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やっぱりリンが好き

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120902

原文:Nature (2012-07-09) | doi: 10.1038/nature.2012.10971 | Arsenic-loving bacterium needs phosphorus after all

Quirin Schiermeier

激しい論争が続いていた、高濃度ヒ素下で生きる生物について、2組の研究チームが再試験を行い、その生存には通常どおりリンが必要なことがわかった。

細菌GFAJ-1は高濃度のヒ素下で生存できるが、DNAにヒ素を取り込むわけではない。

SCIENCE/AAAS

2010年12月米国航空宇宙局(NASA)の研究チームは、米国カリフォルニア州のモノ湖でヒ素耐性を持つ細菌について記者会見し、「地球外生物を示す証拠の探査に影響する宇宙生物学的発見」と述べた。当時NASAのフェローで、現在はローレンスバークレー国立研究所(米国カリフォルニア州)に所属するFelisa Wolfe-Simonらは、このハロモナス科の細菌GFAJ-1は、DNAなどのきわめて重要な生化学物質の中に、リンの代わりにヒ素の原子を取り込むことができると言い、Scienceオンライン版に発表した1

既知のすべての生物は、水素、炭素、窒素、酸素、リン、そして硫黄という最低限の6元素を必要としている。ヒ素は、化学的性質にリンと似ている部分があるが、通常は生物にとって有害である。したがって、ヒ素が生命維持にかかわっているという考えは、物議を醸した。特に、NASAの記者会見で堂々と発表されたことに批判が沸き上がった(Nature ダイジェスト 2011年2月号3ページ参照)。

その後、2011年6月にWolfe-Simonの論文がScience印刷版に掲載されたときには、それに対する別の研究者からの見解も8件、オンライン掲載された2-9

そしてこのほど、2つの研究チームにより「GFAJ-1はヒ素に対する耐性を持っているものの、その生存はリンに依存している」ことが確認され、Scienceオンライン版に発表された10,11

毒性への耐性

まず、ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)のRosie Redfieldの研究チームは、ヒ素とごく少量のリンを含む培地でGFAJ-1を培養したところ、GFAJ-1のDNAからはヒ酸塩のようなヒ素含有物質は検出されなかったと報告した10。もう1つの論文では、スイス連邦工科大学(チューリッヒ)のJulia Vorholtを中心とする研究チームが、培地中にヒ酸塩が存在しても、リンがなければGFAJ-1は増殖できないことを明らかにした11。ただし、ヒ酸塩存在下での低リン酸塩条件では増殖することができる。VorholtらはGFAJ-1について、「ヒ酸塩耐性だが、やはりリン酸塩には依存する細菌」と表現している。

「我々は、GFAJ-1の代謝について、ほかのあらゆる既知の有機生命体と同じようにリンに依存していることを裏付ける確固たる証拠が得られた、と考えています」とVorholtは語る。「このとてもよく環境に適応したたくましい微生物は、極端にリンの少ない環境から効率的に栄養素を取り出すことができると考えられます」。Vorholtは、Wolfe-Simonらが最初の実験で用いた試料には、当初考えられた以上のリンが含まれていたようだ、とも言う。

Scienceからは、「新たな研究の結果、GFAJ-1は、Wolfe-Simonらのデータ解釈に反して、生命に関する従来の原理を打ち破るものではないことがわかった」というコメントが出された。

これに対し、Wolfe-Simonは、「我々の最初の論文はヒ素への耐性を強調したものですが、今回の2本の論文同様、リンを必要とすることも示唆しています」と語る。「その一方で我々のデータは、ごく少量のヒ酸塩が細胞や生体分子に取り込まれ、ヒ酸塩が多くリン酸塩がきわめて少ない環境で細胞が生きていくのに役立っている可能性を暗示したのです。そうしたわずかなヒ素の取り込みを明らかにするのはとても難しいですし、細胞はヒ素の取り込みでひとたび不安定になれば、壊れてしまうでしょうから」。

さらに、Wolfe-Simonは、GFAJ-1の話はまだ決着していないとも言う。「重要な問題は、致死量のヒ素を含む環境でGFAJ-1がどうやって増殖しているのか、そして取り込まれたヒ素はどこへ行くのか、ということなのです」。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Wolfe-Simon, F. et al. Science 332, 1163–1166 (2011).
  2. Cotner, J. B. & Hall, E. K. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1201943 (2011).
  3. Benner, S. A. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1201304 (2011).
  4. Schoepp-Cothenet, B. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1201438 (2011).
  5. Foster, P. L. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1201551 (2011).
  6. Csabai, I. & Szathmáry, E. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1201399 (2011).
  7. Borhani, D. W. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1201255 (2011).
  8. Redfield, R. J. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1201482 (2011).
  9. Oehler, S. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1201381 (2011).
  10. Reaves, M. L., Sinha, S., Rabinowitz, J. D., Kruglyak, L. & Redfield, R. J. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1219861 (2012).
  11. Erb, T. J., Kiefer, P., Hattendorf, B., Günther, D. & Vorholt, J. A. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1218455 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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