Author interview

ハワイに接近するハリケーンが将来増加すると予測

2013年8月号掲載

研究の背景

過去30年で、ハワイ付近に接近したハリケーンの数は8個と、比較的少ないものでした。しかし、1992年のハリケーン・イニキのように、一旦ハワイ付近にハリケーンが接近することで、社会経済や生態系に大きな損失がもたらされる可能性があります。これまで地球温暖化が進むと全球のハリケーンの数や強度がどう変化するかの研究は世界の研究機関で数多くなされてきましたが、地域的なハリケーン活動の将来予測は不確実性が大きいためあまり議論されてきませんでした。

今回の研究で新たに分かったこと

上図: 現在気候実験(1979年~2003年)で再現されたハリケーン存在頻度の年平均回数(5°×5°格子上でハリケーンの存在回数をカウントしており、単位は年平均の回数)。
下図: 将来気候実験(2075年~2099年)で予測されたハリケーン存在頻度の現在気候平均からの将来変化(単位は年平均の回数)。緑の交差線の領域は将来変化の不確実性が小さいことを意味している。 | 拡大する

本研究では、筑波大学、気象庁気象研究所、ハワイ大学国際太平洋研究センターが共同研究を進め、最先端の高解像度全球気候モデルを用いて地球温暖化が進んだ21世紀末におけるハリケーン活動の将来予測を行いました。その結果、モデルの予測結果から2075年~2099年にハワイ付近に接近する熱帯低気圧の頻度が、1979年~2003年の平均に比べて2~3倍程度増加することを確認しました(図)。地球温暖化により、亜熱帯太平洋において海表面が温まることでハリケーンが弱まりにくくなり、また、ハリケーンを流す循環場がより東風偏差になることで、メキシコ付近で発生したハリケーンがより西側のハワイ付近にまで到達する頻度が増えることがわかりました。

今回の研究の意義

今回の研究は、高解像度気候モデルを用いた複数の将来実験設定による予測実験の結果です。どのような実験設定でもハワイ付近に接近するハリケーンの頻度が増えることを示しており、将来予測の不確実性が小さいと評価されました。

ハリケーンのような小さなスケールの予測には、水平方向に非常に高解像な気候モデルを用いる必要があり、複数の実験を行うには莫大な計算資源が必要です。今回の数値実験は地球シミュレーターによって実行されましたが、このような研究は、スーパーコンピューターでしかできないものなのです。さまざまな地域で今回のような研究を行うことで、地球温暖化が地域的な気象現象に及ぼす影響のさらなる解明が期待されます。

Nature Climate Change 掲載論文

ハワイ周辺で熱帯低気圧の増加が予想される

Projected increase in tropical cyclones near Hawaii

Nature Climate Change 8, 749–754 (2013) doi:10.1038/nclimate1890

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