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幹細胞:PPAR-γシグナル伝達への拮抗は解糖作用の増強によりヒト造血幹・前駆細胞を増殖させる

Nature Medicine 24, 3 doi: 10.1038/nm.4477

造血幹細胞(HSC)は骨髄ニッチに静止状態で存在し、自己複製もしくは分化を介して全ての血液細胞を形成する能力を、動物の一生を通して維持する。同種異系HSC移植は、悪性および非悪性の疾患に対して行われる救命治療の1つである。造血細胞移植(HCT)には臍帯血(CB)から単離されたHSCが用いられるが、1ユニットのCBに含まれるHSC数は限られているため、ヒトHSCをex vivoで増殖させる方法が多数考えられている。本論文では、PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)-γに対する拮抗作用が、特定の表現型および機能を持つ一部のヒトCB HSCおよび造血前駆細胞(HSPC)のex vivoでの増殖を促進することを示す。CB HSPCでPPAR-γに対する拮抗作用を起こさせると、複数の分化関連遺伝子に加えて、フルクトース-ビスホスファターゼ1(FBP1:解糖の負の調節因子をコードする)の発現が大幅に低下し、ミトコンドリア代謝を低下させずに解糖が促進された。PPAR-γへの拮抗作用によるCB HSPCの増殖は、グルコース除去あるいは解糖の阻害によって完全に抑制された。さらに、FBP1発現のノックダウンは長期複製能を持つCB HSPCにおいて解糖やex vivoでの増殖を促進したが、FBP1の過剰発現は、PPAR-γに対する拮抗作用によって誘導されたCB HSPCでは、その増殖を抑制した。今回の結果は、HCTの有効性を改善するためのCB HSPCの代謝再プログラム化の手段となると思われる、新規かつ簡便な方法の1つを示している。

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