Editorial

中国における幹細胞治療の危うさ

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120731

原文:Nature (2012-04-12) | doi: 10.1038/484141a | Buyer beware

Natureの調査で、中国における未承認幹細胞治療の市場規模が明らかになった。誇大な宣伝や非現実的な文句が氾濫し、幹細胞治療の真の将来性が損なわれる懸念がある。

インターネット上には、いまや、ありとあらゆる病気やけがに対する幹細胞治療の広告があふれている。幹細胞による容姿の改善や、活力増進を通じた「若返り」をうたう会社もある。しかも、「幹細胞治療は研究を重ねる余地はあるものの、医療手段の1つとして認められている」と主張されている。だが、もちろんそれは誤りである。

しかし、主張が呪文のように繰り返されると、人々はそれが本当だと思ってしまうものだ。その顕著な例がインターネット上だ。また、治療が有望だと思わせる実際の場所もある。中国の診療所では、幹細胞を使った「治療」が現実に行われており、本物の医師や看護師が患者に幹細胞を注射しているのだ(Nature 2012年4月12日号149ページ参照)。幹細胞は、さまざまな配合で投与され、いろいろなルートで調達されている。医師たちは、これが患者に役立つと確信しているようであり、それは日常的な行為のように見える。

中国でも未承認治療の取り締まりは行われたことがあり、また中国以外でも幹細胞治療を受けることはできる。さらに、幹細胞会社は、州によって差のある米国内の規制につけこんで浸透している(Nature 2012年3月1日号13~14ページ参照)。しかし中国での問題のほうが、より広範囲に及んでいる。

このように実績がない未承認「治療法」を推進する人々は、幹細胞治療を、臓器移植など過去の画期的な治療法になぞらえる。医師は、幹細胞が効果を挙げることは保証できないと言いながら、その一方で処置の安全性は保証している。もし安全でないなら、そうした報告が公表されるはずだ、と推進派は話す。そして、だから試してはどうか、となるわけだ。

幹細胞技術が医療の主流に浸透していくことへの懸念は、こうした循環論法ゆえにますます高くなっている。患者と医師が幹細胞治療への信頼を強めれば、本物の臨床データを求めなくなり、その公表を強制される医師が減ってしまうからだ。

ここで、精神外科の歴史と比較してみよう。幹細胞治療を行う現代の医師と同じように、1930~1940年代の医師は、ロボトミーを実施することが急務であり、そのために臨床的証拠を要件とする必要はないと感じていた。結果の精査は選択的にしか実施されず、脳損傷の鎮静が統合失調症や神経疾患を安定させる「治療法」だと考えられることもあった。そして、推進派の1人は、ロボトミーの開発に果たした役割が認められ、1949年のノーベル医学生理学賞を共同受賞した。

結局、長期の追跡調査は行われなかった。それから数十年後、ロボトミーに批判的な人々が疑義を十分に積み上げ、その結果、ロボトミーは最終的に中止に追い込まれたが、この間、数千人の患者の脳がダメになった。ロボトミーは幅広い支持を得ていたため、実際には有害な影響がある点に人々が気付くのが遅れたのだ。問題というものは、探す努力をしなければ見つからないものだ。

当然のことだが、幹細胞治療については、数々の対照臨床試験など、真っ当な研究がかなり行われてきている。過去の失敗例からの連想で幹細胞の評判に傷がついているのなら残念だが、Natureの中国での調査によれば、幹細胞治療には、臨床的な証拠を上回る支持があり、治療に関する定型的な追跡調査が実施されていない。幹細胞治療によってがんや免疫疾患が起こっても誰もわからないのだ。

それでも、絶大な支持を得てインターネット上で宣伝される幹細胞治療を受けるために、海外から中国に集まる人々の流れは止まらない。診療所も、外国人がくつろげるような施設作りに努めている。患者であふれかえる中国の一般病院をしり目に、幹細胞の診療所には、整ったナースステーションがあり、各部屋には十分な照明設備があり、病室看護の質も高い。しかし、そこはすべて、対照臨床試験、信頼性の高いデータ、政府からの承認が欠けている場所なのだ。

診療所の献身的な医療担当者は、こうした問題点を洗い出す必要がある。本当に患者を助けたいのなら、幹細胞治療に効果があると思い込むだけでなく、効果があることを証明するための努力をしなければならない。

(翻訳:菊川 要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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