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国立大学で若手研究者が減少傾向

内閣府の総合科学技術会議事務局によると、国立大学全体の常勤教員数(終身・任期制)は1983年の5万人から2010年には6万2000人に増加。一方、35歳未満の若手教員数は、2000年まで1万人超で推移していたが、その後の10年間で約6700人にまで減少した。つまり、2001年以降約30%も低下したことになる(図参照)。

若手研究者が減少している原因の1つには、定年を65歳に延長する大学が相次いだことが挙げられる。少子化の影響が出始めるのは「2000年代半ばに大学院に入った人が就職市場に出てくるこれから」であり、「最近までは、若年人口の減少以外の要因が大きい可能性が高い」と筑波大学・大学研究センター(東京都文京区)の教授、小林信一は話す。

国立大学の年齢階層別教員数の推移(全分野)

上述の事務局で、「国立大学法人等の科学技術関係活動に関する調査結果」の作成に携わっている内閣府参事官の廣田英樹は、この20年間における国の政策に大きな問題があると指摘する。1990年代に政府は大学院重点化政策の名の下に博士課程の定員を拡大し、同時に教員の採用も増加したが、2000年に入って「研究振興とは全く関係ない」コスト削減計画に国立大学が巻き込まれ、政策の方向が真逆に変化したという。2001年からの第10次の国家公務員削減計画に始まり、法人化以降は公務員の総人件費改革の一環として、国立大学は昨年度まで毎年1%の人件費削減を要請されてきた。さらに、本国会で成立した国家公務員給与削減法案に基づき、国立大学は新たに今後2年間、給与削減を求められる予定だ。

「拡大期に多数採用した若手教員が高齢化し滞留する一方で、2001年以降は教員の新規採用の余地が縮小し、そこに同時期以降増加したポスドク研究者層が正規教員への採用待機群として高年齢化しつつ累積するという、構造的かつ複合的な状況になっています」と廣田は言う。「こうした事態を生んだ根本原因は、大学が自らの長期的な視点に基づいて人事管理を行うことを制約されてきたからにほかならないと思っています」。

人件費削減のプレッシャーの中、大学によっては退職者の補充をしない、諸手当を廃止するなどの措置をとっているものの、中堅研究者の雇用人数が増えたために、若手までポストが回らない。廣田のレポートによると、1980年代半ばには教員の採用者全体の8割以上を35歳未満の者が占めていたが、2010年には全体の半数を割るまでに低下したという。

一連のコスト削減政策のほかにも、運営費交付金の毎年の減額も要因として指摘する専門家は多い。政府は運営費交付金を減らす代わりに競争的資金を増額し、若手のキャリア育成を促してきたが、「競争的資金は期限付きのプロジェクトにかかわることが多いことから恒久的なポストにつながらず、若手教員の継続的な雇用とはなりづらいのです」と、東京大学の理事・副学長の前田正史は言う。

小林によれば、研究費配分の見直しが必要な時期に来ているという。「予算配分が集中化しているため、限られた大学・分野でしかポストが見つからない構造になっています。そこで固定的に人員増を行えばいいのですが、人件費削減のためポスドクを増やすことで対処しているのが現状です。基盤的経費配分をしていた従来のほうが若者に広くチャンスが与えられていました」と小林は話す。「このままでは、あと10年もすれば人口減少の影響が出てきて、研究を支える人がいなくなるという事態に直面するでしょう」。

小林は、研究生産性への悪影響はすでに出始めているという。エルゼビア社のSciVerse Scopusデータベースによると、2010年の日本の論文数は2006年比で4.3%減の11万2000本であるのに対し、英国は12.7%増の12万4000本、ドイツは15%増の11万8000本と着実に数字を伸ばしている。

文部科学省も若手研究者減少の問題を認識しており、優秀な若手研究者を対象とした「テニュアトラック普及・定着事業」などを通じて雇用改善に努めている。また、今後数年間で人口が多い団塊世代が次々と退職を迎えるため、教員の年齢構成が改善することを期待する向きも多い。

しかし、安定したポストの数が増えない現在の構造では、「団塊世代の退職で事態が好転するかどうかは不透明」だと廣田は言う。「一時期に人が抜けることを好機として安易に大量採用をしたのでは、また近い将来に滞留を再生産することになります。そういう意味で、この問題は長期的に辛抱強く改善していくしかないと思います」。

(執筆者本人により一部加筆、再構成しております。)

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120605

原文

Numbers of young scientists declining in Japan
  • Nature (2012-03-20) | DOI: 10.1038/nature.2012.10254
  • Ichiko Fuyuno