Editorial

科学論文オープンアクセス化に伴うコスト

研究文献へのアクセスをめぐって、英国で最近2つの報告書が相次いで公表された。6月21日には、王立協会が、科学データの公開性に関する分析結果を発表した(go.nature.com/of89t1Nature 2012年6月28日号441ページ参照)。一方、6月18日に公表された政府の報告書は、作成にあたった委員会のJanet Finch委員長の名前にちなんで「フィンチ報告書」と呼ばれ、著者による論文出版費用(APC)支払い制度に基づく論文誌へ、いかに投稿を誘導できるか検討している。このような形で発表された論文は、以降、すべての人々が無料で読むことができる。Natureもこうした体制への移行を原則支持している(Nature 2012年1月26日号409ページ参照)。

著者によるAPC(論文出版費用)支払い制度への移行は、全世界の研究助成機関が考えており、フィンチ報告書はまさにタイムリーだ。そこで提示された問題の複雑性に関しては、どの研究助成機関も認識しており、オープンアクセスの義務化にはなお数年はかかる可能性がある。ただし、オープン化への機運は高い。

重要な論点の1つが、論文出版の費用だ。これに関しては、フィンチ報告書と王立協会の報告書には、注目すべき類似点がある(Natureの編集長は王立協会の報告書の執筆に加わっている)。いずれの報告書でも、科学的成果は、研究論文、研究データを問わず、利用可能な状態にする必要がある、とされている。そして、データの検証と修正、ホスティング、編集、メタデータ蓄積のための諸費用と、そうした活動を継続的に更新する費用すべてが、きちんと確保されなければならないとされている。

王立協会の報告書では、データ公開に関する費用について、いくつかの典型的な例が提示されている。プレプリントサーバーarXivは、送られてきた未編集、未査読の論文を、そのままホスティングするのが主業務だが、6人の常勤スタッフがいる。国際タンパク質構造データバンクと英国データアーカイブは、それぞれ、数億円の予算と65人前後の常勤スタッフがいる(この対極にあるのが英国の大学で、平均1.4人の常勤スタッフが機関リポジトリを運営しており、データを受け入れている機関は40%にすぎない)。

フィンチ報告書では、不確実性の高い前提条件ながら、複数のシナリオを想定し、国家財政への影響について検討している。英国の研究者は、1年間に10万編を超える論文を発表している。したがって、これらの論文の50%が完全オープンアクセスで出版され、APCの平均額が1450ポンド(約18.9万円)であれば、英国財政にとっては増減ゼロとなる。しかし、オープン化への移行が少ない場 合、APCの平均額は2200ポンド(約28.6万円)となり、英国の高等教育部門の費用は7000万ポンド(約91億円)の増額になる。

ちなみに、英国の研究予算は現在50億ポンド(約6500億円)を超えており、論文誌に対する年間支出額は1億7500万ポンド(約228億円)である。Natureのような一流誌に論文を発表する場合、APCの額はこれよりはるかに高額になるだろうが、それでも英国全体の論文費用からすれば、わずかな金額で済むはずだ。

出版社は、これまで研究過程で果たしてきた役割について、きちんと実証する必要に迫られている。それは、合理的な利益を上げるためでもある。しかし、出版社が暴利をむさぼっているという認識は根強く、出版社が生み出す付加価値への理解は薄い。透明性を確保して信頼を築き上げるには、相当の努力が必要だ。

オープンアクセスへの移行は、大学にとっても特別な課題といえる。フィンチ報告書は、「大学は、APCのために独自の予算措置をする必要がある」と結論しており、それは正しい。特に、高度に分権化された大学では、新たな予算を運用するための原則や実務を確立するまでに時間がかかるからだ。

過去数年間、論文誌に発表される論文数が増えるにつれて、その大学における図書館予算は低下してきた。しかし、王立協会報告書に明確に示されているように、英国内外の図書館による情報提供は、今後も増大の一途をたどることになる。

翻訳:菊川 要

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120937

原文

Openness costs
  • Nature (2012-06-28) | DOI: 10.1038/486439a