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おいしいトマトの秘密

1970年代から米国のスーパーで売られている一般的なトマトは、赤く熟し、しっかりしていて傷もないが、風味も少ない。その理由は、収穫量と輸送時の耐久性を求めて品種改良がなされたためだ。しかし最近は、有機栽培農家や食通が「エアルームトマト」の優れた風味を推奨している。色も形も大きさもばらばらの伝統的な品種のトマトだ。

標準的なトマトと100種類以上のエアルームトマトの化学組成を詳しく調べ、さらに170人に味を比べてもらった研究結果がCurrent Biology 6月号に掲載され、トマトの風味を決めるのは糖と酸のバランスだけでなく、さらに微量の香り化合物が関係している事実が再確認された。スーパーのトマトには香り物質の多くが含まれていないのだ。

フロリダ大学のHarry Kleeは、過去10年間、トマトの風味について研究してきた。できるだけ多くの実がなるよう品種改良されると、トマト1個に分配される糖分が少なくなっておいしくなくなる。だがKleeらは、トマトの風味を決めるのは糖分だけではないことに気付き、その化学的配合を調べる研究を3年前に始めた。これまでの発見から、高収穫量という経済性を損なうことなくトマトの風味を高める新しい方法を編み出せる可能性がある、とKleeは考えている。

Kleeらは152種類のエアルームトマトをフロリダ大学の畑と温室で栽培し、標準的なトマトを地元のスーパーで購入した。それらを実験参加者によく噛んで味わって食べてもらい、食感、甘味、酸味、苦みの強さ、総合的な風味、どれだけおいしいと感じたかを、それぞれ格付けしてもらった。予想どおり、参加者たちは糖度の高いトマトを好んだが、糖度だけではこの好みを説明できなかった。トマトを噛んだときに鼻腔に入り込んでくる揮発性の化合物も、風味に寄与していた。

Kleeによると、トマトに最も多く含まれるC6揮発性成分は、トマトの風味にほとんど影響していない。むしろ、一般的ではない「ゲラニアール」という揮発性物質が大きな違いを生んでいた。この物質は生来の甘さを強めるなど、何らかの形でトマトの総合的な風味を高めている可能性が高い。

標準的なトマトは、エアルーム種に比べ、ゲラニアールなどの揮発性物質の含有量が少ない。「ライトビールみたいなもので、必要な化学物質はすべて含まれているが、それぞれの量が少ない」という。食べておいしく感じるように揮発性物質の含有量を交配か遺伝子操作で増やせば、糖の含有量を増やさなくても、甘くて風味豊かな品種ができるはずだ。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120908a