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「ホットゾーン」出現のモデル化:結核と薬剤耐性の増幅ダイナミクス

Nature Medicine 10, 10 doi: 10.1038/nm1102

「ホットゾーン」(危険地帯)とは、多剤耐性結核菌(MDRTB)感染の有病率(または発症率)が5%を超える地域をさす。本論文では、薬剤耐性を示す結核菌(Mycobacterium tuberculosis)の複数の株(pre-MDR、MDR、post-MDR)の出現および進化を追跡する新しい数理モデル(増幅モデル)を示す。我々は、過去30年間にホットゾーン発生に至った進化の軌跡と考えられるものを再現することで重要な原因因子を見いだした。得られた結果は、最近報告された世界保健機関(WHO)のデータと一致していた。我々の解析で得られた知見は3つである。第1に、矛盾するようであるが、対策が講じられて野生型の全感受性株を減少させることに成功した地域がホットゾーンとなる場合がしばしばみられた。第2に、MDR株が野生型の全感受性株と比べて実質的に適応度の低い(したがって伝達度の低い)場合にもホットゾーンが出現することがあった。第3に、MDRのレベルは、疾患発見率、治癒率、増幅確率によって変化することである。MDRTBをホットゾーンに効果的に抑え込むためには、増幅確率を最小限に抑える目標値をWHOが定めることが不可欠である。

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