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再生医療でマウスの全身を治療!?

生体工学で作製された再生毛包原基をヌードマウスに移植すると、発毛した。この技術は男性型脱毛症の救世主となるか。

写真提供:辻 孝/東京理科大学

4月に発表された3つの研究によると、新しい細胞をマウスに導入すれば、毛髪であろうと目であろうと心臓であろうと、異常細胞と置き換えることができ、正常機能の回復に役立つことが示された。研究者たちは、現在、この手法がヒトでも機能するかどうかを確認するために、臨床試験をめざしている。

毛髪を生やす

1つ目は、成体マウスおよび脱毛症のヒトの、上皮性幹細胞と毛乳頭細胞から作製した毛包原基をヌードマウスに移植して正常な毛包を再形成させ、発毛させたという研究だ1。研究を率いた東京理科大学(千葉県野田市)の辻孝は、この技術により男性型脱毛症の治療が期待できると言う。

毛は生える部位や機能によって種類が異なるが、今回、体毛由来の幹細胞からは軟毛が、髭由来の幹細胞からは硬毛が生えることが確認できた。また、発毛に要した期間(3週間)も正常な発毛期間と同じだった。さらに、生えた毛は、正常な毛周期を示し、皮膚下で筋肉や神経との結合も確立。毛を逆立たせる神経伝達物質のアセチルコリンに応答して、立毛することもわかった。

ニューヨーク大学(米国)の皮膚科医、伊藤真由美は、今回の研究はヒト細胞を用いて毛包を再構築した最初の報告であると言う。しかし、この技術の有効性が認められるには、成長できる毛包の数を増やせることも示す必要がある。

夜に見える

2つ目は、網膜の遺伝性疾患、先天停止性夜盲症のマウスの視力が一部回復したというものだ2。ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)の遺伝学者Robin Aliらは、夜間視力に機能する桿体前駆細胞を、薄暗がりでの視力に必要なタンパク質α-トランスデューシンを欠損するマウスの網膜に移植した。網膜に統合されたのは、移植した約2万6000個の桿体細胞(通常、1つの眼には600万個の桿体細胞がある)のうち10〜15%だったが、視力は改善した。

さらにAliらは、回転回折格子の前にマウスを置き、暗線と明線のコントラストの変化、および線の太さの変化に対する感受性を検討した。すると、移植マウスは、移植を受けなかったマウスよりも感受性が高まっていた。また、移植マウスは、視覚的な合図で脱出ルートを示した水迷路からもより早く脱出できた。

現在、Aliらは、ES細胞を使い、黄斑変性(もう1つの視細胞である錐体細胞に損傷がある)での効果を検討している。

拍動する心臓

3つ目は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)グラッドストーン心血管疾患研究所のDeepak Srivastavaらが、心臓の繊維芽細胞を直接心筋細胞に再プログラム化したという研究だ3。Srivastavaらは、成体マウスにレトロウイルスを用いて3つの転写因子を導入して再プログラム化を誘導し、心機能の改善に成功したのだ。

アドバンスド・セル・テクノロジー社(米国カリフォルニア州サンタモニカ)の再生医療専門家Robert Lanzaは、再生医療は大きな発展を遂げており、きわめて有望であると将来を楽観している。「この3つの論文は氷山の一角です。私たちが老いるまでには、医師が『脱毛症になったり、失明したり、血管系の疾患のため脚を切断さえしたりしていたことが信じられますか?』と回想しながら、細胞を注射し、治療しているでしょう」。

翻訳:三谷祐貴子、編集:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120602

原文

Regenerative medicine repairs mice from top to toe
  • Nature (2012-04-18) | DOI: 10.1038/nature.2012.10472
  • Leila Haghighat

参考文献

  1. Toyoshima, K. et al. Nature Commun. 3, 784 (2012).
  2. Pearson, R. A. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature10997 (2012).
  3. Qian, L. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature11044 (2012).