Japanese Author

一斉に波打つ繊毛 — その協調運動のカギは根元にあった

月田 早智子

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120924

気管、卵管の表面は、上皮細胞で覆われ、一面に繊毛が生えている。たくさんの繊毛は協調して同一の動き方をし、バケツリレー式にものを運ぶ。異物の除去や、卵子の運搬移動がそうだ。世界的な上皮細胞研究者、月田早智子・大阪大学教授は、そうした繊毛の協調運動の解明に取り組んでいる。

–– Natureダイジェスト:繊毛の運動って重要なのですね?

月田:例えば、ヒトの気管には、繊毛と呼ばれる毛のような構造体がびっしりと生えています。それが波のように、一斉に同じ方向に協調して動き、気管に入ってきた異物などを運び出します。そのおかげで、細菌やウイルスなどの病原体が、肺の中に入って来にくくなっているのです。

–– 今回、その協調運動の仕組みを解明されたのですね?

はい。国本晃司研究員とともに、気管の繊毛が協調して動く仕組みを探りました1

繊毛は気管の細胞から規則的に生えており、1個の細胞から100本くらい出ています。細胞が一面に並んで気管を構成しているので、気管の内面は繊毛の絨毯のようになっているのです。

繊毛の根元は、細胞の膜を貫いて、細胞内部にあります。今回私たちは、繊毛の運動において特に重要なのは、その細胞内部の根元部分であることを発見しました。

図1:繊毛の根元の超高圧電子顕微鏡トモグラフィー像(繊毛上部は省かれている)。

国本晃司・月田早智子

–– なぜ根元が重要なのですか?

繊毛の根元付近を顕微鏡で立体的に観察したとき、繊毛と繊毛の間に細長い細胞骨格繊維がメッシュ状に走っていることを見つけました。この微小管という細胞骨格繊維の規則的な配向メカニズムは興味深いものです。各繊毛はメッシュの隙間から伸びているのですが、根元の1か所で、そのメッシュ状繊維とつながっているように見えるのです。超高圧電子顕微鏡トモグラフィーで見ると、繊毛の根元に小さな突起(basal body)が確認できますが、メッシュ状の繊維は、その突起に結合されているようでした。

–– メッシュ状の繊維が突起につながって、繊毛を協調させているのですか?

詳しいメカニズムは、今後の解析で明らかにしていくつもりです。現時点でわかるのは、突起の存在がとても重要だということです。そして、この突起に含まれているOdf2というタンパク質が、カギとなる働きをしているのではないかということです。

図2:繊毛の協調運動(左上)が、Odf2タンパク質変異マウス(右上)では見られず、微小管繊維のメッシュ構造も消失している。下段の電子顕微鏡写真は上の運動状態に対応している。

国本晃司・月田早智子

Odf2タンパク質の一部を欠いて発現させたマウスを作製して調べてみると、繊毛の根元には突起が形成されず、メッシュ状の繊維も構築されませんでした。そして、繊毛の動きは協調せず、完全にばらばらでした。異物が排出できずに、マウスは咳やクシャミをし続けました。これからOdf2の働きを中心に研究していこうと思っています。

上皮細胞への関心が原点

–– 月田研究室といえば、まず思い浮かぶのは細胞接着のご研究ですが、今回はなぜ繊毛を?

私たちの興味の中心は上皮細胞で、細胞接着も繊毛も、もともとはそこから出発したテーマです。上皮細胞とは、シート状に並んで、私たちの体表を覆っている細胞です。体内でも、気管や消化管などの内側表面を形成しています。地味な存在ですが、外と内を仕切る大切な働きをしているのです。ちなみに、がん細胞が生じるのは、ほとんどが上皮細胞です。

–– なるほど。私たちの体を守ってくれている細胞なのですね。

そうです。例えば、私たちの体から水分が漏れないように、ビニールシートのように体を覆ってくれています。つまり、横に並んだ上皮細胞どうしが、密着結合(タイトジャンクション)という方法で、しっかり接着している。ここで細胞どうしを密着させているクローディンといった分子を、夫の月田承一郎が発見しました。そして密着結合がきちんとできることは、繊毛上皮の形成にも必須であることがわかってきています。

–– 気管の繊毛が伸びているのも、上皮細胞からなのですね。

はい。また繊毛がおもしろいのは、その運動ばかりではないのです。実は、どんな上皮細胞にも、一次繊毛と呼ぶ運動性のない繊毛が、アンテナのように1本生えています。どんな働きをしているのか、よくわかっていないので、この不思議な一次繊毛についても調べていきたいとずっと考えています。一次繊毛の形成にも、先のOdf2タンパク質が関与しているのがわかっているので、いろいろアイデアがふくらんできます2

–– 例えば、どんなアイデアでしょう?

中心体と呼ばれる細胞小器官が細胞中にあることは、教科書にも出ています。その中心体から、細胞分裂のときに微小管が伸びてくるのは有名ですが、そのほかにも、中心体は繊毛の根元として働くなど、謎も多いのです。上皮細胞に含まれる中心体を顕微鏡で観察すると、上端(アピカル側)に寄っているのがわかります。中心体と繊毛の関係も、何か見つかるかもしれませんね。

–– 月田先生のご研究では、顕微鏡での観察が重要ですね。

博士課程を解剖学教室で学んだこともあって、細胞を顕微鏡で観察することを身に着けました。当時は電子顕微鏡のいろいろな技法が発達した時期で、「見る」ことがとてもおもしろかった。今は、電顕だけでなく、光学顕微鏡など、用途に合わせていろいろ使い分けています。

私にとって、「見える」ということは、とても大切です。そこにそれが存在するということの確認ばかりでなく、新たな考えをひらめかせ、サイエンスの洞察にまで導いてくれるものなのです。見ることが、私の研究の基本になっています。

一人で研究室を主宰することになって

–– 先ほど、亡き月田承一郎先生のお話が出ましたが、おしどり研究者ということでも有名でいらっしゃいました。

主人ががんで亡くなって6年が経ちます。明るく過ごして欲しいという主人の希望もあり、無我夢中でそう努めてきました。

主人は非常に健康な人だったので、突然の病気に驚き、私も混乱しました。必死でしたし、当時のことはあまりよく覚えていないのです。その後、幸いにも大阪大学のこの新しい研究室に移り、若いスタッフも何人か付いて来てくれて、力が出ましたね。6年経った今は、少し落ち着いてきました。

–– お二人は常にご一緒に研究されていたのですか?

大学院のときから、同じ研究室でした。主人が研究者として独立してからは、私もそこに移りました。同じ研究分野にいるのだから、協力し合おうと。二人でよくしゃべっていました。常に話し合ってきたので、ときどき、どちらの意見か、わからなくなっていることがあって・・・・・・。

–– どんなことがありましたか?

例えば、接着分子であるクローディンは、肝臓の細胞間接着構造の精製物中に主人たちが発見し、名付けたものですが3,4、肝臓から接着関連分子を同定できると最初に気が付いたのは、私だったりして(笑)、楽しめましたね。肝臓はとても柔らかい組織で、その中に毛細胆管が走っている。毛細胆管は肝細胞が作るものなのですが、そこだけが比較的固くなっているので、うまく取り出せるのです。Odf2をはじめ、この肝臓からの構造精製物が、今の研究にまで続く、宝の山だったのです5

–– ずっとご一緒で、けんかはありませんでしたか?

けんかはしませんでしたね。研究者の世界は厳しいですから、いわば外敵に囲まれている訳で、仲間としての協力関係になりますね。共倒れを恐れて(笑)、本当に協力し合いました。

–– これからも、オンリーワンの研究をめざして?

研究者としての独創性を大切にしてきました。これまでも、これからも、ずっとそのつもりです。

私たち夫婦は留学経験もなく、欧米研究者のネットワークにもなかなか加われません。そこで、海外の動きに合わせるのではなく、独創性で勝負と思ってきました。自分で考えてビジョンを組み立てれば、否応なくユニークになります。

今回の繊毛の研究でも、私たちの得意な細胞接着などと関連させて、研究を進めようと考えています。発想が「ユニーク」とか「ミステリアス」とか、ときどき言われますが、何よりの褒め言葉だとありがたく受け止めています。

–– ありがとうございました。

聞き手は藤川良子(サイエンスライター)。

参考文献

  1. Kunimoto K et al. Cell. 148: 189-200 (2012)
  2. Ishikawa H et al. Nature Cell Biol. 7: 517-524 (2005)
  3. Umeda et al. Cell 126: 1-13 (2006)
  4. Tsukita et al. Nat.Rev.Mol.Cell Biol. 2: 285-293 (2002)
  5. Nakagawa K et al. Mol. Biol. Cell 12: 1687-1697(2001)

Author Profile

月田 早智子(つきた・さちこ)

大阪大学大学院生命機能研究科分子生体情報学研究室教授。1978年 東京大学薬学系研究科 修士課程修了。1983年東京大学医学研究科第一基礎医学(解剖学) 博士課程修了。1986年東京都臨床医学総合研究所、1990年岡崎国立共同研究機構生理学研究所、1994年京都大学を経て、2007年より現職。

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度