Editorial

がんについて世界規模で考えよう

Nature Medicine 25, 3 doi: 10.1038/s41591-019-0402-x

この1月、米国がん学会は米国でのがんによる死亡率が低下し続けていることを公表した。また、英国ロンドン大学衛生熱帯医学大学院がコーディネートしたCONCORDプログラムによる集団ベースのサーベイランス研究でも同じような傾向が報告された。このプログラムの最新のデータであるCONCORD3は、70を超える国の数千万人を超えるがん患者(18種類のがんが含まれている)について、2000~2014年に調べた記録であり、大腸がんや乳がんなどの最もよく見られるがんでの5年生存率が最高となったことが示されている。この結果は主に、がんに関する意識の高まり、スクリーニングや予防プログラムの改善、それに治療法の目覚ましい進歩によると考えられる。

しかし、成人でよく見られるこのようながんの生存率は、高所得国と裕福とはいえない地域を比較した場合、大きく異なることも明らかになった。この傾向は小児がんについても同じで、デンマークなどでは脳腫瘍あるいは急性リンパ芽球性白血病(ALL)と診断された小児の生存率は80%以上だが、ブラジルでは小児脳腫瘍患者の生存率は40%以下にとどまっている。この大きな差の一因が先端的治療へのアクセスの不平等にあることは明らかだろう。

こうした不平等には、ほとんどの患者にとって治療費が法外な値段であることや、国家のヘルスケアシステムが補助を負担しきれないことなどが影響している。AIの導入などによって、スクリーニングや早期の診断を迅速かつ低コストで行えるようにすることは、こうした事態の解消につながる可能性がある。一方、こうした所得が中程度から低い国々については、サーベイランスデータ自体が不足していることも統計的に重大な問題といえる。進歩したモバイル技術やウエアラブルセンサーによって信頼できる健康データがリアルタイムで集められ、うまく活用されれば、情報格差の解消につながるだろう。

また、がんの種類によっては地理的な問題とは関係なく、死亡率に依然として変化が見られないものもある。例えば卵巣がんは1990年代から生存率が変化していないし(30~50%)、成人の脳腫瘍(20~40%)や膵臓がん(5~15%)の生存率も向上していない。こうしたがんについて有効な治療法の発見を難しくしている一因は、がんに固有の性質である。卵巣がんや膵臓がんは、スクリーニング法がなく、がんが進行するまで症状がはっきりしないため早期発見が難しい。症状がはっきりする頃には腫瘍が拡がり、また治療抵抗性を獲得していることが多く、このようながんについて最も緊急を要する問題は疾患の早期発見に使える方法の開発である。

がんと診断される症例は年々、世界的に増加しつつあり、予防と早期発見を呼び掛けるキャンペーンは、資源が乏しい国ではがん患者へのさまざまな負担が非常に大きいことを考えると、特に重要である。そして、手頃な価格で高品質な治療へ平等にアクセスできるようにすることは、がん患者の生存率の地理的ギャップを解消するのにつながる。現在望まれているのは、革新的でコスト効率の良い技術と改善された治療法の到来とともに、がんによる死亡率が世界のあらゆる場所で等しく低下することなのだ。

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