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研究者のための新しいIDシステム

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120813

原文:Nature (2012-05-31) | doi: 10.1038/485564a | Scientists: your number is up

Declan Butler

研究者に固有の識別子を付与するORCID(オーキッド)システムによって、学術出版物の追跡が、容易かつ正確にできるようになる。

2011年、世界で最も多くの学術出版物を送り出したのはY. Wangという人物だった。実に3,926件もの著作がこの名前で出され、1日当たり10件以上発表しているということになる。もちろん、これは同一人物ではなく、Y. Wangという名前の研究者がひとまとめにされた結果だ。

このような同名者混同問題を解決すべく、識別子システムのORCID(Open Researcher and Contributor ID;オープン型の研究者・貢献者IDシステム)が、2012年中に稼動を始める見通しとなった。

スーパーマーケットのレジで、個々の商品がバーコードで識別されているように、ORCIDは世界中のすべての研究者に、機械で読み取れる16桁の固有なデジタル識別子を割り当てる。研究出版物を真の著者に正確に帰属させることが、その目的だ。これによって、研究の管理体制が改革され、業績評価の精度が高まり、評価の幅も拡大するだろう。

何より、研究者は、論文投稿や助成金申請の際に、電子書式文書に個人の詳細情報をいちいち書き込む必要がなくなり、ORCID登録番号を打ち込むだけで済むようになるだろう。IDを打ち込むと、論文や引用のリスト、助成金、連絡先などの欄が自動的に埋まり、研究者情報が完成していく。ただ、ORCIDの趣旨は、こうしたサービスそのものを提供することにあるのではなく、ほかの組織や機関が独自のサービスを構築するために、このオープンアクセス型のORCIDデータベースを利用してもらうことにある。

これまでに、主要な研究組織や資金提供機関、大手出版社を含む約280の組織がORCID委員会のメンバーになっている(Nature Publishing Groupも委員会メンバーであり、ORCIDの理事会にも参加している)。また、米国立衛生研究所や全米科学財団など連邦政府関係の研究機関は、構想中のScience Experts Network Curriculum Vitae(研究者履歴書ネットワーク;SciENcv)という識別子導入計画とORCIDとの統合について検討を重ねているところだ。SciENcvは、公的研究機関の研究者の履歴書的なプロファイルを自動作成することをめざしている。こうしたプロファイルは、職員氏名録やウェブサイトの追加・更新、研究業績の評価基準の作成に用いられる。このシステムとORCIDを統合することで、例えば助成金を受けて作成された研究論文や特許を追跡したり、研究資金の二重取りをチェックしたりできるだろう。

大量のデータを解析して情報を抽出するデータマイニングや計量文献学の専門家たちも、ORCIDの持つ可能性に胸を躍らせている。ORCIDは、研究追跡用の複数のシステムを互いにリンクさせることができるため、そこから、研究者を中心に据えた科学の視点が生まれて、科学者ネットワークと彼らに関連する情報の解析が可能になると期待される。

ロスアラモス国立研究所(米国ニューメキシコ州)の学術図書館に所属するHerbert Van de Sompelは、ORCIDシステムを使って、「ツイートやブログ投稿、スライドシェアのプレゼン資料やSciTVのビデオなど、現代的な学術コミュニケーションの場に置かれた研究制作物と、その著者とをリンクさせて、新しい業績評価基準を作り出したい」と考えている。

しかし、そうしたことを現実のものとするためには、ORCIDは、資金提供する公的機関や大学や出版社はもちろん、データベース運営組織を含めたすべての研究関係者に、受け入れられなければならない。要するに世界標準になる必要がある。しかし現状では、多くの研究機関がORCIDの実際的応用価値を理解していないし、ORCIDの名を知らない研究者も多い。このことは、Ithaka S&R(ニューヨーク州にある非営利の研究コンサルタント組織)の報告書から明らかになっている。

「大学や研究機関に、なぜORCIDが彼らにとって重要なのか、もっとうまく伝える必要があります」と言うのは、2012年4月にORCIDの事務局長に任命されたLaure Haakだ。ORCIDは今後数か月のうちにスタートするが、相当数の登録者を確保するために、最初は大手の出版社や公的研究機関を頼ることになるだろう。出版社や研究機関であれば、研究者に対して、論文掲載や助成金申請のためにORCID番号を提供もしくは登録するよう要求できるからである。

研究者個人は、年内にORCID登録番号を無料で取得できるようになる。しかし、大学や企業その他の組織は、段階的に設定された会費を払うことになる。これまでは、実費支給の形で作業するメンバーと、57万4000ドル(約4600万円)の寄付、120万ドル(9600万円)の融資によって維持・運営されてきた。会費が順調に集まれば、年間収入は250万ドル(2億円)に上ると見込まれている。

研究者や研究関係者がORCIDの恩恵を実際に目にすれば、デジタルオブジェクト識別子(DOI)が論文やデータの標準識別子になったように、ORCIDも研究界における著者識別子のデファクト・スタンダード(事実上の標準)となるだろう。Haakはそう確信している。

(翻訳:船田晶子、要約:編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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