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想定外の巨大地震がなぜ続くのか

最近、巨大地震の発生回数が異常に多いと感じているのではなかろうか? そう、実は2004年12月から今日までにマグニチュード8以上の「巨大地震」が発生したペースは、それ以前の100年間に比べて、実に2.5倍にもなるのだ。2004年12月26日には、インドネシアのスマトラ島沖でマグニチュード9.2のスマトラ–アンダマン地震が発生し、インド洋周辺地域を襲った津波で23万人以上が命を落とした。これを含めて、2004年12月から今日まで、マグニチュード8.5以上の地震も5回発生している。2011年3月11日に日本で起こったマグニチュード9の東北地方太平洋沖地震では、発生した大津波で甚大な被害がもたらされた。

長期的に見ると、過去にもこのように地震活動が活発化していた時期があった。1950年から1965年にかけて、マグニチュード8.5以上の地震が世界中で7回も発生し、大きな被害を出しているのだ。観測史上最大の9.5というマグニチュードを記録した1960年のチリ地震も、この時期だった。ただ、この時期の巨大地震と最近の巨大地震とで大きく違うのは、地震学者が断層の破壊過程を定量化できるようになっている、というところだ。地面の動きを記録する観測装置と、そこから情報を抽出する分析法のほとんどは、1970年から2000年までの間に開発された。この時期は地震活動が落ち着いており、巨大地震はほとんどなく、マグニチュード8.5を超える地震は1回もなかった。つまり、地球物理学は、最近の巨大地震の頻発にぎりぎり間に合うタイミングで、研究準備体制を整えることができた。

最近の巨大地震のほとんどすべてが、既存の理論に反するものだった。起こりうる場所、時期、その結果など、すべてが理論と違っていた。ただ、巨大地震に関する詳細なデータを収集できるようになってからまだ日が浅いことを思えば、これは当然のことかもしれない。

最近の巨大地震はいずれも、海洋プレートがほかのプレートの下に潜り込む「沈み込み帯」の近くで発生している。沈み込み帯では、摩擦によってプレートの一部が固着しているが、そこに蓄積した歪みが限界に達すると一気にすべり、周期的に地震が発生する。プレート境界には高温の岩石やすべりやすい堆積物が存在する場所があり、こうした領域の摩擦は小さいため、我々地球物理学者は、沈み込み帯では巨大地震は起こりにくいだろうと考えてきた。また、断層破壊が起きたばかりの領域では、しばらく次の断層破壊は起こらず、前回の大地震から長い年月が経過している領域が、近いうちにすべる可能性が最も高いだろうと考えていた。さらに、1つの地震が別の地震を誘発する範囲についても、狭いはずだと評価していた。我々の分析手法は、数秒間で終わる断層破壊を扱うために開発されたものであり、近年のいくつかの巨大地震のように数分間にもわたって続く断層破壊を想定していなかった。

研究者たちはこれまで、データや資源が限られた中で次の地震に備えなければならなかったため、どの断層帯が最も危険であるかを合理的に決定しようと努力してきた。しかし、詳細な地震記録は1世紀分しかなく、巨大なすべりが起こりうる領域を無視してしまうこともあった。地球物理学者は、最近の巨大地震から、できるだけ多くのことを、できるだけ速やかに学ぶ必要がある。1950~65年に比べて、世界の人口は増加している。これは、当時よりも多くの人々が、現在および将来の地震の危険にさらされていることを意味する。

地震が地震を呼ぶ

よく問題になるのは、最近の巨大地震どうしの間に、直接的な関連があるかどうかという点だ。過去110年間の地震記録を見ると、こうした地震活動の集中は、単なる統計的な揺らぎにすぎない可能性がある。巨大地震の頻度は高まっているものの、それほど大きくない地震(例えば2010年1月12日にハイチに壊滅的な被害をもたらしたマグニチュード7の地震など)に関しては、発生頻度は高まっていないからである。とはいえ、巨大地震は、狭い範囲で、ほかの地震に影響を及ぼすことがある。例えば2004年のスマトラ–アンダマン地震は、2005年と2007年に同じプレート境界に沿って発生した巨大地震を誘発したと考えられている(『想定外のシナリオ』参照)。なお、スマトラ島沖のプレート境界には、1797年からずっと断層破壊が起きていない領域がある。この領域は、固着域として歪みを蓄積しているように見えるため、巨大地震が発生する可能性が指摘されている。

次に、巨大地震がもっと広い範囲に影響を及ぼす可能性、つまり、地球の反対側で地震活動を誘発して、数年後に別の巨大地震を引き起こすことはあるのだろうか。これについては意見が分かれている。現時点では、巨大地震による地震波が直接のきっかけとなったと考えられる遠隔地での地震は、小規模なものしか知られていない。しかし、遠隔地の地震がきっかけとなって、次の巨大地震の発生時期が早まる可能性はありうる だろう。

我々は、誘発地震のことをまだ十分には理解していない。例えば、2006年11月15日に、千島列島を乗せたプレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいるプレート境界で断層破壊が起き、マグニチュード8.4の地震が発生した。この地震は、沖合100 kmの太平洋プレート内で小さい地震を数回誘発した。これは、よくある出来事だ。しかし、その2か月後、同じ領域でマグニチュード8.1の地震が発生したのだ。このように、巨大な余震が、どのくらいの頻度で、いつ発生するかを確実に予測する理論はまだない。2009年9月29日には、さらに風変わりな誘発地震が発生した。トンガ海溝の下の太平洋プレート内でマグニチュード8の地震が発生し、その断層破壊がまだ続いている間に、南に50 km離れたところのプレート境界で第二のマグニチュード8の地震を誘発したのだ。この対になった2つの地震は巨大な津波を引き起こし、サモア、米領サモア、トンガに大きな被害をもたらした。

我々は、誘発地震によって早期警報の限界を突きつけられている。一部の研究者は、最初に起こる断層破壊には、最終的な断層破壊の規模を示唆する特徴があると主張してきた。しかし、近年の地震によって、そうした希望は徐々に打ち砕かれていった。ペルーで発生した2007年のマグニチュード8.0の地震と2001年のマグニチュード8.4の地震は、いずれもマグニチュード7.7の断層破壊とともに始まったと考えられているが、最初の断層破壊がおさまった後、隣接領域に、より大きなエネルギー解放を伴う地震を誘発したと推測されている。2011年に日本で発生したマグニチュード9.0の東北地方太平洋沖地震も、マグニチュード4.9の小さい地震から始まったようである。少しでも早く警報を出そうとする我々の努力は、このような地震拡大の不規則なパターンに翻弄されている。

断層破壊のメカニズム

過去10年間で最初に発生した想定外の巨大地震である2004年のスマトラ–アンダマン地震では、プレート境界に沿って1300 kmにもわたる予想外の断層破壊が起きた。断層破壊は、地震学者がプレートは沈み込まずに水平方向にずれるだろうと予想していた領域にまで達していた。持続時間は非常に長く、断層は7分30秒以上にわたってすべり続けた。地震の際のすべりを決定する手法の多くは、より小規模、すなわち30秒程度で終わる地震をもとに開発されたものだった。

小規模な地震では、震源から遠く離れた場所に設置された地震計は、最初に検出されるP波と、その数分後に検出されるS波という、2つの明確に異なる地震波を記録する。ところが、スマトラ–アンダマン地震の断層破壊では、S波が到達し始めたときに、まだなおP波が到達し続けていたため、2つが一緒になってしまった。これをきっかけに研究者たちは、ほんの数週間でアルゴリズムを修正した。この新しいプログラムは現在広く用いられていて、研究者や政府機関は、どんなに巨大な地震でも発生から数分から数時間で断層破壊を分析できるようになっている。

2007年4月1日(現地時間では4月2日)、南太平洋のソロモン諸島で、プレート境界上の予期せぬ場所で断層破壊が起きて、マグニチュード8.1の地震が発生した。それは、中軸谷(新しい海洋地殻が形成されている海嶺)が、沈み込み帯と交差している場所だった。通説では、中軸谷の岩石は高温で変形しやすいため、固着により巨大地震を引き起こすほどの歪みを蓄積することはないと考えられていた。しかし、地震波を分析した結果、太平洋プレートの下に沈み込んでいる2枚のプレートが別々の方向にすべっていたことがわかった。断層破壊は、3枚のプレートが出会う点をまたぐように起きていた。これを受けて現在では、ペルーからトンガを経てバヌアツまでの領域で、このような海嶺が沈み込んでいる場所のリスクの再評価が進められている。

2010年2月27日にチリで発生したマグニチュード8.8の地震では、プレート境界領域で断層破壊が起きたが、その場所は1835年にも断層破壊が起きたところだった(チャールズ・ダーウィンは、このときの地震を経験している)。我々は、過去に発生した地震のデータに基づいて大地震が起こりそうな場所を予測するようになった。そのため、プレート境界が明確に区画化されており、「個々の区画では、同じくらいの規模の地震が繰り返し発生する」と考えるようになっている。しかし、必ずしもそうとは限らない。確かに2010年のチリ地震は、1835年に断層破壊が起き、今後も大きなすべりが起こると予想されていた領域の中心部分から始まったのだが、主要なすべりが起きた領域は、もっと北の、より最近である1928年に断層破壊が起きた場所だったのだ。

2010年10月25日にスマトラ島沖で発生したマグニチュード7.8の地震で予想外だったのは、沈み込み帯の中で最も浅い部分で断層破壊が起こり、巨大な津波が発生したことだ。断層の浅いところのプレート境界にある、弱くて変形しやすい堆積物は、弾性歪みの蓄積を防ぐことにより大規模なすべりを食い止めると考えられてきた。ところがそうではなかったのだ。我々は今や、リスク評価の際に、この種の地震を考慮しなければならなくなった。なぜならこの地震は、大津波を引き起こす地震が、これまで考えられていた場所よりも海溝に近い場所で発生しうることを示しているからだ。

同様に、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震も、歴史的にはるかに小さい地震しか起きていなかったプレート境界で発生した。この断層の浅い部分には、大きな弾性歪みが蓄積するとは考えられていなかった。ところが、今回の地震では、浅いところで40~80 mもの大きなすべりが発生しただけでなく、その隣の、2005年に断層破壊が起きたばかりの領域にもすべりが生じた。その結果、地震全体の規模が大きくなり、津波対策で想定していた以上に大きな津波が発生してしまったのだ。

苦い教訓

残念なことに、我々は苦い経験を通して地震に関する理解を深めることが多い。それでも進歩はしている。

例えば、特定の領域で大地震が起こるリスクを予想する能力は向上している。スマトラ島、チリ、日本では、巨大地震が発生する前から、歪みの蓄積の測地学的観測により、大地震が起こりそうな領域がマッピングされていた。日本の太平洋沖で行われていた海底観測は、もう少しで2011年の地震で見られたような、浅い断層における大きなすべりの可能性を指摘できるところまできていた。歪みが蓄積している場所を観察する時間が十分にあったなら、東北地方太平洋沖地震とその津波の規模は「想定外」ではなくなっていたかもしれない。それでも日本は、よく整備された地震観測網からのデータを迅速に分析して、早期に警報を発することができた。この警報システムは、さらに改良できる可能性がある(「次の津波に備える」参照)。

警報システムを改良する方法の1つは、地震観測網をもっと広げることである。日本で地震活動を監視するために高密度に設定されている地震計とGPS装置は、2011年の巨大地震を理解するのに大いに役立った。日本以外の地域は、もっと観測網を充実させる必要がある。特に重要なのは沖合だ。米国では、オレゴン州とワシントン州の沖合で巨大地震が発生する可能性を評価するための努力が続けられている。この場所では、1700年にマグニチュード9の地震が発生したことがあるからだ。

我々は今後も、想定外の巨大地震に不意をつかれることだろう。しかし、我々の意識には、すでに重大な変化が起きている。これまで大地震が起こるはずがないと思い込んでいた領域で、より大きな地震が起こる可能性を考えねばならなくなった。最近の多くの巨大地震によって初めて、我々はこの理解困難な現実を知ったのだ。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2012.1205s19

原文

Seismology: Why giant earthquakes keep catching us out
  • Nature (2012-03-08) | DOI: 10.1038/483149a
  • Thorne Lay
  • Thorne Layは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(米国)地球惑星科学部門に所属。