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クモがバッタをにらむと植物の腐敗が遅くなる

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120904

原文:Nature (2012-06-14) | doi: 10.1038/nature.2012.10839 | Stressed grasshoppers slow plant decay

Zoe Cormier

バッタを補食の危険にさらすと、ストレスで体内の化学組成が変化し、生態系全体の栄養循環にまで影響することが明らかになった。

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生態系内の捕食者により、獲物である被食者にストレスがかかり、それが原因となって土壌の生態に大きな影響が出る可能性があることが、Scienceに発表された1。ストレスを受けていたバッタが死んだ場合、体の化学組成に変化が生じて土壌微生物が周囲の植物遺骸を分解する速度に間接的に影響を及ぼし、生態系内の栄養循環にまで波及するというのだ。

論文筆頭著者、エルサレム・ヘブライ大学(イスラエル)のDror Hawlenaは、こう語る。「我々は、生物生態学と生物地球化学を結びつけてみようと考えました。食物網の構造が栄養循環に及ぼしうる影響を予測しようと思ったのです」。

これまでの研究から、動物がストレスを受けると食餌内容が変わることがわかっている。ストレスによってエネルギー必要量が増え、それに合わせてより多くの炭水化物を摂食するようになるのだ。このように窒素の少ない食餌に切り替わると、ストレスを受けた動物の体内には化学組成の変化が生じる2。こうした窒素の乏しい動物の死骸は、回り回って土壌微生物の代謝に影響を与えることになる。なぜなら、土壌細菌は腐敗作用のための分解酵素を産生するのに窒素を必要とするからである。

おびえながら暮らす

研究チームはまず、口を接着剤で貼り合わせて捕食できないようにしたクモと、バッタを一緒に野外のケージ内で飼育した。こうして、クモがいるという恐怖の下で生きるバッタには、ストレスがかかり続ける。そして最終的にバッタが死ぬと、死骸を研究室の土壌試料に加えた。意外なことに、ストレスがあったバッタとケージ内にクモがいなくてストレスのなかったバッタの分解速度は、ほとんど同じだった。そこで、完全にバッタが分解された土壌を研究室の土壌試料に加え、さらに藁を加えてその分解速度を調べ、捕食者への恐怖が土壌の微生物群集に及ぼす「遺産効果」を検討した。

捕食者によるストレスが土壌微生物に間接的に及ぼす影響は、長く続いた。ストレスを受けたバッタの死骸を加えた土壌試料では、93日後の藁の分解の程度は、ストレスのなかったバッタの死骸を入れた土壌試料の半分以下だった。

「影響の大きさに驚きました」とHawlenaは言う。「従来の考え方では、植物と微生物が主役となって生物世界と非生物世界をつないでいるとされます。ところが捕食者も、獲物の化学組成に影響を与えることで、微生物を実質的に制御できることが今回わかりました」。

捕食者が、草食動物の個体数を減らしたり、排泄物によって栄養素を堆積させたりして、植物と土壌微生物の両方に影響を及ぼしうることは、すでにわかっている。しかし今回、捕食者が単なる捕食によらずに、土壌微生物群集や栄養循環に影響を与えうることが明らかになった。

絡み合った食物網

「近年、生物が生態系機能の過程にもたらすさまざまな波及的効果(土壌肥沃度や植物の成育、栄養摂取など)を明らかにした研究は、増えつつあります」と、スウェーデン農業科学大学(ウーメオ)の土壌生態学者David Wardleは話す。彼は、スウェーデンの森林やニュージーランドの森における地上および地下の微生物群集どうしの結びつきを研究している。

今回の研究で重要なのは、生態系の制御に捕食者がさまざまな役割を果たしている可能性が示唆されたことだとWardleは言う。「猛獣や猛禽類などの頂点捕食者はきわめて絶滅しやすく、そうした捕食者が消えることで、生態系の機能過程に広範な影響が出るおそれがあります。その中には、我々の思いもよらないような影響もあるでしょう」。

人間が招いた変化のために頂点捕食者が消えることで、広域の土壌の生態や生物多様性にどのような影響が出るのかを推測することは難しい。しかし、捕食者が生物地球化学的な過程に「劇的な効果」をもたらす可能性が明らかになったのは、非常に意義深いことだとHawlenaは話し、「これは、人間の引き起こした変化が生態系に与える影響の研究に新しく加わった要素なのです」と締めくくった。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Hawlena, D., Strickland, M. S., Bradford, M. A. & Schmitz, O. J. Science 336, 1434–1438 (2012).
  2. Hawlena, D., and O.J. Schmitz. PNAS 107, 15503–15507 (2010).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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