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振られた雄バエはやけ酒をあおる

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2012.120603

原文:Nature (2012-03-15) | doi: 10.1038/nature.2012.10227 | Rejected flies turn to booze

Ed Yong

セックスとアルコールによる報酬系の基盤には、たった1つの神経伝達物質が関与している。

imagebroker/Alamy

キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の雄は、雌の生殖器にすり寄り、腹部を軽くたたき、翅で歌を歌って、雌に求愛する。だが、その甲斐なく振られてしまうと、悲しみを酒で紛らわせるらしい。このほど、求愛に失敗したショウジョウバエの雄がアルコールを含む餌を好んで摂取することを、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)のUlrike Heberleinとハワード・ヒューズ医学研究所ジャネリア・ファーム(米国バージニア州アシュバーン近郊)のGalit Shohat-Ophirらを中心とする研究チームが発見した1

研究チームは、ハエの脳内にある神経ペプチドF(NPF)というシグナル伝達物質がこの行動の基盤となっていることを明らかにした。交尾を拒絶された雄はNPFのレベルが低く、そのためにアルコールに報酬を求めているようなのだ。しかし、人為的にNPFを投与すると、交尾できていない雄でもアルコールに背を向けるようになる。Heberlein は、「この研究は、セックスのような本能的報酬とアルコールのような薬物的報酬との分子的なつながりを示しています」と語る。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校(米国)でアルコール中毒を研究しているTodd Thieleによれば、セックスとアルコールの双方で同じ物質が報酬系の基盤になっている可能性が発見されたのは重要なことだという。今回の結果は、本能的報酬を支配する神経経路をアルコールが強奪して乗っ取るという考え方にぴったり合う、とThieleは説き、「アルコール依存症につながる可能性がある成果」とたたえる。

ヒトの脳では、NPFと似たシグナル伝達物質の神経ペプチドY(NPY)が働いており、NPYレベルとアルコールや習慣性薬物の嗜癖との関係を調べる研究がすでに始まっている。

セックスと薬物とNPF

Shohat-Ophirは、雄を交尾の済んだ雌とめあわせ、4日間にわたって繰り返し交尾が拒絶されるようにした。すると、拒絶された雄は通常の餌よりもアルコールが添加された餌を好むようになった。一方、交尾に成功した雄にはそうした嗜好は認められなかった。また、拒絶された挙句にようやく交尾することができた雄からは、アルコール嗜癖が消えた。

次に、ハエの脳内でNPFの産生と受容を行っている部分を操作して、NPFを減らすとハエがアルコール入りの餌に向かうようになり、NPFを増加させるとその嗜好性は見られなくなることがわかった。さらに、特定の匂いとNPFの放出が関連するようにハエの条件付けを行ったところ、ハエはその匂いに引き寄せられ、交尾やアルコールがなくてもNPFは満足を与えていると考えられた。

同様に、哺乳類ではNPYが報酬系の通貨として働いている可能性がある。ストレスの多い事象はマウスやラットのNPYレベルを低下させ2、NPYレベルが低下したマウスやラットはアルコールの摂取量が増加するのだ3

NPYは、ネガティブな経験と薬物で報酬系を満足させようとする行為を結びつけている可能性がある。そうだとすると、ハエにNPFを与えてアルコールに向かわないようにさせるように、人もNPYのレベルを高めることによってそのつながりを断ち切ることができるかもしれない、とHeberleinは推測する。Heberleinによれば、自殺した人4や心的外傷後ストレス障害(PTSD)にかかった人5の脳でNPYレベルが低い傾向があるというが、どちらが原因でどちらが結果なのかは判然としない。

「受容体の機能に影響を与えるNPYと薬物は、すでに、不安、PTSD、気分障害、肥満に対して臨床試験が行われており、アルコール中毒の治療にも使える可能性が示唆されています」とShohat-Ophirは説明する。

つながりのすべてが明らかにされたわけではない。例えば、アルコールを摂取したハエが求愛行動をしなくなるわけではない。Shohat-Ophirは、広く報酬と関連付けられているドーパミンを分泌するニューロンをNPFが活性化させるのではないかと考えており、NPFが脳内で何をしているのか、その分子機構を解明したいと思っている。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Shohat-Ophir, G., Kaun, K. R., Azanchi, R. & Heberlein, U. Science 335, 1351–1355 (2012).
  2. Thorsell, A., Carlsson, K., Ekman, R. & Heilig, M. Neuroreport 10, 3003–3007 (1999).
  3. Thiele, T. E., Marsh, D. J., Ste Marie, L., Bernstein, I. L. & Palmiter, R. D. Nature 396, 366–369 (1998).
  4. Widdowson, P. S., Ordway, G. A. & Halaris, A. E. J. Neurochem. 59, 73–80 (1992).
  5. Rasmusson, A. M., et al. Biol. Psychiatry 47, 526–539 (2000).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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