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COVID-19:オーストラリアでのCOVID-19伝播の様相をSARS-CoV-2ゲノム塩基配列解読とエージェント・ベース・モデリングによって明らかにする

Nature Medicine 26, 9 doi: 10.1038/s41591-020-1000-7

2020年1月、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)と命名された新型のベータコロナウイルス(コロナウイルス科)が、中国湖北省武漢で発生した一連の肺炎症例の病原体であることが明らかになった。SARS-CoV-2の感染により引き起こされるこの疾患は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と命名され、その後急速に広がって、世界的なパンデミックを引き起こした。今回我々は、オーストラリアでのCOVID-19封じ込めの最初の10週間に感染した患者の部分母集団で、ほぼリアルタイムでSARS-CoV-2のゲノム塩基配列を解読することの付加価値を調べ、ゲノムサーベイランスで得られた知見と計算によるエージェント・ベース・モデル(ABM)の予測を比較した。このABMはオーストラリアの国勢調査データを用いて、オーストラリアの人口に相当する2400万以上のソフトウエアエージェントを生成し、これらはそれぞれが匿名の個人の人口統計学属性を持つ。次いで、さまざまな社会的状況内での個人の接触率を用いて、この疾患が経時的に伝播し、特定の感染源から広がっていく事態のシミュレーションを行った。SARS-CoV-2の前向き塩基配列解読によって、疫学的連関が決定できなかった症例で感染源候補が明らかになり、感染経路の解釈が分かれるCOVID-19症例の割合が大きく減少し、複数の機関で同時に起きた伝播に関連するゲノム的に類似した症例が立証され、これまでに疑われていなかった連関が明らかになった。塩基配列が解読されたデータの4分の1だけが国内感染のように見え、これはABMによる予測と一致した。これらの高分解能ゲノムデータは、国内感染したCOVID-19症例を追跡したり、国境制限が解除されて、商業活動や旅行が再開された後に海外から持ち込まれた個別事例を早期に認識したりする上で極めて重要である。

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