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太陽の100万倍のスーパーフレア

スーパーフレアは太陽に似た星で見られる増光現象で、そのエネルギーは1033から1039エルグ以上に達し、数分から数日続く。太陽でもフレアは頻繁に起こっていて、黒点(太陽表面の平均よりも温度の低い領域)上の磁場によって起きる。しかし、太陽で観測されたこれまでで最大のフレア(1859年に英国の天文学者リチャード・キャリントンが観測したイベント)の総エネルギーは、約1032エルグにすぎない1。太陽に似た星はきわめて安定した天体であり、そこで太陽のケースの1000万倍、1039エルグものエネルギーを持ったスーパーフレアが起こるとは、まさに驚くべきこと、エキサイティングなことだ。京都大学大学院理学研究科附属天文台花山天文台(京都市)の前原裕之・教務補佐員らは、宇宙望遠鏡ケプラーの観測結果から365例のスーパーフレアを見いだし、Nature 2012年5月24日号478ページで報告した2

スーパーフレアの文献報告は、過去120年で約50件ある3–5。しかし、これらのイベントは常に特異な例外として無視されてきた。1989年になって、ようやくこれらの報告が集約され、このイベントは「あらゆるタイプの通常の星でみられる同種の現象を表している」と見なされるようになった3–5。そして、太陽表面で起こる通常のフレアと区別するため、スーパーフレアという名前が付けられた5

図1:磁場による接続
前原らが見つけたスーパーフレアを説明する1つの仮説は、強い磁場が原因というものだ2。磁場は、星とその星に非常に近い軌道にある木星に似た惑星をつないでいる。磁力線は惑星の軌道運動によってねじられ、強められる6。やがて磁力線は引き延ばされ、ねじられてちぎれるだろう。ちぎれた磁力線は粒子を非常に高いエネルギーに加速し、通常の太陽フレアに似た爆発的なイベントを起こしてエネルギーを放出するだろう。

スーパーフレアを起こす星は、伴星を伴わない中高年の星たちで、自転速度が遅く、中心核での水素の核融合によってエネルギーを得ている。そうした星は、専門的にはスペクトル型がF8型からG8型までの主系列星といい、私たちの太陽に非常によく似た「ソーラーツイン」と呼ばれる星たちも含まれている。スーパーフレアが太陽のフレアに似ていることは、スーパーフレアが磁気的効果が原因で起こることを示唆している。スーパーフレアの現在の標準的なモデルは、星とその周囲を回る「ホットジュピター」をつなぐ磁場が原因だとしている6-9。ホットジュピターは、木星に匹敵するかそれ以上の質量を持ち、親星との距離が太陽・木星間よりもはるかに近い惑星だ(図1)。

宇宙望遠鏡ケプラーが打ち上げられるまで、スーパーフレアの観測データは、質がばらばらだった。X線観測衛星のデータもあれば、分光観測、多色測光、目視観測データさえあった。そうした雑多なデータの集まりだったために、スーパーフレアの発生率を計算することや、観測された特徴の相関を調べること、統計的分析を行うことは不可能だった。最も明るいイベントの場合、再び起こるまでの期間の尺度は、平均して10年よりずっと長い。そのため、スーパーフレア観測の現実的な計画を立てるのは困難で、この分野の研究は行き詰まっていた。

前原らは今回、ケプラーの観測データを分析することによってこの行き詰まりを打開した2。ケプラーのデータは、10万個以上の星の明るさを、10万分の1の精度で数年間連続して測定したものである。前原らは、約8万3000個のG型主系列星を調べ、148個の星の365例のスーパーフレアの光度曲線(ある天体の明るさの時間的変化を示すグラフ)を得た。こうして、以前にはなかった豊富なデータが得られ、統計的分析も可能になり、どの星を観測すべきかが正確にわかったのだ。

ケプラーで見つかったスーパーフレアは、持続時間は1時間から12時間、明るさの増加は0.1%から30%、総エネルギーは1033エルグから1036エルグだった。ある典型的な星は、100日ごとに1035エルグのフレアを起こしていた。興味深いことに、前原らは、観測されたスーパーフレアはすべて、表面に大きな黒点を持つ恒星で起こっていることを見いだした。黒点があることは、その星の明るさが準周期的に変化することからわかる。この発見は、スーパーフレアが星の黒点に、ひいては磁場に関係していることを強く示唆している。もう1つの発見は、スーパーフレアを起こす星では惑星の前面通過がないらしいことだ。もしもすべてのスーパーフレアがホットジュピターと関係しているなら、約10%で惑星の前面通過が見られるはずなのに、である。したがって、スーパーフレアが起きるメカニズムは、まだはっきりしないままだ。

前原らの研究結果を得て、理論家たちが調べるテーマは山積み状態だ。一方、観測家にとっても、新たな研究テーマがたくさんあると私は考えている。スーパーフレアを起こす星の視線速度を測定すれば、木星に似た惑星があることがわかるかもしれない。スーパーフレアを起こす星のうち、最も明るいものは、その星の磁場を決定できるほど明るい。9日ごとにスーパーフレアが起こっている最も活発な星の高分解能スペクトルを測定すれば、ケプラーによるスーパーフレアの観測と同時に、カルシウムのスペクトル線(H線とK線)の形状変化を検出できるかもしれない。スペクトル線の形の変化から、スーパーフレアの速度、温度、エネルギーに関する情報が得られるだろう。

フレアは星の明るさの変化のある特定の段階で起こるのか、引き続いて起こるフレアのエネルギーと時間間隔は相関するのか、といった問題も、ケプラーのデータをさらに詳細に分析して調べることができるだろう。前原らの研究は、すべてのタイプの星にも広げることができる。データからフレアを探す仕事は、「ズーニバース」プロジェクト10(一般市民を対象にした科学研究参加プロジェクト)の一部である惑星ハンター計画のように、市民向けプロジェクトにうってつけだ。

一方で、私たちの太陽はスーパーフレアを起こしていない。歴史的な記録と地球物理学的な記録から、太陽は過去2000年間にスーパーフレアを起こさなかったこと、約1036エルグよりも大きなスーパーフレアはおそらくこの10億年間なかったらしいことがわかっている5。前原らは、太陽に似た星でスーパーフレアが起こっているのは0.2%だけなので、太陽でスーパーフレアが起こる可能性は低いことを示した。スーパーフレアの平均的な発生率(1035エルグのフレアが100日に1度)と、観測で得られたフレアの大きさの分布(べき乗則指数が約–2.0)を考慮すると、スーパーフレアが起こる星では1032エルグ規模のフレアはきわめて頻繁に起こっているはずだ。これに対して、太陽では1032エルグ規模のフレアが起きる頻度は約450年に1度で1,11、太陽はスーパーフレアを起こす星とは全く異なっている。このことは標準的モデルでも容易に理解できる。太陽系にはホットジュピターはないからだ。

スーパーフレアは恒星物理学にとって解明すべき重要な現象だが、それにとどまらない意味を持っている。スーパーフレアのエネルギーが、もしもホットジュピターが軌道を回る運動エネルギーに由来しているなら、1年に3回のスーパーフレアが起これば、ホットジュピターは10億年のタイムスケールで親星に向かってらせん状に落下していくことになる。また、スーパーフレアが放つエネルギーは莫大なので、その星の周囲のすべての惑星は、遠い未来に人間が移り住むには適さないだろう。一方で、もしそこに生命がいるならば、宇宙生物学者はスーパーフレアの及ぼす影響を考慮しなければならないだろう。スーパーフレアは有機分子を作るのに必要な高エネルギー放射として作用する可能性がある。だから、スーパーフレアがある恒星系には、巨大フレアの影響を避けるように進化した宇宙生命が存在するかもしれないのだ。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120826

原文

Startling superflares
  • Nature (2012-05-24) | DOI: 10.1038/nature11194
  • Bradley E. Schaefer
  • Bradley E. Schaeferは、米国ルイジアナ州バトンルージュのルイジアナ州立大学物理・天文学科に所属。

参考文献

  1. Tsurutani, B. T., Gonzalez, W. D., Lakhina, G. S. & Alex, S. J. Geophys. Res. 108, 1268 (2003).
  2. Maehara, H. et al. Nature 485, 478–481 (2012).
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  4. Schaefer, B. E. Astrophys. J. 366, L39–L42 (1991).
  5. Schaefer, B. E., King, J. R. & Deliyannis, C. P. Astrophys. J. 529, 1026–1030 (2000).
  6. Rubenstein, E. P. & Schaefer, B. E. Astrophys. J. 529, 1031–1033 (2000).
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  9. Lanza, A. F. Astron. Astrophys. 487, 1163–1170 (2008).
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  11. 11. Shea, M. A., Smart, D. F., McCracken, K. G., Dreschhoff, G. A. M. & Spence, H. E. Adv. Space Res. 38, 232–238 (2006).