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惑星になれなかったベスタ

ベスタの南半球。中央が南極で、破線は重なり合う衝突盆地を示している。

NASA/JPL-Caltech/ UCLA/MPS/DLR/IDA

太陽系で2番目に大きな小惑星ベスタ。このほど、米国航空宇宙局の探査機ドーンによる観測の解析結果が報告され、ベスタは惑星の原型であり、惑星進化を理解するためのまたとない「標本」であるという予測が正しかったことが確認された1–6

ドーンは、2007年9月に打ち上げられ、2011年7月にベスタの周回軌道に入った。その後数か月かけて軌道を小惑星の上空200km以下に下げ、観測を行ってきた。その結果、ベスタは、ベスタ族と呼ばれる小惑星や、地球で見つかる隕石の6%を占めるHED(ハワーダイト、ユークライト、ダイオジェナイト)隕石群の起源であるという有力な証拠を得た。ベスタとベスタ族の表面組成が一致することや、ベスタの南極にあるクレーターを作った衝突がベスタ族とHED隕石の元となった岩石を宇宙空間へ放出させたとみられることが明らかになったのだ。

カリフォルニア大学サンタクルーズ校(米国)のErik Asphaugは、「隕石の化学分析やベスタ族の軌道研究から、ベスタ族とHED隕石がベスタ由来であるとはわかっていましたが、今回、その起源になった衝突クレーターまで特定できました。ドーンからのデータにより、今後、月や地球のクレーター形成や、もっと小さな小惑星や隕石について理解が深まるでしょう」と話す。

今回の観測では、ベスタは、太陽系で最初の固体ができたわずか約200万年後に生まれ、惑星形成過程の生き残りであることを示すデータも得られた。「惑星になるはずだったベスタが、形成された当時のままの姿をさらけ出しているのです。それを目にしているとは、なんて魅惑的なんでしょう。ベスタは、解明されていない惑星形成過程の中間点に位置しています。今後、何年にもわたってドーンのデータを解析することになるでしょう」。Asphaugはこう語る。

さらに、ベスタの南極のクレーターは1つではなく、新旧2つのクレーターが重なり合っていることがわかった。月惑星研究所(LPI:米国テキサス州ヒューストン)のPaul Schenkは、「ベスタは、思っていた以上に複雑でした」と言う。

この巨大な衝突によって、表面近くの軽量鉱物ユークライトははぎ取られて深部にある重い鉱物ダイオジェナイトが露出し、衝突盆地の中には、火星のオリンポス山(太陽系で最も大きな既知の山)に匹敵する中央丘ができた。「生じた地震波は、ベスタ大の小惑星上では、減衰するまでに何日もかかったでしょう。きっと、珍しい形態の地形や、見たこともない全く新しいタイプの地形があるはずです」とAsphaugは話す。

2つの衝突による衝撃波は、ベスタを鐘のように鳴らし、赤道を取り巻くいくつかのまとまりに分かれた谷を作ったらしい。「ベスタの赤道を取り巻く谷の一群は、南極の大きなクレーター、レアシルビア盆地の縁に平行して走っています」とAsphaugは話す。もう1つのもっと古くてやや小さいヴェネネイア盆地の縁にも、別の谷の一群が平行に走っているというが、見分けるのが難しい。「谷の並び方から衝撃波の影響がうかがわれますが、クレーターと谷の関係はよくわかっていません」とAsphaugは言う。

もう1つ、意外な事実も判明した。南極の2つの盆地は比較的若く、20億〜10億年前のものだったのだ。研究チームは当初、それらは40億〜35億年前のもので、太陽系の後期重爆撃期にできたと推測していた。この頃の小惑星帯は今よりもずっと密で、小惑星どうしの衝突がもっと頻繁に起こっていたと考えられている。一方、サウスウェスト研究所(米国コロラド州ボールダー)のBill Bottkeは、「ベスタ族では小さな小惑星が大きな小惑星よりもずっと多く、南極の2つの盆地を作った衝突が比較的最近であることを示しています」と指摘する。

ベスタ表面の明暗模様の原因もまだわかっていない。「これらは、小惑星帯のもっと遠いところからベスタに持ち込まれた物質によるか、小惑星内部の古代の火山活動の結果かもしれません」とSchenkは言う。

翻訳:新庄直樹、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120805

原文

Vesta confirmed as a venerable planet progenitor
  • Nature (2012-05-10) | DOI: 10.1038/nature.2012.10624
  • Ron Cowen

参考文献

  1. Russel, C. T. et al. Science 336, 684–686 (2012).
  2. Jaumann, R. et al. Science 336, 687–690 (2012).
  3. Marchi, S. et al. Science 336, 690–694 (2012).
  4. Schenk, P. et al. Science 336, 694–697 (2012).
  5. De Sanctis, M. C. et al. Science 33, 697–700 (2012).
  6. Reddy, V. et al. Science 33, 700–704 (2012).