Editorial

コロナ後遺症という難問に対処する

Nature Medicine 26, 12 doi: 10.1038/s41591-020-01177-6

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック(世界的大流行)の健康への影響は一般に、症例数、入院者数、死亡者数の報告を介して追跡されてきた。だが、死亡だけが重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染がもたらす重大な結果というわけではない。多くの患者で、感染症がたとえ軽症であったとしても、その後長く続く不調が見られるようになり、これが障害をもたらしかねないことが段々に明らかになってきた。症状がこのように長期化した「long hauler」と呼ばれる患者は、極度の疲労感、筋肉や関節の痛み、息切れ、心臓の動悸、味覚や嗅覚の喪失や変化、胃腸障害に加えて、注意力や記憶、認知力に問題が生じるといった実にさまざまな症状が報告されている。SARS-CoV-2感染の急性期に対する治療法はかなり向上してきたが、感染の慢性的な影響について知られていることはまだわずかであり、この状態はコロナ後遺症あるいは長期コロナ感染症(long COVID)と呼ばれるようになった。

コロナ後遺症の罹患者数はまだはっきりしていないが、相当多くの感染者について長期にわたるフォローアップと治療が必要になると予想されている。このような長期にわたる疾患は多数のウイルスで見られており、コロナウイルスで起こっても特に意外ではない。感染者では肺、肝臓、脳、腎臓や心臓など複数の臓器で損傷が見られている。長期にわたる症状は、SARS-CoV-2が複数の臓器に感染したことの直接的な結果なのか、それとも免疫系の過剰な活性化や自己免疫の発生のような間接的な結果なのかはまだ分かっていない。症状が広い範囲にわたるこのような患者は、複数の専門家による統合的な診断と治療が必要となる。コロナ後遺症患者治療のための広域にわたるケアを提供できる施設は、米国ではニューヨークのマウントサイナイ病院のCenter for Post-COVID Careなどがすでに開設されており、英国でも国民医療サービス(NHS)が40の診療所を開設すると発表している。

COVID-19用の高い効果を持つワクチンの登場が見えてきた現在、パンデミックは間もなく終結するとつい考えたくなる。しかし、コロナ後遺症の広がりとSARS-CoV-2感染の長期にわたる健康への影響がきっちり解明されなければ、パンデミックの真の影響がどのようなものだったかを明らかにし、医療システムを適合させて、今後の患者の診断、監視、長期にわたる治療を効率よく行っていくことは不可能だろう。

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