News

ガンマ線バーストで初期宇宙を探る!?

ガンマ線バーストの想像図。バーストには、周囲のガスを通過していく過程で宇宙の化学的進化に関する情報が刻まれる。

ESO

ガンマ線バーストは、途方もなく遠い宇宙で生じた短時間の閃光だ。その放射は非常に強く、かつ高エネルギー(短波長)であり、かつては天文学で最も不可解な謎の1つだった。しかし、米航空宇宙局(NASA)などが打ち上げたガンマ線宇宙望遠鏡「フェルミ」やガンマ線バースト観測衛星「スウィフト」などのおかげで、現在では日常的に見つかる天体現象となった。天文学者たちは今、これを「新しいツール」にしようと取り組んでいる。まだはっきりとわかっていない初期宇宙の様子を調べるための「宇宙のストロボ」として、このガンマ線バーストを使おうというのだ。

ガンマ線バーストは宇宙のあらゆる方向からほぼ毎日のようにやってくる。この現象は、遠い場所で大質量星の中心核が重力崩壊を起こし、ブラックホールが形成されたあかしと考えられている。星が重力崩壊を起こし、ブラックホールが形成されるとき、大爆発が起こる。それに伴って生じるガンマ線バーストの強烈な光は、可視宇宙の果てからであっても地球に届く。なかには、約130億年前の宇宙初期の情報を運んでやってくる光もあるのだ。

閃光の発生メカニズムについて、理論はまだ発展途上の段階だ(「閃光のメカニズム」を参照)。それでも、ドイツのミュンヘンで5月に開かれた「2012年フェルミ/スウィフト・ガンマ線バースト会議」では、宇宙の化学的進化を調べる研究に、ガンマ線バーストで得られる情報をどのように生かすことができるか、議論が展開された。

ガンマ線バーストの光は、バーストが起きた銀河のガスの中を通過してくる。そのため、宇宙で最初に生まれた星の組成を教えてくれる「宇宙のロゼッタストーン」となるかもしれない。そう指摘するのがテキサス大学オースチン校(米国)の天文学者Volker Brommだ。「ガンマ線バーストは、ビッグバンから数億年しか経っていない頃の情報を運んでくるかもしれません。形而上学的な魅力も持っています。最初の星の光が生まれた瞬間に立ち会ってみたいです」と語る。

宇宙の最も遠いところにある天体には、そのほか、暗い銀河(地球からの距離が遠いため、暗く見える銀河)とクエーサーがある。クエーサーは、中心に超大質量ブラックホールを持つ、若い銀河の輝く中心核だ。レスター大学(英国)の天文学者Nial Tanvirは「初期宇宙からの使者という点で、ガンマ線バーストは、暗い銀河やクエーサーより優れています」と話す。ガンマ線バーストは遠方の暗い銀河よりもはるかに明るいため、分光器で成分波長に分けて化学的な吸収線を調べることで、より多くの情報が得られる。一方、クエーサーとの比較だが、光自体はガンマ線バースト同様に明るい。しかし、遠いクエーサーのスペクトルの形は不規則で、光が通過してきた空間に含まれている物質の情報を引き出すことは難しい。

ガンマ線バーストの観測で問題になるのは、発生が突発的で、短命なことだ。通常、最も高いエネルギーが持続するのは数秒間だけで、その短い閃光の後に、より波長の長い残光が続く。地上の望遠鏡でガンマ線バーストの残光を観測するには、宇宙望遠鏡がガンマ線バーストを検出したら、その知らせを受けてすばやく対応する必要がある。

2005年9月、スウィフトが見つけたガンマ線バーストは非常に明るく、ハワイにある口径8 mのすばる望遠鏡は、それにすばやく対応した。そして、バーストの発見から3日後以降に残光を検出し、そのスペクトルを得ることができた。このガンマ線バーストは赤方偏移が6.3と測定され、宇宙が現在の7%未満の年齢のときに起こったと推定された。スペクトルは詳細部分まで明瞭にとらえられ、この時期に水素ガスの再電離(宇宙の歴史の重要な転換点で、ビッグバン後に宇宙が冷えて暗くなった後に起こった)がほぼ終わっていたことが明らかになった。

しかし、宇宙の始まりにもっと近い時期を調べたいと、天文学者たちは考えている。ガンマ線バーストは、宇宙で最初の星の形成以来、発生し続けている。宇宙の最初の星は、おそらく大質量で、明るく、短命だった。そうした星が終わりを迎え、大爆発を起こすときも、ガンマ線バーストが起こるはずだ。その際のガンマ線を分析できれば、周囲のガス、すなわち宇宙のごく初期にあった物質の化学的組成が明らかになるだろう。

また、さまざまな時代の銀河のガンマ線バーストを分析することで、初期宇宙の組成がどのように進化したか、たどることもできるだろう。宇宙の初期に生まれた星は、ビッグバン直後にできた水素とヘリウムを燃やし、重い元素へと変える。天文学では、水素とヘリウム以外の元素はまとめて金属と呼ぶが、「では、こうした大きな星たちは、いつ金属を作り始めたのでしょうか」と、NASAゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)の天文学者でスウィフトの研究責任者(PI)であるNeil Gehrelsは問いかける。

初期宇宙で起こったガンマ線バーストの観測を飛躍的に向上させるため、ドイツのガーヒンクにあるマックス・プランク地球外物理学研究所の天文学者Jochen Greinerらは、「ガンマ線バースト光学・近赤外検出器」(GROND)を開発して、チリのラ・シヤにある欧州南天天文台(ESO)が運用する口径2.2 mの望遠鏡に取りつけた。GRONDのシステムは自動化されており、スウィフトからの警報が入ると、ESOの望遠鏡を制御下に置き、ガンマ線バーストが起こった距離をすばやく見積もる。

そして、ガンマ線バーストが起こった場所がはるか遠方であった場合には、Greinerらが、精密な分光測定ができる装置を持つ超大型望遠鏡VLTの天文学者に直接電話をかけて、詳しい観測を依頼する。VLTはESOがチリに建設した望遠鏡でラ・シヤからも近い。しかし、VLTの天文学者たちに仕事を中断してもらうよう、説得できないこともある。「ガンマ線バーストの観測が一分一秒を争うことを、彼らは理解してくれていないのです」と、Greinerはこぼす。

2004年に打ち上げられたスウィフトは、現在でもよく機能している。しかし、本来の計画期間はわずか2年であり、それもGreinerの懸念材料だ。でも、Gehrelsは「地上の望遠鏡で使える分光器が増えれば、スウィフトが発見したガンマ線バーストを最大限に利用できるはずです」と楽観しており、これまで以上にビッグバンに近い時期に生じたガンマ線バーストが検出されるのは、時間の問題だと考えている。「必要なのは1つのガンマ線バーストだけです。私たちにはまだ運がないだけです」。

(翻訳:新庄直樹)

閃光のメカニズム

何がガンマ線バーストを起こすのか

星の中心核がブラックホールに崩壊して、超新星爆発を起こすとき、星の自転軸に沿って短時間だが非常に明るい円錐状の光が噴き出す。これがガンマ線バーストだ。2012年5月にドイツのミュンヘンで開かれた会議で、天文学者たちはガンマ線バーストが起こるメカニズムの新しい描像を発表した。

ガンマ線バーストの閃光はわずかな時間しか続かないため、それを詳しく調べるのは容易ではない。理論研究者たちは数十年間、ガンマ線バーストのほとんどのガンマ線は、爆発から光に近い速度で外へ広がる衝撃波から発生していると考えてきた。ねじられ、圧縮された磁場が衝撃波の中に埋め込まれ、それが電子を加速し、シンクロトロン放射でガンマ線が放出される、という仕組みだ。

しかし、観測データが蓄積するにつれて、ガンマ線のほとんどは、爆発する火の玉(「ガンマ線バーストの構造」を参照)の高温の表面、つまり光球での熱放射として放出されていることがわかってきた。この描像によれば、ガンマ線バーストが輝くのは星と同じ理由だ。つまり、構成粒子の集団運動で発光する。ただし、粒子の運動エネルギーは数十億℃の温度に相当するエネルギーだ(http://doi.org/hwvを参照)。

ガンマ線宇宙望遠鏡「フェルミ」の計画責任科学者である、NASAゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)のJulie McEneryは、「私にとって光球モデルの登場は本当に大きな変化でした」と話す。

フェルミは2008年に打ち上げられ、この「変化」に貢献してきた。フェルミは先に打ち上げられたスウィフトに比べると、正確にガンマ線バーストの位置を決めることはできないが、ガンマ線バーストのスペクトル形状をそのガンマ線スペクトルのほぼ全域にわたって分析できる。同じチームのSylvain Guiriecは話す。「スペクトルの形はシンクロトロン放射と一致しません。明るいガンマ線バーストのスペクトルを私が10個ほど調べたところ、スペクトルには小さなこぶがあり、それが、熱放射が大きな寄与をしている印だったのです」。

E.H.

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120815

原文

Messages from the early Universe
  • Nature (2012-05-17) | DOI: 10.1038/485290a
  • Eric Hand