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初回の支払いのみで何度でも論文を出版できるオープンアクセスジャーナル

ほとんどの学術ジャーナルは、たった2つの基本的ビジネスモデルのいずれかに基づいて運営されている。読者が定期購読料金を支払うモデルと、論文著者が論文の出版費用を支払い、読者は無料で読めるというモデルだ。ところが、PeerJ社という出版社が2012年12月に創刊予定のオープンアクセスジャーナルPeerJ(2012年8月より投稿受け付け開始)では、1回の終身会費を支払うだけで、査読を経た研究論文を何度でも無料で出版できるというのだ。出版界の専門家は、これを「過激な実験」と評している。

PeerJは、独自のオープンソース方式によって出版過程を効率化し、出版費用を下げることをめざしている、と創業者のPeter BinfieldとJason Hoytは話す。Binfieldは世界最大の学術ジャーナルPLoS ONEの発行人を務め、Hoytは研究論文共有サイトMendeleyに在籍していた。この2人の関与が、PeerJが話題を呼ぶ大きな理由の1つとなっている。「あの2人が動いているなら、何か起こるに違いないと思いましたね。突拍子もない話ではないのです」。オープンアクセスの支援者で、ユーイング・マリオン・カウフマン財団(米国ミズーリ州カンザスシティー)シニアフェローのJohn Wilbanksは、こう話す。

PeerJは、にわかに始まった数々の出版モデルの試みの1つに過ぎない。だが、オープンアクセスは勢いを増しており、論文出版の将来を形作る可能性も秘めている。「今、そこかしこで新しい試みが取り沙汰されています。まさに出版モデルの『カンブリア爆発』が起こっているのです。ここ数年は目が離せませんね」とBinfieldは言う。

創刊当時、出版論文が年間約1000本だったPLoS ONEは、現在では月2000本の論文を出版している。Binfieldは、PeerJも同じような成長軌道に乗せたいと思っている。「PLoS ONEは学術ジャーナルの限界を広げ、今やジャーナルというよりも、査読付き研究論文の大型リポジトリになろうとしています。我々は、そうした未来に向けて、PeerJの準備を進めています」とBinfieldは話す。ただし、PLoS ONE ほど多くの論文を掲載しなくてもPeerJの経営は成り立つ、と付言する。

出版費用に関しては、PLoS ONEは論文1本当たり1350ドル(約11万円)だ。一方、PeerJは、終身会員になれば何度でも論文を投稿し出版できる。会費は299ドル(約2万4000円)、199ドル(約1万6000円)、99ドル(約7900円)の3種類があり、それぞれ1年に出版できる論文数が、無制限、年に2本、年に1本となっている。複数の著者がいる場合、すべての著者が会員であることが必要だが、13人以上では12人の会員が含まれていればよい。またPeerJは、ベンチャーキャピタル基金のオライリー・アルファテック・ベンチャーズ(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)から創業支援金も受けている。

掲載論文に関しては、Binfieldらは、PLoS ONEや当社のScientific Reportsなど、ほかの多くのオープンアクセスジャーナル同様、PeerJでも、重要性やインパクトではなく、科学的妥当性の観点から論文の査読が行われることを約束している。この点で、インパクトの大きい研究論文だけを出版しようとしている近日創刊予定のeLifeのような、選択性の高いものとは明確に異なる。さらに、査読者不足を避けるため、会員は毎年1本以上の論文を査読するか、あるいは出版後査読に協力しなければならない。

PeerJは、利用者が支払う料金と個々の論文の出版を切り離した点で非常に画期的である。現在、PeerJ以外にも急進的な出版モデルが実行されようとしている。例えば、高エネルギー物理学の分野では、研究助成機関と図書館などからなるコンソーシアムSCOAP3が、論文出版費用の全額を出版社に支払うことにより論文を無料公開できるサービスを発表した(2014年1月開始予定)。SCOAP3は2012年6月に、各出版社に対してこの契約の入札に関する説明を行った。

また、検討中のモデルとしては、論文の出版ではなく投稿に対して課金する制度、すべての論文出版への直接的な政府助成金制度、研究助成機関による独自の出版インフラ(生物学データベースなど)の構築などがあると、PLoS ONEの出版元Public Library of Science社(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)のオープンアクセス推進部長Cameron Neylonは話す。

どれがうまくいくのかは誰にもわからない。しかし、現在進行中の試みにより、研究成果の出版を持続させるための真のコストが明らかになるだろうと話す者は多い。「PeerJは、これまでより低コストで研究論文を出版できるという主張の1つの実践であり、それだけでも注目に値すると思います」とNeylonは話している。

翻訳:菊川 要

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120931

原文

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  • Nature (2012-06-14) | DOI: 10.1038/486166a
  • Richard Van Noorden