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ようやく実現したホウ素三重結合

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120905

原文:Nature (2012-06-14) | doi: 10.1038/nature.2012.10836 | Boron finally gets a triple bond

James Mitchell Crow

ホウ素–ホウ素三重結合を持つ安定な化合物が合成され、有機エレクトロニクス材料分野で応用の可能性が。

合成されたホウ素–ホウ素三重結合を持つ化合物の構造(Dipは2,6-ジイソプロピルフェニル)。

Institut für Anorganische Chemie, Julius-Maximilians-Universität Würzburg/Science

ヴュルツブルク大学(ドイツ)のHolger Braunschweigの研究チームが、2個のホウ素原子を安定な三重結合でつなぐ方法を見いだした。これにより、三重結合を持つ安定化合物を形成する数少ない元素の1つとして、ホウ素が炭素や窒素の仲間に加わった1

ホウ素–ホウ素三重結合が実現可能であることは理論的に予測されていたと、Braunschweigは言う。何といっても、窒素–窒素三重結合と炭素–炭素三重結合は安定である。例えば、空気中の窒素分子は、2個の窒素原子が三重結合でつながった分子である。周期表上ではホウ素に続いて炭素、窒素と並んでいるため、これらの元素は似た性質を持つはずである。「しかし、ホウ素の三重結合では、合成に大きな問題があったのです」とBraunschweigは話す。

過去には、あと一歩という例があった。それは、一酸化炭素(CO)の存在下、非常に低い温度でホウ素をレーザーで気化させて合成した化合物である2。この化合物は、CO基に囲まれたホウ素–ホウ素三重結合を持っているようであったが、約-263℃以上で分解するほど不安定であった。

これに対し、今回、Braunschweigらが合成したホウ素–ホウ素三重結合を持つ化合物(ジボリン)は、空気に触れさせなければ234℃まで安定である。

電子を共有する

研究チームは安定なジボリンを合成するために、CO基を、N-複素環カルベン(NHC)と呼ばれる電子供与性の強い大きな化学基と取り換えた。主族元素の原子は一般的に、最外電子殻に8個の電子を持つとき最も安定化する。電子を8個持たない原子は、隣の原子と電子を共有して化学結合を作る。このとき、各電子対が1つの化学結合となる。ホウ素原子は最外電子殻に電子を3個しか持たないが、Braunschweigらのジボリンでは、2個のホウ素原子が6個すべての電子を共有して三重結合を形成し、残り2個の電子はNHC基から供給されている。

以前、別の研究チームが、NHC基1つと臭素3つを持つホウ素原子を2個用いて、ホウ素–ホウ素三重結合を試みたことがあった。それぞれのホウ素原子から臭素を1つずつ取り外していくにつれて、2個のホウ素原子の間に、単結合、二重結合、最後に三重結合が形成されるというアイデアであった。しかし、単結合の形成に時間がかかりすぎ、臭素を取り外したホウ素原子は互いに反応する前に、周りの溶媒と反応する傾向にあった3

このためBraunschweigらは、初めからホウ素–ホウ素結合を持つB2Br4を2つのNHC基で安定化させた前駆体から合成を始めた。「この前駆体は-40℃を超えると分解してしまい、とても取り扱いが難しい化合物です。でも、まずホウ素–ホウ素二重結合、次に三重結合というように、選択的に変換できることがわかりました」とBraunschweigは言う。

構造を確認する

X線構造解析によって、Braunschweigらのジボリンが真の三重結合性を持つことが確認された。予想どおり、ホウ素原子間の距離は、三重結合を持つジボリンのほうが二重結合を持つ化合物よりも短く、予測値に近い値を示した。また、分子構造は、三重結合炭素を持つ化合物と同様に直線状である。

「Braunschweigは、単核前駆体を出発物質とすることに問題があると見抜き、最初からホウ素–ホウ素結合を持つ前駆体を用いたのです」。こう語るのは、ホウ素–ホウ素三重結合の理論研究に携わってきたモナッシュ大学(オーストラリア・メルボルン)の化学者Cameron Jonesである。Braunschweigらのジボリンは熱に対して安定だが、「非常に反応性の高い化学種なので、今後、いろいろな応用が考えられるでしょう」と彼は話す。

Braunschweigらは、ジボリンの反応性と有機エレクトロニクス材料への応用について検討を始めている。ホウ素を含む化合物は、例えば、有機発光ダイオードの生産にすでに使用されている。「ジボリン化合物は構成要素として役に立つかもしれません。しかし、このアプローチでよいのかどうかわかるのはまだ先のことでしょう」とBraunschweigは語っている。

(翻訳:藤野正美)

参考文献

  1. Braunschweig, H. et al. Science 336, 1420–1422 (2012).
  2. Zhou, M. et al. J. Am. Chem. Soc. 124, 12936–12937 (2002).
  3. Wang, Y. et al. J. Am. Chem. Soc. 129, 12412–12413 (2007).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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