらくネアンデルタール人は、シカの長くてしなる肋骨からそれを作ったのだろう。

皮と骨

ネアンデルタール人がその道具を動物の皮の艶出しに使ったのかどうかを確かめることはできない。しかしMcPherronは、皮の艶出しをしたときに折れたと考えられる小さな破片が見つかったと指摘する。さらに研究チームは自ら同じ道具を作り、それを使って乾いた皮のしわを伸ばしたところ、その道具にはネアンデルタール人のものと同じような小さい筋ができた。

McPherronによれば、この道具で最も議論を招きやすいのが、その起源だという。ペシュドゥラゼにもアブリペイロニにも現生人類が住んでいなかったことから、その道具がネアンデルタール人のものだったことはほとんど疑いの余地がない。しかし、その人工物の年代を特定することができないため、現生人類がネアンデルタール人のまねをしてその道具の作り方を覚えたのか、あるいはその逆なのか、はたまた両者共に独自にその骨角器を作り出したのか、特定することは難しい。

複数の異なる手法により、ペシュドゥラゼとアブリペイロニの遺跡の年代は5万1000~4万1000年前とされている。既知最古の現生人類は4万2000年前の西ヨーロッパに居住していたことから、それらの遺跡の最も新しい年代は、現生人類の居住時期と重なりがあることになる。しかし、その年代にヨーロッパをすみかとしたのはネアンデルタール人だけだというのが考古学界の通説だ。McPherronはその曖昧さに決着をつけるべく、さらに古いネアンデルタール遺跡に同じ道具を求めている。

ダラム大学(英国)の考古学者Paul Pettittは、現生人類がヨーロッパに到達する前にその道具が存在していたと考え、その存在が「孤立した出来事であるはずがなく、ネアンデルタール人独自の伝統の一部だった」としている。その道具は、ハンドバッグの趣味ではないにしても、ネアンデルタール人のスタイルが洗練されていたことも示している、とPettittは語っている。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Soressi, M. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 14186–14190 (2013).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度